一番の馬鹿
魔族襲来。
あまりにも突然の襲来に城内にいる騎士や兵士は大慌てで魔族を迎撃する準備に取り掛かっている中で翔は迷うこともない行動で二人を探していた。
「どこだ……………!?」
周囲を見渡しても兵士や騎士ばかりで二人の姿が見えない。
「翔!」
「お前等!」
城内を走り回って煌に呼ばれて二人の姿を目視した翔はそのまま二人に向かって駆け出す。
「ちょうど君を―――」
「来い!」
「翔!? どうしたのです!?」
「いいから黙ってついてこい!!」
二人の意見を無視して翔は二人の腕を掴んで走る。通路で誰かが何かを叫んでいるが無視。今の翔にとって優先事項は二人の安全だ。
翔は城内を走り回して、地下に赴いてその扉を蹴り破る。
「ここは………………僕達が呼ばれた召喚の間」
「お前等、あの魔法陣の中央に立て」
「翔! 今は外の魔族をどうにかしませんと」
「言う通りにしろ!」
足を止める二人を強引に魔法陣の中央に移動させる翔。二人はそんな彼の慌ただしい雰囲気に当てられて渋々言う通りに動く。
「いいか? よく聞け。今のお前等じゃ魔族は倒せねえ」
翔は手首をナイフで切って血を流すと、それを魔術触媒として生成して魔法陣の書き換えに入る。
「訓練して剣や魔法が使えるようになってもお前等の根本はお人好しだ。絶対に敵を前にして殺していいのかと悩むはずだ」
「そんなことない! 僕だって綺麗ごとで終わらせるつもりなんて」
「いいから聞け! そんな隙を敵は見逃さない。だから今は逃げることだけを考えろ」
「翔は何をしているのですか…………………?」
「この魔法陣には召喚、つまり何かを呼び出す魔法陣。それを書き換えてお前等をこことは違う場所に転移させる。悪いが指定先まで書き換える時間がねえから転移後は自分の力でなんとかしてくれ」
「君はどうするだ!?」
「……………………書き換えたら俺もすぐにこの魔法陣の中に―――」
「嘘です」
翔の言葉を遮ってローレルは断言した。
「そんなの嘘です! 翔は私達だけを逃がして自分は残るつもりですよね!? それなら私達も残り――」
「《術式展開・結界》!」
魔法陣から出ようとする二人を魔術の結界に閉じ込めて動けなくする。
「出すんだ翔! 君だけを残していけない!」
「お願いです! 翔!」
二人は結界を叩きながら必死に魔法陣を書き換えている翔に訴える。それでも彼の手は止まらない。
「恐らく魔族達は勇者召喚のこの魔法陣を壊すのが目的でこの国を襲ってきた。もしくは今回召喚された勇者を恐れてか。どちらにしろ面倒なことをしてくれた」
「なら僕が前に出る! そうすれば君とローレルが」
「俺が言った事もう忘れたのか!? お前は絶対に生きなきゃならねえ! ローレルを元の世界に帰す為にもお前は絶対に必要なんだ! ここで死なせるわけにはいかねぇ!」
元の世界に帰るには煌の存在は絶対必要。生きて貰わないと困る。
「……………………煌。さっきお前のポケットにこの魔法陣を写した羊皮紙を入れておいた。いざという時は俺以外の魔術師にそれを見せて頼め」
「ふざけるな!! そんなことできるわけないだろう!?」
「そうです! お願いですからここから出してください!!」
犠牲になろうとしている親友に本気で憤る二人に翔は口角を上げる。
「……………………知っていると思うが、俺はどうしようもないクズだ」
「それは…………」
「荒れ狂って周囲に八つ当たりをして、如何にも自分が不幸ですって演じているクソ野郎だ」
その手を止めずに語る。
「お前等にも酷いことをした。何度も殴って蹴って。お前等も俺のことを嫌ってしまえばいいなんて最低最悪なことを考えていた。それでもお前等はずっと傍にいてくれた。笑って、慰めてくれた……………………」
表情を俯かせながらもその手は止まらない。いや、止めてはならない。
「嬉しかった…………………救われた……………………本当に、本当に救われたんだ。今でもはっきりと覚えている。お前等の声も顔も抱きしめてくれた時の温もりも励ましてくれた言葉も全部」
書き換えが完了して魔法陣を起動させる。
光り輝く魔法陣。その中央に立つ二人に翔は告げる。
「ありがとう二人共。俺はこうしていられるのもお前等のおかげだ」
普段は見せない彼の笑顔と素直な言葉。しかし、二人はそんな彼を見たくはなかった。
まるで、もう会えないかのように聞こえてしまうから。
「煌。ローレルを頼む」
「馬鹿野郎……………………」
そんな彼に煌は血が滲み出るほど手を強く握り締めて絞り出すようにそう言った。
「嫌です! 私は嫌です! 翔! 一生のお願いですからここから出してください! 一緒に戦わせてください! ここでお別れなんてあんまりです!!」
涙を流しながら懸命に叫ぶローレルに翔は言う。
「悪いなローレル。その頼みは聞けない。それに死ぬつもりはねえよ。お前等を転移させたら俺も逃げる予定で―――」
「もう嘘はいいです!」
「嘘じゃねぇよ」
「いいえ嘘です! 翔は私達以上にお人好しなのですからお見通しです! 一人だけ残って戦うなんて翔が私達のなかで一番馬鹿です!バーカ! 翔のバーカ!」
「うるせぇよ。馬鹿って言った奴が馬鹿だ、馬鹿」
「翔も馬鹿って言いました! 翔が馬鹿です!」
「それならお前も言っただろう、馬鹿」
口汚い罵り合いをする二人に魔法陣は一層に輝きを増していき、二人の姿は消えた。
「達者でな。元の世界で幸せになれよ」
いなくなった二人がいた場所を見て最後にそれだけを告げて翔は踵を返して走り出す。
地下から地上に出て、窓の外を見るとそこは地獄だ。
禍々しいモンスターが人を喰らい、悪魔の翼を生やした魔族が騎士を殺して、武器や魔法で互いの命を奪い合う光景が映し出されていた。
「きゃああああああああああああああああああああああああっっ!!」
ラヴァンがモンスターに襲われそうになっているのを見て翔は窓を蹴り破って魔術を起動。
「《術式展開・結界》!」
襲われる瞬間にラヴァンは魔術結界に包まれて間一髪で助かった。
「《術式展開・風》!」
続けて術式によって風を圧搾凝集して風の塊がモンスターを吹き飛ばす。
「おい! 無事か!?」
翔の言葉にラヴァンは首をコクコクと縦に振って応えると翔は彼女の手を掴んで強引に立たせる。
「走れ! 後ろは守ってやるから振り向かずに走って逃げろ!」
「あ、で、でも……………………」
「いいから行け!!」
怒鳴り声が彼女を動かした。
翔に背中を向けてその場から駆け出す彼女の後ろ姿を見て翔は前を向く。
そこに待っていたのは数多の凶悪なモンスターに魔族の集団。
それを見て恐怖で膝が震え、汗が止まらない彼は強引に口角を上げて強がった。
「あーあ、せめて告白でもしときゃいい思い出になったか…………?」
冗談交じりにそうぼやく。
だが、それはしてはならない。
何故なら彼にはもうローレルを好きになる資格はないのだから。
「かかってきやがれ!! このクソ野郎共ォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」
大声を張り上げて恐怖に震える体を強引に動かせる。
襲いかかってくる魔族、モンスター。
魔法陣を展開させて魔術を起動させる翔。
己の身の危険を顧みずに彼は戦場にその身を置いた。




