再会
「翔、起きてください。翔」
眠りについた意識を懐かしい声によって起こされる。瞼を開けてゆっくりと意識がはっきりし始めて翔はようやくその声が誰なのかわかった。
「おはようなのです。翔」
忘れる訳がないその笑顔と声。
なにもかもが楽しいような天真爛漫な笑顔に優しい声音に起こされた翔はその手を伸ばして………………。
その頬を抓った。
「いひゃいいひゃいいひゃい!! 翔!!」
「ああ、この間抜け顔は間違いなくお前だわ………………俺の知ってるローレル・ラウルスだわ」
ローレルの頬を抓って伸ばしてぐりぐりとする翔にローレルは涙目。
少しして翔はローレルを解放すると本人は「う~」と唸りながら抓られた頬を擦る。
「酷いです、翔……………………せっかくの感動の再会が台無しなのですよ」
「うるせぇよ。お前の間抜け顔を見たら感動なんてどっか行くわ」
「うぅ~翔は相変わらずのツンデレです………………………」
「誰がツンデレだ、誰が」
呆れる翔は相変わらずのローレルに嘆息する。
「生きてたんだな………………………」
「当然なのです。さぁ、再会を祝して抱擁しましょう!」
「鬱陶しいわ」
抱き着こうとするローレルの顔を鷲掴みにして阻止する。
「俺はてっきり自爆オチでもしてたと思っていたぞ。馬鹿で、家事一つまともに出来ない天然がよくもまぁ、この弱肉強食の世界で生き残れたもんだ」
「むぅ~自爆オチとは失礼ですよ! それに私がいつまでも家事一つできない女と思って貰っては困ります!」
「ほう?」
「朝は自分で起きれるようになりました!」
「当り前のことを胸張って言うんじゃねえ。あと、それは家事には入らねえ」
「アウチ!」
その豊満な胸を張るローレルに左手でデコピンする。
「うぅ…………………そう言う翔だってなんですか? その眼帯に義手は。どこの中二病患者ですか? それにサーちゃんとハルハルから聞きましたよ? このハーレム野郎! ペッ、リア充爆発しやがれです!! アイタタタタタタタタタタタタタタタ!!」
「誰が中二病患者だ、誰がハーレム野郎だ。あぁ?」
義手の左手で容赦なくアイアンクロー。ローレルは悲鳴を上げるも。
「羨ましいのですよ!! 魔法使い、聖職者、獣人ロリ、エルフ! 立派なハーレムを形成して羨ましいのです! 翔、ハルハルを私に下さい!!」
「お前のそのオタク根性を頭割って治してやろうか? つーか、ハルハル?」
「ハルちゃんです!」
「ああ………………………」
締め上げられながらも変わらないその態度に一層に力を増して締め上げる。
「潰れます潰れます! 私の頭がトマトのように真っ赤に潰れちゃいます!!」
「そうだな、せっかくの宿をお前の血で汚したら掃除も面倒だな」
「あ~う~」
解放されて締め上げられていた顔を押さえながら床にゴロゴロと転がる。
「で? なんでお前がこの街にいんだ?」
「………………………………うぅ、顔が痛いのです。少し前にカオドンと一緒に森の中をさ迷っていたらまっくろくろすけに出会ってこの街に行くように言われたのです。あ、カオドンは古代竜のカオス・ケイネス・ドラゴンのことです」
「そのまっくろくろすけってブランクって名乗ったか?」
「はい、そう言っていましたが、私がまっくろくろすけと命名してあげたのです」
「あっそ」
となりのト○ロに出てくるアレと同じ名前に命名されたブランクに若干同情した。
しかし、ブランクのおかげで翔はローレルと再会することができた。その事には感謝しておく。
「そのブランクが何が目的で俺達を誘導したかはわからねえが、後は煌を見つけるだけだな」
「はいなのです。どこかの誰かさんのおかげで私達バラバラになってしまったのですから」
「………………………………悪かったよ」
若干棘が含まれた言葉に翔は謝罪する。
仕方がないこととはいえ、自分一人だけが残って二人に危ない目に遭わせたのは紛れもない事実だから。
「あれから大変だったのですよ! 慣れないサバイバルで茸を食べては何度お腹を壊したことか!」
「ああ………………」
「街について冒険者になっても男の人達が変な目で見てきたり、ナンパしてきたりと怖かったんですよ!」
「ああ………………」
「………………………………二人がいなくて寂しかったのです」
「悪かった………………………」
ローレルの瞳から涙が頬を伝って床に落ちる。
ぽろぽろと零れ落ちるその涙は一日分では到底まかなえない量だった。
右も左もわからない異世界で彼女は一人で頑張ってきた。
辛い時も悲しい時もその感情を押し殺して笑顔を見せていた。
そうさせたのは他でもない翔だ。
翔は彼女に手を伸ばすも、その手は途中で止まる。
自分には彼女を励ます資格も慰める資格もない。
恨まれも、憎まれても当然のことをした自分がどうやって彼女を慰めればいい?
自己嫌悪に陥る翔の胸元にローレルが飛び込んでくる。
「会いたかった……………………本当に、本当に会いたかったのです………………………」
胸元で涙ながら再会に喜ぶローレルに翔は何もできなかった。
ただ彼女に胸を貸すぐらいしかできなかった。
抱きしめることもできずにただ彼女が泣き止むのを待つしかなかった。
自分が救いようのない屑だという自覚はある。
恨まれ、憎まれ、苦しみ、もがき、呪われ、そして地獄に落ちるのがお似合いだ。
―――俺はまた、お前を傷つけたな。
九条翔はローレル・ラウルスを愛している。
一人の男として彼女を一生かけて守りたいと思っている。
だけど、その気持ちを彼女に伝えることはしない。
それは決して許されないことだから。
今の翔にできることはただ、ローレルが泣き止むのを待つしかなかった。




