誓い
『違う! 俺はそんなことしていない! 信じてくれ!!』
『止めろ、止めてくれ……………………どうしてそんな眼で俺を見る!?』
『いやだ……………もう、いやだ……………………』
『あぁ!? 文句あんなら言いやがれ! ゴミ! 文句を言う度胸もねえ奴がグチグチ言ってんじゃねえ!! 鬱陶しいんだよ!!』
『群れなきゃ何もできねえクズが! 二度と俺の前に顔を出すな!!』
『俺は一人でいい。お前等とはもう何の関係もねぇ』
『うぜぇんだよ!! どうせお前等も腹の中では俺のこと疑ってんだろう!? この偽善者共!!』
『なんならお前等も同じ目に合わせてやろうか!? そうすりゃ信じてやるよ!!』
「……………………」
悪夢から目を覚ました翔の視界に最初に入ったのは見覚えのない天井だった。
忘れてはならない過去の記憶を見たせいか不思議と落ち着いてどうして生きているのかを思い出した。
「……………………あぁ、生かされたのか」
魔族が襲来して幼馴染の二人を逃がした翔は一人残って魔族と交戦した。
魔術を駆使して傷を負おうが無視して強引に攻撃の手を緩めなかった。
一瞬でも防御に回ったその瞬間に自分が死ぬことが理解できていたから、満身創痍になりながらも戦い続けた。
だが、限界が訪れるのは予想以上に早かった。
魔力枯渇。
魔力を極端に消耗した時に起こるショック症状。魔術師も魔法使い同様に魔力を使って起動させるクラス。
戦闘開始からずっと魔術で攻撃し続けていたら限界を見誤って翔は力尽きた。
膝をついて動けなくなっていく翔を見た魔族は嘲笑と共に剣を翔に貫こうとした際。
『待て』
その魔族の背後から姿を見せた漆黒の全身鎧を身に着けた騎士が魔族を止めた。
黒騎士。ローレルに読まされた漫画で出てきたそのキャラに似ていた。
その黒騎士は翔の前に立つ。
『貴様が勇者か?』
『……………………ああ』
嘘をついた。
魔族の狙いが煌ならここで自分が勇者と名乗れば煌が狙われる可能性が低くなる。
逃がして良かったと少し安堵した。
『そうか。大人しく死を受け入れる気はあるか?』
『ハッ、クソくらえ』
空元気の嘲笑を浮かべて悪態を吐く。
『俺の首を切り落とせるものなら切り落としてみやがれ。首だけでもお前の喉元を噛み千切ってやる』
ハッタリだ。そんな力はもうない。
虚勢だ。中身などないハリボテ。
だけど大人しく殺されるほど謙虚な性格はしていない。
瞳に瞋恚の炎を宿しながら眼前の黒騎士を睨み付ける。
すると黒騎士は踵を返して歩き始めた。
『撤退する。その者は放っておけ』
魔族に撤退指示を出す黒騎士はまるで翔に興味がないかのようにその場から去ろうとする。
『……………どういうつもりだ? 殺さねえと後悔するぞ?』
その言葉に黒騎士は足を止めて振り返ることなく言った。
『私が貴様を助けるのは些細な気紛れだ。精々足掻くといい』
それだけ告げて再び足を動かす黒騎士の背を睨み続け、不意に意識が反転した。
そして気が付けばここにいた。
どうしてここにいるのか?
あれから何日経ったのか?
何もわからないことだらけだが、一つ言えることはある。
「ちくしょう……………………」
自分は生かされたということだ。
敵に情けをかけられて命を救われた。それはこれ以上にないぐらいの屈辱だ。
助かってよかったという安堵感と敵に助けられたという敗北感が同時に翔の心を荒らす。
「お目覚めになられたのですね……………………」
無力感に浸かる翔に声をかけてきたのは魔族襲来の際に逃がしたラヴァンだ。
「お前は……………………」
「もう、三日も眠り続けていたので心配致しました」
「おい、ここはぐぅ!」
ここはどこだ? そう問い詰めようと上半身を起こした時に激痛が翔を襲った。
「まだ動いてはいけません! 貴方様は酷い怪我を負われていたのですから!」
慌てて翔を寝かせようとするラヴァンの手を翔は弾く。
「んなことはどうでもいい! ここはどこだ!? どうしてお前がここにいる!? 全部答えろ!」
「重症人がそんな大声を上げるものじゃないよ」
不意に第三者の声が聞こえてそちらに視線を向ける。
そこには老婆がいた。いかにも魔女という言葉が似あう恰好をしている老婆が杖を持ちながらこちらに歩み寄る。
「お師匠様……………………」
「ラヴァン。お主ももう休みなさい。この者の説明が私がしておくさかい」
「はい……」
一礼して部屋から出て行くラヴァンを一瞥してから翔は老婆を見る。
「私の名前はレノア。あの子の師匠さね」
「……………………自己紹介はどうでもいい。さっさと状況を教えろ」
苛立ちを隠さずに催促する翔にレノアは表情一つ変えずに説明した。
始めに説明した内容はネイション王国は魔族の手によって完全崩壊したという事実。
魔族の手で多くの人が死んで生き残ったのは翔とラヴァン以外は不明。
そして、この場所はレノアの家だった。
レノアの弟子であるラヴァンは緊急時の通信手段として魔道具を常備していた。
それを使って師匠であるレノアの力を借りて逃げようとしたらしいが、自分を助けてくれた翔のことが放っておくことができなくてレノアと共に来た道を戻った。
しかし戻った時には既に魔族は撤退。まだ生きている翔を発見してこの家に連れ帰って治療した。
「この三日間、あの子は殆ど寝ずにお主の面倒をみとったよ」
「……………………そこまで面倒を見てもらうことをした覚えがないが、一応は感謝しておく」
「それでいいさね」
泣かした相手をよくそこまで面倒を見ることが出来る。
態度が一変したラヴァンに呆れながらそんなことを考える。
「あの子も王国一の魔法使いになって色々と余裕がなくてね。何か癇に障ることをしたのなら師である私が代わりに謝るよ」
「いらねえよ、そんなもん」
レノアの言葉に納得した。
王国一の魔法使いという立場上そういう振る舞いをしなければならないから最弱クラスである自分を切り捨てようとした。
結果的には翔がコテンパンにして泣かせてしまったがそこは忘れよう。
そんなことよりも翔にはするべきことがある。
一つ目は煌とローレルを探す。
即興の転移魔術でこの世界のどこかに飛ばしてしまった二人を見つけ出す。
二つ目は古代魔法を手に入れる。
元の世界に帰れる唯一の手掛かりである古代魔法を手に入れて元の世界に帰る。
三つ目は強くなること。
あの二人に何かあった時に助けられる力を身に着けておく。
それと翔を見逃したあの黒騎士を倒す。
黒騎士に関しては個人的な意地の問題だが与えられた屈辱は必ず返す。
だがその前にはこのだらしない身体をなんとかしなければならない。
「……………………少しの間、面倒になる」
「あいよ」
せっかく拾った命を無駄にはしない。何があっても何をしてでも必ず生き延びて二人と再会する。
翔は心に深くそう誓った。




