ミノタウロスの丸焼き
ラヴァンの新しい魔法のおかげでモンスターの大群も苦戦することなく順調に階層を上がっていき、60階層を超えて61階層目に到着する。
「迷宮かよ」
迷路となっているこの階層を見てぼやく。
「まぁこっちにも都合がいい。ラヴァン、お前はしばらく回復に専念しとけ」
「………………………………はい」
顔を少し青くしながら素直に頷くラヴァンは魔法の連発によって魔力を消耗している。
しばらくは戦闘は避け、回復に集中してもらわなければ後の為にもならない。
「ショウの言う通り休んでて。ラヴァンのおかげで私達は楽にできたんだし、ここからは私達でなんとかするから」
「サクロさんの言う通りです。休んでいてください」
「では、お言葉に甘えさせて貰います」
ラヴァンの活躍で翔達は体力も魔力も消耗することなくここまでやってこれたまではいいが、確実に消耗はしている。平然としているように見えるもこの場にいる全員いつ到着するかわからない頂点とここまでの戦闘で心身共に疲弊していないわけがない。
「おまけにここで迷宮とは。これを建てた奴、絶対意地が悪ぃ野郎だな」
ここまでは戦闘、勝利、次の階層に進出という単純な構造ではあったが、ここにきて戦闘ではなく迷宮が出てくるとは流石に予想はできなかった。
どの道、戻ることは出来ないから進むしかないが………………………。
「隊列通りに動くぞ。ラヴァン、疲れているとこ悪ぃがマッピングを頼む。エルティ、お前は後方に気を配っとけ。万が一に背後からは避けてぇ」
「わかりました」
「心得ました」
迷宮を進みながら翔は持っている鉱石を小石サイズに錬金して目印として道端に置いておく。
「しかしこの塔はなんなのでしょうか? どうにも感覚が狂わされてしまいます」
「そういう仕組みとしか言えねえな」
エルティの疑問に翔は明確な答えは出せない。外見と中身の違いがおかしすぎる。上がる階層は1階層ずつ数えているもそれは外から見てどの辺りかまるでわからない。
感覚が狂わされるのは翔にとっても同じだ。
石造りでできた迷宮を進みながら翔はふとある神話を思い出す。
「そういや、俺の世界で迷宮に関する有名な神話があったな」
「それって神様が作ったお話?」
「いや、神が作ったかどうかは知らねぇ。俺の世界にはこっちの世界よりも信仰が低いし、神様自体あやふやな存在だからな。ただ大昔にそういう話があったかもしれないって話だ」
「へぇ~」
「そんな中で迷宮に関する神話があってな。ギリシア神話だったか? とある国の妃が犠牲にするはずの雄牛を飼い始めたのが原因で神との約束を背いた罰としてその雄牛に恋をし、牛頭のモンスター、ミノタウロスを生んだ」
「………………………約束を背くだけでそこまで」
「本当かどうかは知らねえがな」
牛に偽りの恋をさせ、怪物を生ませることになったことに女性陣は顔を引きつかせた。
相手が人ならまだよかったかもしれない。だが、妃が恋をさせられたのは犠牲にするはずだった牛なのだ。
そのせいで牛頭人身の怪物が誕生してしまった。
「その妃はミノタウロスを迷宮に閉じ込め、毎年子供を餌として迷宮に送り込んだ。後にそのミノタウロスは倒されるって話だ」
「…………………なんだか、少し残酷でもありますね。そのお話」
「そのミノタウロスには罪はないとハルは思います」
ローレルの漫画のネタとして覚えさせられたミノタウロスの神話を聞いた女性陣は少し感情移入しているのか、複雑な表情を浮かべている。
「まぁ、この世界にミノタウロスは珍しくもねえだろう」
「それはそうですが………………………今後、ミノタウロスは狩りにくくなりました。あの肉は珍味なのですが」
「食べたことがあるんだ……………」
「つーか、エルフって肉を食うのか」
「森での生活を甘く見ないでください。野菜や果物だけで生活できるわけないでしょう?」
「ごもっとも」
エルフは肉を食べないというのは嘘だったようだ。
現実的に考えれば確かにそうかもしれない。
翔の中の異世界の価値観が少し崩れたような気がした。
そんなことを話していたせいか………………………。
「ブモォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」
翔達が進む迷宮の先から遠吠えのような雄叫びが迷宮全域を響かせる。
そして、ズシン、と重い足取りと共に先の横道からそれは現れた。
翔達が見上げるほどの巨体。筋骨隆々の肉体は漆黒の体毛で覆われてその頭には二本の角が生えている。
それの姿を見て奇しくも翔は笑った。
「噂をすれば影ってやつか……………」
翔達の前に現れたのは一体のミノタウロス。なのだが、ただのミノタウロスではない。
その両手にはミノタウロスの体格に合う剣と盾が握られている。
それもただの剣と盾ではない。
「アダマンタイトの剣と盾とは贅沢だなぁ、おい」
現れたミノタウロスが持つ剣と盾に使われた素材を瞬く間に看破した翔は素直な感想を口にして前に出る。
「まぁ、好い素材にはなるし、ミノタウロスの肉も食料になる」
怯みも怯えもなくただ散歩にでも行くように歩きながら近づいてくる翔にミノタウロスは鼻息を荒くしながらそのアダマンタイトの剣を振り上げる。
「ブモォォオオオオオオオオッッ!!」
渾身の振り下ろし。
膂力を余すことなく使った渾身の一撃は盾ごと相手を粉砕する。
――――はずだった。
翔はその渾身の一撃で放たれた剣を軽く腕を払っただけで二つに割れた。
「ブモォォッ!?」
輝く剣身が宙を回転して甲高い音共に地面に落ち、その光景にミノタウロスは驚愕に包まれる。
「おい」
拳を放とうとする翔の声に正気を取り戻したミノタウロスは残された盾で身を隠す。
これでこの人間の拳は砕けるとミノタウロスは口角を上げるも、盾はその役割を果たさないかのようにあっさりと砕け散ってしまい、ミノタウロスの手から離れてしまう。
アダマンタイトの剣と盾がこうも簡単に無力化できるのは翔が使う錬金魔術によるものである。
翔はアダマンタイトの剣を折ったのではなく、触れた瞬間に錬金魔術で分解させた。盾も同様に錬金魔術によって細かく分解させたに過ぎない。
なにかしらの力が付与されている剣や盾ならともかく、ただの剣や盾なら翔の前ではその意味は成さない。
「さて」
剣と盾を失ったミノタウロスに翔は義手であるルドニークの五指からミスリルの鋼糸を噴出させ、その鋼糸は翔の意のままに動き、ミノタウロスの全身に絡み付いて動きを封じる。
「とりあえず焼くか」
炎の魔術を起動させてその炎がミスリルの鋼糸を通してミノタウロスを一瞬で火達磨にする。
「ブモォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!」
炎に包まれるミノタウロスは燃やされながら悲痛の叫びをあげるも我が身を焼く炎は一切衰えることなくミノタウロスを焼き殺す。
数分後、出来上がったのはミノタウロスの丸焼きだ。
「お前等、休憩ついでに飯だ」
平然とした態度で先ほどミノタウロスが持っていた剣を錬金魔術でナイフに錬金して切り分けていく翔に女性陣は顔を引きつかせた。
つい先ほど丸焼きにされたミノタウロスについての話を聞かされたばかりでそのミノタウロスの肉を食べるのには抵抗があった。それでも話した張本人はそんなこと気に留めることなく早速といわんばかりにミノタウロスの肉に噛み付ついて食べ始める翔を見て女性陣は同時に思った。
―――異世界人はああも逞しいのだろうか? と。
そう思いつつも空腹に負けた女性陣もまたミノタウロスの肉を食べるのであった。




