戦闘準備
心の本音を吐き出させる為に行った殴り合いは途中から翔の一方的な暴力によってリヤンは気を失って終わりを告げた。
ボコボコになるまで殴り終えた翔はどこか清々しい表情をしていた気がするも気のせいであって欲しいとラヴァン達は思った。
「貴様が他の人間とは違うのはよくわかった………………………」
目を覚ましたリヤンは顔を痣だらけにしながら神妙な顔で口を開く。それに対して翔はほぼ無傷の状態でその言葉に耳を貸している。
「だが、族長としてそして一人の父親として一度口に出した言葉には責任を持たなければならん。それが娘からのものであれば尚更だ」
族長として一度はエルティと親子の縁を切ると宣言しただけではなく里を出ていけとも告げた。
自分が一度は口にしたことを有耶無耶にするのは他のエルフに対する示しにならないし、同胞を守る為に我が身を犠牲にする娘の覚悟と決意を侮辱することと同じ。
それはエルフの族長として一人の父親としての誇りがそれを許さない。
この戦いで勝っても負けてもラヴァンは里を出ていかなければならない。
ラヴァン達はその言葉を聞いて沈痛の表情を見せるも翔は黙って話に耳を傾ける。
「だから、この通りだ」
リヤンは深々と頭を下げた。
その光景にエルティもエルフ達も驚愕に包まれるなかでリヤンは翔に懇願する。
「私にできることならなんでもしよう。だから、どうか娘を無下に扱わないと約束してくれ」
「お父様………………………」
それは娘を想っての父親としての懇願であった。
他のエルフ達もいるなかで族長であるリヤンは頭を下げる。
それが族長として他のエルフに対して示しがつかない行為だったとしても娘を為を想えばこのぐらいなんてことはない。
リヤンは翔のことを信用も信頼もしてはいない。だが、少なくともこちらが真意を持って頼めばそれに応じるぐらいはしてくれると確信はある。
リヤンが本気で殴ったその拳を避けようと思えば避けれたはずだ。それを避けなかったのは恥ずべき行為だと知っているから避けずに受け止めた。
少なくとも眼前にいる男は自分の知っている欲に塗れた人間ではない。
その者ならまだ、と思い懇願する。
「………………………………俺はそいつをどうこうする気はねえし、ついてくるのも好きにしろ。どうなろうが俺の知ったことじゃねえ」
乱暴に頭を掻きむしりながらぶっきら棒に応える。
「………………………そうか」
その言葉に満足したのか、リヤンはそれ以上の追言はなかった。
「んなことよりもするべきことがあるだろうが? こちらの兵力、配置、一般人の避難、武器の調達、明日の戦いに備えてまずはそれを済ませてからでもいいだろうが」
「そうだな。ここで貴様と話す暇は確かにない」
リヤンは立ち上がってエルフの戦士達に告げる。
「皆の者、話は聞いての通りだ。ここにいる者達と共に魔族を撃退する。明日は負けられぬ戦。敗北は己だけではなく同胞までも死を招くことと知れ!」
『はい!』
「班を二つに分けよ! 一つは同胞達を一時の間、里の外へ誘導! もう一つは魔族の警戒に当たれ!」
『はい!』
族長の言葉に即実行に移る戦士達の動きは鍛え上げられた軍人のようで素直に感心する。
「さてと、おい、武器と鉱石があんなら全部持ってこい」
「何故だ?」
「強化してやるって言ってんだ。お前等がいなくなったらこっちも困るんだよ」
「………………………そうか。ならすぐに集めよう」
翔の言葉に頷いて他のエルフ達に里にある武器や鉱石をありったけ持ってこさせる。山のようにある武器と鉱石の前で翔は魔昌眼を開眼させる。
武器と鉱石の下に魔法陣を展開させて錬金魔術を用いて武器を作り出して強化する。
「ま、こんなもんか」
完成した新品同然の武器にエルフ達は歓喜の声を上げながら我先にと武器を手にする。
「軽い………………まるで羽を持っているみたいだ」
「それだけじゃない。剣の切れ味も恐ろしいほどだ」
「この弓それに矢は魔力に対する親和性が高い。これなら魔法を付与させる事ができる」
錬金魔術によって作り出された剣と弓矢を手にしてその性能に驚愕と同時にその瞳に希望を宿す。
これさえあればまだなんとかなるかもしれない。
「あの、ショウさん。ありがとうございます」
エルフが生き残れる希望を与えてくれる翔にエルティは今一度礼を口にするも―――
「万が一に死なれて文句を言われたら面倒だからしただけだ。お前等の為じゃなく俺の為にやったんだ。変な勘違いしてんじゃねえよ」
冷然とそう言い返す。
それでもエルティはおかしそうに笑みを溢した。
始めて彼と出会った時は冷たく恐ろしい人だと思っていた。
でも今は彼女達がどうして彼に好意を抱いているその理由がわかる気がする。
「あの、一つよろしいでしょうか?」
「なんだ?」
「もし、もしこの戦いが終われば私も貴方達と一緒に行動してもよろしいでしょうか?」
「……………………命の保証はねえぞ?」
「構いません。私も一人の戦士。覚悟はできています」
「ハッ、そうかよ」
覚悟を問われてはっきりと己の覚悟を示すエルティを鼻で笑ってぶっきらぼうに告げる。
「好きにしろ。もの好きめ」
「はい」
ここに新しい仲間の誕生がした。
そんな二人の話を少し離れて聞いていたラヴァン達は秘密話のようにヒソヒソと小言で話す。
「ねぇ、どう思う?」
「やはり、そうですよね……………」
「だよね。ショウってどんどん女の子を増やしているから数で押せば振り向いてくれるかな?」
「それは逆効果だと…………………ハルはどう思いますか?」
「ハルはご主人様が女性を何人侍らせても構いませんので」
そんな話が聞こえてくるが無視する。ああいう手合いの話は聞かない振りをするのが一番。
それよりも翔はそろそろ魔術だけではなく魔道具にも視野を入れるべきかもしれない。
魔昌眼を手に入れてからは大抵の敵は魔術のみでどうにかすることはできた。だが、いざ魔力が無くなった時のことも考慮して補助用の魔道具も作製しておいた方がいざという時に便利かもしれない。
今使用している魔道具はブーツに術式を書き込んだ、空気を足場にする《空歩》だけ。これ以外にも何か役に立つものを作っておくことも考えなければならない。
仲間も守る為にも。
そして煌とローレルを助ける為にも。
「……………………生きていろよ、お人好し共」
小声を呟きながら翔はどのような魔道具を作るか考え始める。




