狐人族の未来
白亜の塔を目指して車を走らせる翔は暗くなる空を見て適当な場所で車を止めた。
「今日はここで野営だ」
到着までまだまだかかる翔達は休憩しながらも着実に目的地に近づいている。
野営にもすっかり慣れた翔達はテキパキと野営準備に取り掛かる。
「では私は食べれそうな食材を見つけてきます」
「ああ」
動植物に詳しいエルティは剣と弓矢を持って森の中を駆けていく。流石は森で生活していたエルフだけあってその動きは俊敏だ。
「薪集めてきたよ」
「ハル、すみませんが今ある食材を持って来てください。簡単に済ませておきます」
「はい」
慣れた動きで野営の準備を整えていく間に翔はもしもの為の結界の準備に取り掛かる。
結界用の魔法陣を書き上げて自身の血を魔術触媒にする為に魔法陣の上に数滴垂らして結界は展開される。
これで問題なし。
野営の準備が終えた頃には食材を持ってエルティが帰ってくる。
「来い」
「参ります!」
野営の準備が終えたらハルの訓練が始まる。
復讐を終えたハルは今度はもう二度と誰も失わない様に強くなろうと努力している。
そんなハルに翔は強くなる為の訓練に付き合っている。
ハルの動きは最初の頃に比べればかなりよくなった。振りも鋭くなっているし、無駄な動きだって少なくなってきた。徐々にだが強くなっているのがわかる。
だけどそれでも飽くことなく強さを求め続けるハルのその姿は心なしか自分に似ていると思えなくもない。
「やっ!」
「っと」
振るう刀で翔の髪が数本宙を舞う。
最近は油断できなくなったハルの太刀筋。気を抜けばばっさりと斬られるだろう。
そんなハルに対して翔は口角を上げる。
「行くぞ」
「はい!」
本当にいい訓練になると、少しそう思い始めてきた。
夕食を終えた翔達は食後にも少し訓練をしてからそれぞれ夜番の時間帯を決めて休みに入る。
今日の初めは翔が夜番だった。
「さて」
羊皮紙を取り出して翔達をこの世界に召喚した古代魔法『勇者召喚』について思考に耽る。ネイション王国にある召喚の魔法陣の写しは煌に渡した為に覚えている範囲とこれまで集めた資料や考察でその完成に一歩でも近づけるように努力している。
召喚魔術、空間魔術、時空間魔術、どれとも違うようで違わない複雑怪奇の魔法陣を一つ一つ解析してどのような結果を生み出すか調べていかないといけない。
元の世界に帰る為にも『勇者召喚』の古代魔法は必要不可欠。なんとか完成させないといけない。
「ご主人様」
「どうした? ガキは寝てろ」
後ろから声をかけてくるハルを一瞥して夜番をさせていないハルを天幕に戻るように言うもハルは翔の隣に腰を下ろす。
「何をなさっているのですか?」
「たくっ、見て………………ああ、魔法陣だ。俺達がこの世界に来た魔法陣を再現しようと考えてんだよ」
ハルが目が見えないということを一瞬忘れて話すとハルは小首を傾げる。
「この世界に来た、ですか?」
「…………………………ああ、そういえばお前とエルティにはちゃんと言ってなかったな。俺は、俺達はこの世界に召喚された別の世界の住人なんだよ」
翔は自分がこの異世界に召喚されたことについて話した。
勇者である煌と魔法使いであるローレルを魔族襲来から逃がす際にこの世界のどこかに飛ばしてしまった。その二人を探す為に旅を続けている。
「そうだったのですね」
「ああ、あいつにもちゃんと話しておくか」
それらしい会話はしたが、こうしてきちんと説明したことはなかった翔は今度はエルティにも自分の素性を話しておこうと考えて置く。それが共に旅をする仲間に対する筋ってものだ。
「あいつらを見つけてこの魔法を再現できたら元の世界に帰るつもりだが、最悪はあいつらだけ帰す。その後のことも一応は考えとけよ」
最終的には元の世界に帰るつもりである。その時には皆とはお別れ。最悪もう二度と会うこともないかもしれない。
「お前は自分がいた村に帰るなら付き合うぞ」
ハルが住んでいた東の島国。そこに帰りたいというのなら付き合うぐらいはする。
元よりこの旅は幼馴染みの二人を見つけるという翔の都合で行っているようなもの。強制もしないし、途中で抜けたいと言っても止める気はない。
故郷に帰りたいとハルが言うのならそれを止めるようなことはしない。
「…………………ハルには、もう帰る場所はありません」
狐耳と尻尾をしおらしく曲げながら顔を俯かせるハルの故郷はヴァロノスによって滅ぼされ、天涯孤独の身となっている。狐人族そのものの種族が絶滅したわけではないだろうが、ハルには帰るべき場所がなかった。
そんなハルに翔は乱暴に頭を掻きながら言う。
「なら、俺達と来るか?」
「え………………………?」
顔を上げるハルに翔は軽く息を吐きながら続ける。
「俺達の世界に来るか? 人間族しかいないから獣人のお前には窮屈かもしれねえし、耳と尻尾を隠す必要があるが、それでもいいのなら来るか?」
「………………………よろしいのですか? ハルが一緒でも」
「そう言ってんだろうが。あいつらも獣人に偏見なんかねえだろうし、むしろローレルなら毎日のようにお前を愛でるだろうな。それが嫌なら諦めろ」
「嫌じゃないです! ハルは、ハルは、ずっとご主人様と一緒にいたいです!! お手伝いでも、夜伽でもどんとこいです!!」
「………………二つ目はいらねえが、お前がそうしたいのなら好きにしろ」
気分よく尻尾を振るうハルに苦笑しながらローレルにハルを会わせたら毎日のように着せ替え人形にされるだろうな、と若干遠い眼差しで夜空を眺める。
元の世界に戻ってからもすることは増えたな、とびやきながら翔は頭を働かせる。
その隣には上機嫌なハルが飲み物を用意したり、焚火の火を調整したりとせっせと奉仕するもやはりまだ子供。一時間もいない内に翔の膝を枕に眠りに付いてしまった。
「………………ん、ご主人様………………」
「どんな夢をみてんだよ………………………」
苦笑しながらハルを起こさない様に抱えて天幕の方へ連れて行く。
「………………………大好きです」
翔の胸の中で小さい寝言が呟かれる。
「そうかよ」
その寝言にそう返すも、心なしかハルの寝顔に笑みが増した気がした。




