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ひねくれ者の最弱魔術の使い方  作者: 幻影十夢
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エルフの契り

目的地である白亜の塔まであと少しのところで翔はエルティと戦っていた。

森の影から放たれる矢を防御魔術で防ぎ、探知魔術でエルティの居場所を突き詰めて自動追尾の術式を施した錬金魔術によって錬金した矢を斉射する。

しかし、エルティは木々を盾に移動し、剣でその矢を迎撃して切り落とす。

「!?」

その瞬間、翔の足元の地面が不意に泥沼のようになって足が地面に埋まる。

「精霊魔法か」

エルフが得意とする精霊魔法。大自然の力を操るとされる精霊魔法には詠唱も呪文(スペル)も必要せずに発動することできる。

足を固定されて動けなくなった翔の死角から矢を放つエルティだが、翔は浮遊魔術を行使して泥沼から脱出及び回避。そこに飛行魔術を使って空を駆ける。

「避けてみろ」

空中に巨大な魔法陣が展開される。

「放雷」

魔法陣から無差別に放たれる数多の落雷。上空からその攻撃を眺めている翔に竜巻が発生する。

しかし、翔はその竜巻と同等の威力の風魔術を行使して相殺。

「そこか」

エルティがいる場所に急接近する翔にエルティは弓矢を捨てて剣に持ち返る。

「ハッ!」

放たれる一閃。その一閃を避けて拳撃を炸裂させる。

「ハッ、やるじゃねえか」

感心するように笑う。

拳撃が炸裂する瞬間に後方に跳んで直撃を避けたエルティの反射速度に感心しながらも―――――

「だが、終わりだ」

「なっ―――」

終わりを告げた。

エルティの身体には細い鋼糸が巻き付かれていた。

「この性能も悪くはねえな」

ヴァロノスとの戦闘で失った左腕の代わりにつけた義手『ルドニーク』の五指から鋼糸が突出している。

義手に搭載したギミックの一つである魔力伝導率の高いミスリル鉱石を錬金魔術によって糸状に錬金したこの鋼糸は目視するのも難しいぐらいに細い上に魔力伝導率が高い為に翔の魔術によって自由自在に動かせることが出来る。

捕縛した相手にミスリルの鋼糸を通して炎で焼き殺すことも電撃で感電させるのも本人次第。

「………………………参りました」

素直に敗北を認めるエルティに翔は鋼糸から解放する。

「流石は七魔将を倒した人です。これが手合わせでなければ私は死んでいた」

今回エルティと戦ったのは互いの戦力確認である。

これから向かう白亜の塔では何が起きるかわからない以上はできる限りのことはしておいた方がいい。

「お前も予想よりかは強かったぞ」

「ありがとうございます」

正直な感想である。

翔自身ここまでエルティが戦えるとは予想していなかった為にここまで戦えたことに素直に驚いた。

弓の技量、剣の腕前、精霊魔法の行使。どれも使いこなしているような動きをみせただけではなく、森という戦いの場を利用した戦法も巧かった。流石は森で生きるエルフ。

「これなら間違っても足手纏いはねえな」

「恐縮です」

頭を垂らすエルティは畏まった態度を取る。

里を救った報酬として自身の全てを翔に捧げたエルティにとって翔は主人のようなもの。

翔自身はそんつもりで偉そうにする気はないが、妙な気分ではある。

嫌々しているのなら強引にでも辞めさせるが、本人はそうでもないが為になんとも言えないのが現状だ。

「お前の精霊魔法。あれは具体的にどこまでできる?」

「はい、我々エルフが使う精霊魔法は自然界に存在する現象を意図的に引き起こし、使い慣れればその現象を高めることもできます」

「へぇ」

エルティの説明に顎に手を当てる。

エルフの里周辺に張られている霧の結界も先ほどの泥沼や竜巻も自然界で発生する現象だ。

人間が使う魔法よりも魔術に近いものかもしれない。

「ならその魔法で雨や落雷を降らせることもできるのか?」

「可能です。ですが、それには大量の魔力を消費してしまうので私一人では困難ではありますが」

エルフは人間よりも魔力総量は多い。そのエルフであるエルティでさえも天候を操るにはまだ力量不足ということか、と納得する。

「あの魔族とはひたすらに相性が悪かったのか………………………」

「はい…………」

ヴァロノスの能力(スキル)〈破砕〉の前ではその精霊魔法も無力同然。あの戦いは翔だからこそ勝てたようなものだ。

「まぁ過ぎたことはどうでもいい。戦力確認も終わったから戻るぞ。目的の場所までもう目の前だ」

顔を上げる翔の視線の先には雲も貫いている塔がある。それこそが翔達が目指している白亜の塔だ。

空を突き抜く真っ白な塔。その頂上にある神剣。そこまで辿り着くのが翔達の目的だ。

そこに行けば何かわかるかもしれない。その僅かな可能性に賭けて動いている。

「ショウさん、不躾ながら質問をしても?」

「なんだ?」

「私は貴方が旅をする理由もこの世界の神であるリュマダのことも聞きましたが、それにつきましては何も言いません。私は貴方のすることを肯定し、従うまでです。ですが、貴方はこの世界を救うつもりはないのですか?」

「……………………そんなもん勇者か英雄の役目だろうが。俺は勇者でも英雄でもねぇ。ただのろくでなしの屑だ」

「しかし貴方は我々エルフを里を救ってくれました。その時の貴方はまさに英雄と呼ぶに相応しい人だと私はそう痛感しました」

「そんなもんお前の目が節穴だっただけだ」

称賛するも翔はそれを否定する。

「そういう役目は煌の仕事だ。それに誰かの為に戦うなんて俺はまっぴらご免だ。俺はそこまでお人好しじゃねーよ」

「………………………………わかりました。そういうことにしておきます」

何かを察してあげたかのように生暖かい眼差しを向ける。

「では、もう一つ。ショウさんは元の世界に帰られるのですよね?」

「ああ。あいつらを見つけたらな」

「ではその前に一つ、お願いがあります」

「なんだよ?」

「ショウさんの子種を私にいただけませんか?」

「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………は?」

一瞬、何を言っているのか理解が追いつかなかった翔は再度尋ねた。

「俺の耳が悪かったみてぇだ。もう一回言ってみろ」

「ですから私に貴方の子種を頂きたく懇願させてもらいました」

どうやら聞き間違いではなかった。

「………………………………一応、一応どうしてそれが欲しいのか理由を聞いてやる」

「はい。御存知だとは思いますが私は掟を破り、里を追い出された身です。ですが、お母様の意思を諦めたわけではありません。私はいずれ人間もエルフも差別なくともに手を取り合える世界にしたいと思っています。貴方方と共に行動をすれば人間族と亜人族のわだかまりも多少なりは改善できると思いますし、そうなればお母様の努力が実られます。出来ればショウさんには世界を救って頂ければ、あわよくば魔王を倒して頂ければ確実なのですが……………………ショウさんに無理をさせてまで魔王討伐を勧めることは仕える身として強くは言えません」

「それで…………………?」

「しかし、エルフと人間族の間で子供を授かれることができれば種族関係なく手を取り合えるきっかけになるかもしれません。勿論私も相手が人間族なら誰でもいいと思って言っているわけではありません。私はショウさんだからこそ言っているのです。それぐらい私は貴方のことを好いています」

さらりと告白(プロポーズ)を受けてしまう翔は薄っすらと頬を赤くしてエルティから目を逸らす。

「ショウさんには想いを寄せている人がいるのは『いねえ!』…………………………私は別に貴方を独占しようとは思っておりません。良い男には複数の女性に囲まれるものですから、順位も何番でも気にしません。ただ、エルフは長寿の為に繁殖機能が低い為に子供も授かり難いですからできれば子を宿すまで元の世界に帰るのを待っていただけると嬉しいのですが」

「………………………………この世界の女の貞操観念ってどうなっていやがる」

頭が痛くなる。

こういうハーレムは主人公の役目じゃねえのか? と、遠い眼差しで煌を幻視する。

おい主人公(こう)、俺を助けてくれ。

今の状況に割と本気で助けを求めた。

しかし現実は無情。この場に煌はおらず、助けにくることもない。

翔は溜息を吐いて言う。

「俺はそんな理由でお前を抱く気は微塵もねぇ。そんなことで産まれた子供にそんな役目を背負わせれるか」

「………………………………そうですか」

その答えにエルティは何も言わなかった。

「ではそういう理由でなければ子種を頂けるのですね?」

「はぁ?」

呆気を取られる翔にエルティは翔の右手を取って手の甲に唇を当てる。

「我々エルフは結婚を行う前に婚姻の証として右手の甲に口づけをします。本来これはエルフの男性が女性にする行為なのですが、まぁ細かいことは抜きにしましょう。そしてそれを受けた側も同じように相手の右手の甲に口づけを交わせば婚姻は成立し、互いを愛し合う契りが結ばれます」

エルフ流の告白(プロポーズ)を説明するエルティ。

「これで私は貴方に身も心も捧げましたが、先ほども述べたように貴方が私に身も心も捧げる必要はありません。それではラヴァンさん達が傷ついてしまいますからこれは私の一方的な契りです。ですが、もし、許されるのなら私のことも愛してくれると嬉しいです。それまで私は貴方に仕える戦士として仲間として共に奮闘しましょう」

本当に一方的に自分の言いたいこと言うエルティが本当にあの父親(リヤン)の娘だと自覚させられた。

この一方的な物言いは本当にそっくりだ。

「たくっ…………………どいつもこいつも本当に」

よくもまぁこんな奴を好きになるなんて本当にもの好きだ、と内心でぼやく。

「勝手にしろ」

「はい」


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