拳をぶつけ合う
「ここにいたのか、翔」
「煌か…………」
無事に幼馴染の煌とも再会を果たしたその夜、翔は屋根の上で寝転がっていたところに煌が声をかけてきて起き上がる。
「何か用か?」
「そっちこそ、僕に言うことがあるんじゃないかな?」
「………………………………悪かったよ」
バツ悪そうに謝罪を口にする。
ネイション王国で強制的のこの世界のどこかにランダム転移させたことにたいして謝罪すると、煌も満足そうに頷いて翔の隣に腰を下ろす。
「君は本当に勝手だよ。自分で勝手に決めて、自分だけ危険な目にあって、僕達の気持ちをそっちのけにする。自分勝手にも限度があるよ」
「………………………………」
「本当なら再会して一発ぶん殴ってやろうと思ったけど、止めておくよ。ローレルのことだからきっと殴る以上に辛い罰を君に与えたと思うしね」
相変わらず見ていたかのような物言いだが、本当の事の為に否定はできない。
ローレルが涙を流す。それ以上に辛い罰などない。
「さて、謝罪も貰ったことだし、これは君に返しておくよ」
「ああ」
煌が取り出したのはかつて翔が煌に強引に渡したネイション王国にあった勇者召喚の魔法陣を写した羊皮紙だ。
元の世界に帰れる唯一の方法。これまで研究してきたが、この魔法陣が手元にあれば何かわかるかもしれない。翔は魔法陣を写した羊皮紙をしまっておく。
「これからどうする?」
「んなもん簡単だ。元の世界に戻る、それだけだ」
翔の旅の目的は二人を探すこと。見つかったのならこれ以上旅をする意味がない。
だから後は元の世界に帰る為に尽力を尽くすだけ。
だが―――
「煌、お前の事だからこの世界をどうにかしてやりたいと思ってんだろう?」
「………………………………ハハハ、やっぱりわかる?」
「わかりやすいんだよ、ボケ」
それは翔だけの考えで煌は違う。
どうしようもないお人好しである煌ならなんとかしてやりたいと思うのは当然のことだ。
「関わるだけ無駄だ。例え、魔族との戦争が終わっても次に始めるのは人間同士の戦争だ。領地拡大、大義名分、自己満足の正義を満たすが為の戦争が始める。俺達がいた世界の歴史のように、な」
魔族との戦争に勝利を収めても平和は訪れない。
人間の欲には際限がない。殺してでも手に入れようとする輩が現れる違いない。
「この世界がどうなろうが俺達には関係のねえことだ、ほっとけ。余計なことをされる前にさっさと元の世界に戻るぞ」
「………………………………そうだね。君が言っている事は正しいよ。けどごめん。それはできない」
「あぁ? 勇者と呼ばれて浮かれてんのかよ?」
「違うよ。僕は自分のことを一度でも勇者と思ったことはない」
「だったらなんだ? 見過ごせないとでも抜かすのか?」
「うん、僕はこの世界をどうにかしてあげたい」
その言葉を耳にした翔は深い溜息を吐く。
「………………………………お前、この世界の事、リュマダや十二神の事は知ってんのか?」
「勿論。リュマダの使徒とも戦った」
煌は既にこの世界の事情については把握している。そのつもりで翔は話を続けた。
「魔王を倒したところでリュマダはどうする? あのクソ神がいる限りは魔族はまた現れる。神殺しでもするつもりか? だったら付き合ってやるぜ? 俺もそのクソ神の顔面に一発入れなきゃ気が済まねえしな」
「それは心強い」
神をも恐れぬ発言に頼もしく笑みを浮かべる。
「だけど、君の言う通り例え魔王を倒しても神を倒しても戦いは無くらない。それは僕達の世界の歴史がそれを証明している。だからこれは僕の我儘なんだ」
「そうかよ………………………」
こいつも変わらない。翔はそう思った。
子供の頃からそうだった。困っている人がいたら誰であろうと助けようとする。今のなってもそれは変わらないお人好しの勇者様だ。
「その為にも僕は旅を続ける。君とローレルは先に元の世界に戻っていてほしい」
できれば迎えに来て欲しいけど、と簡単に言う煌に翔は呆れる。
「馬鹿か。お前一人残ったところで何ができる? どうせお前の事だ、誰かを庇って死んでもおかしくねえ」
「う………………」
「だから付き合ってやるよ。お前が死んだらあいつが泣いちまうだろうが」
「翔………………………」
「だが勘違いすんなよ。俺はこの世界の奴等なんかどうでもいいし、お前がどうくたばろうが知ったことじゃねえ。だが、お前等が死んだら俺のこれまでも苦労が水の泡になっちまうから付き合ってやるだけだ。そこを間違えんじゃねえぞ」
「はいはい、ツンデレ乙」
「うるせぇ」
変わらず素直じゃない翔に苦笑いを浮かべる。
「なら、僕の背中を頼むよ、親友」
「ハッ、獲物を全部横取りしてやるよ、勇者様」
二人は互いに拳をぶつけ合う。




