飢餓の魔法
白亜の塔に足を踏み入れた翔達はそれからの頂点を目指して上の階層に進んで行く。
転移魔術が起動できない為に外に出ることは不可能。上に向かって進むしかない翔達は今は20階層までやってきた。
「ブモォォォォッッ!!」
棍棒を振り下ろす豚頭のモンスター、オークの攻撃をハルは体格差を活かして躱して跳躍、一閃。
オークの首を斬り落とす。
地面に落ちるオークの首。刀を振って血を払うハルは刀を鞘に収める。
そして、この階層にいるモンスターが全滅した為に上の階層に進む階段が出現した。
「行くぞ」
翔の一声で全員階段を上がる。
ここまで特に問題はなく、これ以上にないぐらい順調に進んでいる。
「今のところ問題はありませんね」
「その考えは危ないです。狩りでは獲物が油断するタイミングを狙います。油断は禁物ですよ」
「そうですね。申し訳ございません」
順調に進んでいる事に緊張が緩んでしまったラヴァンに注意を促すエルティ。
「まぁまぁ、緊張し過ぎてもよくないし、少しは気楽に進もう」
そんな二人の間に入るサクロはメイスを指で器用に回している。
「お前はお前で緊張感がねえんだよ」
「私は皆の緊張を解してあげてるだけだよ?」
呆れながら言う翔に平然と返す。そして、21階層に到着する目前で光が見えた。
「光………………?」
これまで薄暗い洞窟のような階層だったが、21階層には光が見えてそれに怪訝しながらも到着する。
薄暗かった今までの階層とは違い、この階層では視界が十分に取れる。
暗視眼鏡を外した翔達の前には今度は大型犬サイズの蠍と蜻蛉の姿をしたモンスターの大群が地面と宙を埋めつくす様に待ち構えていた。
「今度は虫か。蠍は俺がやる。蜻蛉はエルティ、お前がやれ」
「畏まりました」
中衛を担っている二人が前に出て戦闘態勢を取ると蠍と蜻蛉は一斉に動き出した。
不規則な動きで接近してくる蜻蛉。
鋏と尾で攻撃してくる蠍。
そんなモンスターに翔は腕を振るって複数の魔法陣を展開させて攻撃を受ける前に魔術攻撃で蹂躙し、蠍を瞬く間に全滅する。
そして、頭上から不規則な動きで接近してくる蜻蛉にエルティは風を纏った矢で眉間を的確に貫く。
動きが読みずらい不規則な動きをするモンスターを前にエルティは百発百中のように一発も外すことなく、全てのモンスターを仕留めた。
「やるじゃねえか」
「この程度たいしたことではありません。森ではもっと動きが読みずらいモンスターを狩っておりましたので」
謙遜するエルティは矢を回収に動く。翔はモンスターの甲殻を錬金魔術によって新しい矢を錬金する。
「…………………レベルが変化したか」
ぽつりとそう呟く。
20階層までは単独でもたいしたことないモンスターだったが、この階層でレベルが変化した。
単純な強さには大した変化はない。翔が気付いたのは先ほどの蠍と蜥蜴のモンスターにはこれまでにないものがあった。
蜥蜴は不規則で動きが読みずらく、蠍にいたっては毒を持っていた。
単純な動きをする今までのモンスターと違って動きに変化が生じ、毒はかすりでもしたら致命傷だ。
幸いにもこちらには解毒魔法が使えるサクロがいるも、危険であることには変わりない。
ちょっと変化だけど、この変化で死を招くことだってある。
長期戦を覚悟して戦闘は交代体制で戦って体力と魔力を温存しておく。移動の時だけ隊列を組めばいざという時にも対応はできる。
「次に進むぞ」
次の階層を目指して上に進む翔達は21階層同様に毒持ちのモンスターや動きが読みずらいモンスターを倒していく。これまでの魔族との戦闘が糧にもなっていたのか、ラヴァン達も苦戦することなく倒していく。
「そぉい!」
「ハッ!」
快進撃を続ける翔達は早くも49階層まで到着。これまで同様に毒持ちや動きが読みずらいモンスターを相手にするにも手慣れた対応で倒す。
メイスと刀で斑模様のカエルを叩き潰し、斬り裂くサクロとハルはこの階層のモンスターを殲滅して次に進む階段を出現させる。
「なんか、魔族に比べたら弱いよねぇ」
「はい」
まだ全員疲労を顔に出さない。今までの旅や戦闘もあってこの程度では疲れは出ないのだろう。
恐ろしいほどまでに順調なのはただ単にこの塔のレベルが低いのか、もしくはそう感じるほどに翔達が強くなっているのか。それとも………………………。
「次で50階層にありますね」
「ああ、外から見てどれぐらいの高さにいるのかはわからねえがな」
忌々しそうに塔の壁を一瞥する翔は塔の壁を破壊できるか試みたのだが、無意味に終わった。
魔術による攻撃も錬金魔術も何の効果もなく傷一つつけることは叶わなかった。
だから今は自分達は塔のどの辺りにいるのか全く見当もつかないでいる。
「とにかく進むしかねぇ。それしか道はねえからな」
「はい」
そう進むしか道は残されていない。
続いて50階層に進む翔達に待ち構えていたのはゴブリンとオークだ。
ただし、軽く数百は超える暴力的なまでの大群で。
『ヴォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!』
雄叫びと共に四方八方から襲いかかってくるゴブリンとオークの大群に翔は攻撃よりも防御を優先。瞬時に結界を展開する。
「なんつー数だ……………ッ!」
「多すぎ!? ショウ、魔術でバーンって吹き飛ばして!!」
「言われるまでもねぇ」
結界を展開しながら別の魔法陣を展開させる翔はゴブリンとオークを殲滅しようと魔術を起動させる。
「待ってください」
はずだったのだが、ラヴァンが制止の声を投げてきた。
「私にやらせてください」
「…………………できんのか?」
「はい」
「なら、さっさとしろ」
力強い眼差しを向けてくるラヴァンに攻撃を任せて魔術の起動を解除する。
ラヴァンは右手を前に出して瞑目する。
ここまでラヴァンは自身の伸びしろに悩んでいた。どうすればもっと強くなれるのかと考えていた。
そして、翔の助言を聞いてラヴァンは新しい魔法名を口にする。
「【ハンファーメス】」
その魔法名を口にした瞬間、ゴブリンとオーク達に変化が訪れた。
この階層全体に響き渡るほどの腹の虫が鳴る音。突然の空腹がゴブリンとオークを襲った。
飢えを感じるゴブリンとオーク達は早く餌を食べようと躍起に結界を攻撃するもびくともせず、それでも飢えは一層に酷くなる。
口から涎を垂らし、瘦せこけ始めるゴブリンとオーク達が取った行動は―――共食いだ。
結界内にいる翔達をそっちのけで同族を襲っては喰い始めるモンスター達の姿に目を瞬かせる。
「えげつない………………………」
サクロがぽつりとそう呟いた。
しかしながら翔もそれには同意する。
「私は幼い頃より飢えの怖さと辛さを身を持って知っています。それを思い出して魔法として創造してみましたが、予想以上に上手くいきましたね」
「モンスターを飢餓状態にさせたというのですか………………?」
「はい」
結界外は飢餓地獄状態となっている現状でラヴァンの新しい魔法に翔も驚きを隠せれなかった。
魔術で飢えを感じさせるという錯覚を引き起こすことはできても、実際にモンスターを強制的に飢餓状態にすることはできない。
そもそもどうやって数百は余裕でいるモンスターを共食いするまでに飢えさせることができたのか想像することもできない。それをできるラヴァンは実際にそれを身を持って経験しているからそれを魔法として反映することができたのかもしれない。
『魔法とは想像の力。使い手次第で無限に強くなる』
不意にラヴァンの師であるレノアが言っていた言葉を思い出す。
『経験を、未来を、想いを、夢を、願いを想像し創造する。魔法とは自由の象徴』
確かにこれは魔術では再現できないものだ。
引きつった笑みを浮かばせながら翔はそう思った。
そうしてラヴァンの活躍によってモンスターは自滅。次の階層に進む階段が出現する。




