探し人
謎の黒衣の人物――”ブランク”と名乗る者が提案した方向に向かうと街が見え、翔達は早速街の中に入ると予想していたよりかはいい街だった。
活気があり、街中を歩く人達にも暗い印象は見受けられない。
いつぞやの街中で人攫いなどするところとは違ってゆっくりと休むにはいい街だった。
適当に宿を取ってラヴァン達に翔は告げる。
「この街は休暇が目的だ。お前等はお前等で好きにしな。だが、面倒事を起こしてもしらねえからな」
面倒くさそうにそれだけ言って寝台に横になる翔は少し仮眠してから街に出ようと思い、眠りにつこうとするのだが、こっそり添い寝しようとするサクロを蹴って追い払う。
「あいた~」
「…………………何をしているのですか」
尻を擦るサクロに呆れながら問いかけるラヴァン。
「添い寝してあげようとしただけなのに」
「余計な事すんじゃねえ」
「ではサクロさんの代わりに私が務めましょう」
「……………全員出ていけ」
ならば私が、と服を脱ごうとしたエルティ共々全員を追い出した翔は一息吐いて改めて横になりながらブランクのことについて考える。
何が目的で近づいたのかはわからない。だが、一つだけ確かなのは見ているだけで無性に腹が立つことぐらいだ。
仮に万が一に戦闘になった場合は勝てるかどうかはわからない。
「強くなんねえとな………………」
今以上にもっと強く。翔はそう思いながら襲いかかってくる睡魔に身を委ねた。
一方で翔に追い出されたラヴァン達は街中を闊歩していた。
「それじゃ私はちょっと教会に行ってくるね~」
聖職者であるサクロはこの街の教会を見つけるとそちらに向かう。
「あ、ハルもお供します」
そのサクロの後ろについていくハル。残されたラヴァンとエルティは二人の後姿を見送った後、互いに顔を見合わせて苦笑いを浮かべる。
「私達はどうしましょうか………………?」
「そうですね。とりあえずどこかで腰を落ち着かせましょうか」
「そうですね」
エルティの提案に同意して近くにある喫茶店に入る二人に店内にいる人達の視線が集まる。
それも無理はない。二人共容姿が非常に整っている美少女でエルティにいたってはエルフである。
滅多にそれこそ普通に生活している人間族にとっては一生に一度お目にかかれるかわからない種族なのだから。
二人は店員に注文を頼み、ゆっくりと寛いでいるとラヴァンが口を開いた。
「エルティ様はあのブランクと名乗る方のことはどう思われますか?」
率直に問いかける。
「……………………強い。それとまるで私達のことを知っているような口ぶりが非常に気になりました」
端的に自分が思った事を述べる。
四人がかりで傷一つ負わせるどころか完全に遊ばれた感覚だった。
自分達とは桁外れな実力を有しているのは間違いなく、初対面にも関わらずこちらの素性を知っているような口ぶりがエルティは気になっていた。
「何者なのかは気にはなりますが、それ以上にあの方の言葉がどこまで真実なのか、もしくは偽りなのか………………………」
ブランクは告げた。
翔のせいで己の殻を割れていない、と。それはつまり、今以上に強くなれる方法があるということ。
『君の魔法を私の魔法で上書きしただけさ。魔法の強さは想像力。君よりも私の想像力が上回っただけの話だ』
ブランクはラヴァンに向けてそう助言した。
何が目的で助言したのかはわからないも思うところがないと言えば嘘になる。
『エルフ。君はもっと精霊魔法を使いこなすんだ。その上でそれ以上の力を求めるといい』
ブランクはエルティに向けてそう助言した。
それはそれ以上の何か、つまり精霊を超える精霊。大精霊の存在を知っているような口ぶりだった。
しかし、それはありえない。
大精霊。それはエルフの始祖であるハイエルフが生み出した眷属。エルフが使う精霊魔法はその眷属からつくられたもの。
炎の大精霊、サラマンダー。
水の大精霊、ウンディーネ。
風の大精霊、シルフ。
土の大精霊、ノーム。
四つの大精霊をもとに、炎、水、風、土の精霊魔法が現在に至るまでエルフが使用している魔法なのだが、大精霊の存在を知っているものはエルフの中でも極少数。
エルティ自身だって族長の娘という立場にいたからこそ知らされたほどだ。
それを知っているブランクは何者なのか?
何故それを求めろと告げたのか?
分からないことは多い。
「…………………ラヴァンさんはどうしますか? あの者の言葉を信じますか?」
「………………………………私は信じてみようと思います。嘘を言うにしてももう少し言葉を捻らせると思いますし、嘘をつく理由も思いつきません」
「そうですか………………………」
意見を求めた結果、ラヴァンはブランクの言葉を信じることにした。
なら、仲間が信じるのであれば私も信じようとエルティは密かにそう決めた。
「ごめんねー、ハルちゃんにまで手伝わせちゃって」
「いえ、ハルも掃除は好きです」
教会に訪れたサクロとハルはこの教会に務めている神父に挨拶し、祈りを捧げて、掃除をしている。
聖職者として献身奉仕の心を忘れてはならない。己の身も心も清浄するにはまずは周辺を綺麗にしないといけない。
その為にもまずは掃除。というわけではなくこれまで孤児院や教会で育ったサクロはただ単に綺麗好きで掃除がしたかっただけの話であり、ハルはそれに付き合っている。
『聖職者、君に関しては特に言うことはない。君は既に強い心と折れない意思があるからね』
ブランクと名乗った言葉がサクロの脳裏を過る。
サクロは思う。
それだけじゃ駄目だ、と。今のままでは彼の心は守れない。
どれだけ傷を負おうと、弱音も吐かずに立ち上がり、戦い続ける翔はこのままでは壊れてしまう。
そんな姿は見たくはない。
翔を守る為にはやはり、力が必要だ。
『仙気は狐人族の専売特許の力と言ってもいいが、今の君程度の仙気では私には効果がない』
掃除する手を止めず、ハルはその言葉を思い出す。
自分の力が通用しなかった。多少は効かなかったことはあっても通用しなかったことはなかった。
このままでは自分を救い、復讐を果たさせてくれた翔に何一つ恩返しができない。
どうすればいい……………………。二人は己の弱さに悩まされる。
サクロは窓を拭いていると、教会の庭で孤児の子供達が遊んでいる姿を目撃して思わず笑みを溢す。
自分もああいう風に遊んでいたな、と幼い頃の自分を重ねながら思わず微笑ましくなると、そんな子供達のなかに一人の女性が交ざっていた。
同性のサクロでも思わず見惚れてしまうほどの綺麗な人だ。
綺麗な金色の髪に整えられた相貌。窓越しでもわかる彼女のプロポーション。
自分でもそれなりの容姿はあると思っているサクロでも思わず溜息が出てしまうそうな超がつく美少女が爛漫な笑みと共に子供達と遊んでいる。
「さぁ、行くのですよ――!」
声を出してボールを投げようと大きく腕を振るう。
「稲妻轟く雷矛!」
「あれ?」
どこか聞き覚えのあるような必殺技名と共に子供に向けてボールを投げるもその必殺技名とは裏腹にボールの動きは緩慢で弱く、子供に当たる直前で落ちる。
「甘いな姉ちゃん! 俺の神域の障壁の前じゃ全てが無力! 喰らえ、新技傲慢なる嵐!」
「ぐはぁ、ですぅ………………………」
「「「「ね、姉ちゃん!? しっかりしろ! 傷は浅いぞ!!」」」」
「うぅ…………………皆さん、どうか私の屍を超えて行くのです……………………がくり」
「「「「姉ちゃぁぁああああああああああああん!!!」」」」
凄い技名と共にボールを投げる少年。それに直撃し倒れる彼女に駆けつける少年少女達の前で倒された振りをする彼女に合わせるように声を上げる少年少女達。
どこかお芝居でも見ている気がしてならないサクロだが、妙に何かが引っかかる。
喉に魚の小骨が引っかかったような、そんな気がする。
「どうしましたか?」
サクロの様子が気になってハルがひょっこりと窓の外に意識を向けるとんん? と首を傾げる。
「お一人、何故かご主人様に似た気が感じられます…………………」
「それって………………………」
サクロはハルの言葉を聞いてもしかしてと思った。
翔から聞かされた幼馴染である二人の身体的特徴。その内の一人、ローレル・ラウルスに身体的特徴が合致している。
まさか、と思ってサクロは慌てて彼女がいる庭へ駆けつけて彼女に問いかける。
「あの、もしかして貴女はローレル・ラウルスさんですか?」
「え、はい、そうですよ? 私がローレル・ラウルスです」
あっさりと肯定する彼女、ローレル・ラウルスにサクロは啞然とした。
翔の探し人の一人があっさりと見つかった。




