作戦会議
宿での一悶着から翌日の早朝。
翔達とエルフの族長であるリヤンと里のエルフの精鋭部隊。そしてエルティが一室に集まり、魔族の迎撃もしくは撃退に向けての話し合いが始まろうとする。………………………はずなのだが。
「人間などに話すことなど何もない。すぐにここから出ていけ」
ふんぞり返るリヤンは話し合いが始まる前から翔達を追い出そうとするも、それにエルティが口を挟む。
「お父様。今は派閥よりもこの里全体のことを考えてください」
「私を父と呼ぶな! これはこの里を治める族長としての言葉だ。人間などに我等の里を任せるなど言語道断! 即刻立ち去れ!」
「いい加減にしてください! 先日の戦いをもうお忘れですか!? 襲撃してくる魔族達に我等は誇りを胸に抱き、戦った結果が敗北です! 今この場にいる戦力で戦えると本気でそう思っているのですか!?」
先の戦いでエルフは戦い、敗れた。
その戦いでエルフの戦士は半数は倒され、まだ戦える戦士はこの場に集まっている十数人。
残りは幼子、老人、怪我人ばかりの今の状況ではエルフ達に待ち受けているのは滅亡のみ。
戦いに慣れていない者を集めたとしても百人が限界のエルフ達に対して―――
「魔族の軍勢はおよそ五千! 私達の五十倍以上の勢力を有しているのです! それに仮に、仮にその勢力をどうにかできたとしても最後に残っているのは魔族の中で魔王に認められるほどの実力を持つ精鋭の精鋭、七魔将の一人なのですよ!? そんな相手にどう戦うというのですか!?」
「それをこれから考えるのではないか!?」
「でしたらそこに彼等を迎え入れることも考慮して――」
「それはならん!! これは我々エルフの問題だ!!」
「その枠を超えていると先日も申し上げたはずです!!」
「認める―――――――!? ――――――――!」
「もう黙っとけ」
言葉を発しようとするリヤンに呆れながら魔術を行使して黙らせる。
「貴様! 族長になにをした!?」
「話が進まねえから黙らせただけだ。これ以上くだらねえことでイラつかせんな」
睨む翔に身を竦むエルフと何か叫ぼうとしているも魔術で言葉を発することもできないリヤンは激しく翔を睨むも無視して話を続ける。
「先に言っておくが、五千の勢力ならどうにでもなる」
言い切る翔の言葉にエルフ達は目を見開いて騒めく。
「そ、それは本当ですか………………………?」
「嘘は言わねぇ。俺の魔術でどうとでもなる。だが、大規模な魔術を使うのは時間がいるから数分は持ちこたえる必要がある。実際に俺はそれで魔族を倒した」
「はい。以前に魔族の軍勢が襲撃した際もショウ様は一撃で葬った実績があります」
ラヴァンの言葉に歓喜の声を上げるエルフ達に光明が見え始めた。
「それなら時間稼ぎならお任せください。私達エルフの魔法で全力で時間を稼いでみせます」
「だとしたら問題は………………………」
「ああ、七魔将ヴァロノスだ」
五千の勢力はどうにかできても一番の問題であるヴァロノスをどうにかしなければ何も解決したことにはならない。
「奴の能力は把握してんのか? そもそもどうやって奴はこの里を襲った?」
「…………………………それはわかりません。私達も突然の事でしたので」
翔の質問に言葉を濁らせるエルティだが、一人のエルフが挙手をして口を開いた。
「奴は里に張っている結界を簡単に通り抜けてきたのを見たんだ。どうやってかはわからないが………………」
「………………………結局は何もわからねえってことかよ」
曖昧な情報で呆れるも内心は無理もないと一考する。
突発的に襲撃を受ければ誰だって慌てるし、戸惑う。その中で相手の実力を見極めろという方が難しい。
「まぁいい。わからねえことに時間を割く暇は今はねぇ。問題は魔族がいつ襲撃してくるかだ」
「それはわかります。奴等は去る前に二日後にまた来ると申しておりました」
「つまり明日か……………………」
明日には魔族との戦いが始まる。
その事実にエルフ達の緊張感が増すなかでリヤンは今も何か言いたそうに叫んでいる。
「舐められてんな」
「はい、屈辱でしかありませんでした……………………」
悔しそうに手を強く握るエルティは魔族の舐め切った態度に腸が煮えくり返る思いだ。
わざわざ襲う日を告げて去る魔族に怒りを覚えない訳がない。
完全にエルフ達を下に見ている。
だが、翔はそんなエルフ達を鼻で笑った。
「ハッ、馬鹿かお前等は。そんなもん弱いお前等が悪いに決まってんだろう。舐められる方が悪いんだよ」
「なんだと貴様!?」
「いくらエルティ様の客人といえど言っていいことと悪いことがあるぞ!?」
憤りを見せるエルフは腰に下げている剣に手を伸ばすも―――
「鎮まりなさい!!」
エルティの一括で動きを止める。
「彼の言葉は最もです。魔族の襲撃を許し、尚且つ同胞を守ることもできなかった我々の脆弱性がこのような結果を招いたのです。その言葉を甘んじて受け止めなければ我々はまた同じ過ちを繰り返してしまうかもしれません」
「しかし―――」
「それにここで彼に武器を向けるのは自殺行為他なりません。座りなさい」
「………………………………はい」
エルティの言葉に渋々腰を負わすエルフを見て翔は今も無駄に叫んでいるリヤンを一瞥する。
「お前が族長になった方がよかったんじゃねえか?」
状況を見て最善の判断を選んでいるエルティとそうでないリヤン。
どちらが族長に相応しいのか一目瞭然なのだがエルティは首を横に振った。
「いえ、これもお父様の人徳が成せたからこそ聞いてくださるのであって私自身には誰かを従えさせることなどできません」
こいつにそんなものがあるのかと翔はもう一度リヤンを見るが首を横に振った。
「そうとは思えねえが……………まぁどうでもいい」
今はこんなことでどうこう言う時ではない。
「明日の魔族の戦い、七魔将の相手は俺達に寄越せ。死体ぐらいはくれてやる」
「それはこちらとしても助かるのですが……………よろしいのでしょうか?」
「ああ」
翔は隣で大人しくしているハルの頭に手を置いて告げる。
「約束したからな」
ハルの代わりに復讐を果たすと約束をした。それを破ることはしない。
「では七魔将のお相手はショウさん達にお任せしますが、我々が貴方方に支払う報酬の件についてなのですが………………………」
そこで言葉を言い淀むエルティに怪訝するもその理由はすぐにわかった。
きっとエルティは自分一人だけでは足りないのだろうと思っている。
魔族の勢力も七魔将も押し付けるように翔達が引き受けているから。それが本人達にとってさほど問題がないことでもエルティからしてみたらそうではないのかもしれない。
翔は一度リヤンを見て言った。
「ああ、その件に関しては心配する必要はねえぞ」
「え?」
その言葉に一瞬の戸惑いを見せるエルティに対して翔は凶悪な笑みを浮かばせて言った。
「お前を奴隷商に売って金にする。その金を報酬金として貰ってやるからよ」
その言葉にこの場に空気が凍った。




