亜人族を襲う理由
ぶっ飛ばす。魔王に認められた実力者である七魔将の一角を担うヴァロノス相手に臆することなく言い切る翔にヴァロノスは口角を上げた。
「カカッ。我をぶっ飛ばすか。いつもゴミ当然のように飛ぶ人間如きがよく吠える」
「そのゴミにこれからぶっ飛ばされるお前はそれ以下か?」
侮蔑まじりの挑発をするヴァロノスに嘲笑と共に返す。それを聞いたヴァロノスは自身の得物であるハルバードを構える。
「面白い。吐いた唾は吞めぬぞ?」
「ならぶっ飛ばす前に吐いた唾を呑み込ませてやるよ」
互いに薄ら笑みを見せた瞬間、戦闘が始まった。
「ぬん!」
ハルバードを横薙に振るうヴァロノスの一撃を翔は魔力を凝縮させた魔法陣で防ぐと同時に白魔術による肉体を強化、更には能力増大による攻撃魔術を至近距離で起動させる。
だが、ヴァロノスは攻撃が直撃する瞬間に身を引いて攻撃を躱し、ハルバードで弾く。
「これはどうする!?」
魔力放出による魔力の塊を放つ。その魔力による一撃が直撃でもすればその身を残すことなく消滅するほどの威力を誇る魔力攻撃に翔は別の魔法陣を展開させる。
「霧散」
すると魔力が破裂して粒子となって雲散霧消する。
「ほう、我の魔力攻撃を打ち消すとは。面白い魔法、いや、魔術を使う」
自身の魔力が消されたというのにヴァロノスは愉快そうに声を弾ませる。
「お前等魔族の対策ぐらい一つや二つぐらい用意するのは当たり前だろうが」
そんなヴァロノスに不快そうに返す。
魔族の一番の脅威ともいえる魔力の総量。その魔力に対する対抗手段を考えていないわけがない。
その内の一つが『霧散』だ。
魔力には個々にもとって差異はあれど流れがある。それは外部に放出された魔力も例外ではない。
その魔力の流れを魔術によって乱回転させて破裂することによってその魔力を周囲に霧散させるだけではない。その霧散して粒子化したその魔力を吸収、変換することで魔術師である翔の糧となる。
防御と魔力の回復を兼ねて考えたこの魔術がある限りは魔力放出は翔の前ではただの回復手段でしかない。
「なるほど、お主がエクエスが忠告した魔術師か。確かに他の人間と比べれば中々だ」
僅かな攻防と魔術を見てエクエスから聞いた話を思い出したかのように語るも―――
「だが、その程度だ。あやつもこんな人間に敗北をするとは七魔将の恥晒しもいいところ。所詮は魔族の中で最も弱い魔人族。七魔将の器ではなかっただけのことか」
やれやれと嘆息する。
魔族と総称されているなかで魔族にはいくつかの種族で別れている。
その中で弱いのが魔人族。膂力、魔力、能力の全てが他の魔族よりも劣り、人間の姿をしていることもあって見下されることが多いとされている。
人間でいう最弱と称される魔術師が他のクラスから馬鹿にされるように魔人族も似たような境遇なのだろう。
「一つ聞きてぇ。お前はどうしてエルフを襲う? 亜人族は人間族と魔族との戦争とは関係ねぇだろうが」
最もな疑問を翔は問いかける。
エルフだけではなくその前はハルの種族である狐人族を襲った。
わざわざ亜人族を襲って敵対行動を取れば亜人族が人間族と結託して魔族と敵対する可能性だって少し考えればわかることだ。
それなのにヴァロノスは襲った。その理由を問いかけるとヴァロノスはこう答えた。
「退屈凌ぎ」
「あぁ?」
あまりにも予想外の答えに思考が追いつけなかった翔にヴァロノスは言葉を続ける。
「退屈凌ぎ以外に他に何がある? お主等人間はあまりにも脆弱でつまらん。故に亜人族を襲って気を紛らわしておるだけだ」
暇だから散歩に行ってくる程度の考えでエルフの里を襲撃したヴァロノスのそのあまりにも酷い答えにエルフ達は啞然とする。自分達はそんな下らない理由で襲われ、友達を、仲間を、家族を奪われた。
「亜人族は人間と違いまだ面白い。エルフのように種族特有の能力を持ち、中には固有魔法を持つ当たりがある。前も当たりを引いた時はそれなにに楽しめた」
楽しそうに笑みを見せながら話すヴァロノスにエルフ達の瞳に瞋恚の炎が灯る。
ただ自分が楽しむ為だけに同胞を殺された怒りと殺意が溢れ出てくる。今にもヴァロノスに攻撃しようとするエルフ達にリヤンが止めた。
「皆の者、冷静になれ。今、我々が動けばあやつの邪魔になるだけだ。まだ動く時ではない」
族長の言葉に押し黙って動きを制止させるエルフ達。
理屈では感情は制止できない。それでもエルフ達が動きを止めたのはリヤンに対する確かな忠義と信頼があるからだ。
翔は深く息を吐きながら安堵する。
「……………………それを聞いて安心したぜ。お前がどうしようもないぐらいの屑でな」
狐人族を襲ったのも同様に理由だろう。
仙気という力を持つ狐人族なら楽しめると踏んで襲撃したのがよくわかる。
「もう容赦はしねぇ」
怒りで顔を歪ませ、目つきがより鋭利になる翔にヴァロノスは笑う。
「カカカッ。なら我も少しばかり本気を出すとしよう」
戦いを再開しようと魔術と得物を構える二人。
すると―――翔の横を一つの小さな影が横切った。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!」
ハルだ。
刀を両手に持って怒り狂うような叫びと共にヴァロノスに斬りかかる。
「ヴァロノス…………………ッッ!」
「なんだ? 小娘……………………いや、その姿、東の島国にいた狐人族の生き残りか」
「よくも父上を、母上を、村の皆を殺したな!!」
抑えきれない怒りを体現するような怒涛の攻撃を繰り出すハルの斬撃をハルバードで容易く防ぐ。
「下がれ、ハル! お前じゃそいつには勝てねぇ!」
「うぁぁああああああああああああああああああああああああ―――――――ッッ!!」
翔の制止の言葉に全く耳を傾けずに攻撃を続けるハルに毒づく。
「クソが…………………ッ! 拘束しとくべきだった!」
わかっていたはずだった。
怒り、憎しみという感情は己を突き動かす衝動だということがわかっていたはずだ。
そこに理屈も状況も関係ない。その衝動が消えない限り決して動くことをやめない。
それがわかっていたから事前にハルに話をした。
何もするな、と。
しかし、それは逆効果だった。
怨敵が近くにいるというなかで溜まりに溜まったその衝動が爆発した。
今のハルはただヴァロノスを殺すことしか考えてない。
「あああああああああああああああああああああああっっ!!」
これまで鍛えてきた剣技と能力増大による強化された身体能力を駆使して休むことない連撃を放つもヴァロノスの肉体にはまだ一太刀も浴びさせてはいない。
「まさか狐人族の生き残りがこんなところにおったとは。だが、これも一興。あの人間を殺す前に小娘、お前を先に殺してやろう。お主の同族と同じように、な」
その言葉にハルの頭で何かが弾けた。
刀を大きく振り上げてハルは渾身の一撃を振り下ろす。
仙気の力も込めたこの一撃は例え防御したとしてもそこから体内に侵入してヴァロノスの気を滅茶苦茶にする。気の流れが絶たれれば動きが取れないどころか命さえも奪う防御無視の一刀。
「え………………………?」
だが、その一刀はヴァロノスに当たる寸前で刀が砕け散った。
「死ね」
呆然とするハルの首を刎ね飛ばそうとハルバードが迫りくる。だが、その前に翔はハルを抱きかかえて左手に魔法陣を展開させて防御を取るが――――
「!?」
儚い音と共に容易に砕け散り、翔の左腕がハルバードによって切断されて宙を舞った。




