好きにしろ
エルフ里に到着した日の夜。
翔はエルティに案内された宿でエルフの里を襲う魔族について考えていた。
エルフの里を魔族の正体。それはハルの村を滅ぼし、村人を両親を殺してハルに復讐を誓わせた七魔将の一角であるヴァロノス。
そのヴァロノスがどうして狐人族やエルフなど亜人族を襲うのかはわからない。
だが、翔もそのヴァロノスに用があったからちょうどよかった。
「あの、ショウ様………………」
「ああ」
声を潜めながら声をかけてくるラヴァンの言いたいことはわかっている。
床に正座して落ち着いたように見えるハルだがそれは違う。
マグマのように燃え上がる感情を必死に押さえ込んでいるのがわかる。実際にハルはエルティからその名を聞いた時、二人の制止を振り払って動こうとした程だ。
無理もない。憎しみという感情は抑えようと思って抑えきれるものじゃない。
「ハルちゃんのこともあるけど私はショウの方が気がかりだよ」
「あぁ? 俺が?」
様子を見ようと思った矢先、サクロがそんなことを口にする。
「確かにムカッってしたけど、族長さんを殴るなんてどうしたの?」
「それは私も気になります。何かあったのですか?」
族長であるリヤンを殴り飛ばした原因を追求する二人に舌打ちする。
「別に何もねぇ」
「ショウ様は何もないのに人を殴る人ではないことぐらい知っております」
「汝、懺悔なさい。私は汝の罪を許します」
真剣に尋ねてくるラヴァンの隣でサクロは聖職者としての言葉を発する。
「何もねぇもんはねぇ」
それでも翔は頑なに口を割ろうとしない。
本当に頑固者だと二人はそう思った。
ハルのことも気になるが、今は置いておく。ハルがどうして復讐を胸に秘めているのかその原因も理由もはっきりしているから。だが、翔は違う。
自分の事は頑なに話そうとしない翔にサクロは大きなため息を溢す。
「ショウ、私達は仲間でしょ?」
「それがどうした?」
「仲間なら苦楽を分かち合うべきじゃないかな?」
「サクロ様の仰る通りです。辛いことがあるのなら私達にも―――」
「止めろ」
真意に翔を想う二人の気持ちを遮るように翔はその手を強く握りしめ、鋭い眼差しで二人を見据える。
「これは俺の俺だけの苦痛だ。それを誰かに背負わせる気は微塵もねぇ」
はっきりと告げた。
譲れない強い意思を感じさせる重いその言葉に押し黙る。
「つまりショウは痛いことに喜んでしまう人?」
「なんでそうなりやがる!?」
「え? 違うの?」
「当り前だろうが!!」
変なことを口走るサクロに翔は全力で否定する。
「大丈夫。私はショウにどんな性癖を持っていても受け入れるよ」
「わ、私も頑張って受け入れます…………………!」
「違うつってんだろうが!! ぶっ飛ばすぞ!!」
大声を張り上げて否定する翔は予想斜め上にいく発言にどっと疲れを覚えた。
「それなら話してよ。私達だってそろそろショウのことを知ってもいいと思うし」
「私達では頼りないですか?」
話すことを追言してくる二人の言い分は間違っていないことぐらい翔も理解している。
もうずっと共に旅をしている。信頼に置ける相手だとわかっている。
だけど、これだけは誰にも話すことは許されない。
自分の弱さに甘える真似だけは決してしない。
「俺の事で話すことはなんもねぇ」
それが不信感やその信頼を裏切る行為だとしても自分の口からそれだけは言わない。
その答えにサクロはまた口から大きなため息を吐き出す。
「なら仕方ないか………………」
「あぁ?」
何がしかたないのかと怪訝すると不意にサクロは自分の服を豪快に脱ぎ始める。
「なにしてんだ!?」
「何をしているのですか!?」
思わず叫ぶ二人にサクロは脱いだ服を丁寧に畳みながらあっけなく答えた。
「え、尋問。ショウが自分のことを話してくれるまで裸でショウを襲うだけだよ」
「お、ま………………それでも聖職者か!?」
「聖職者だよ。それにこうでもしないと話さないショウが悪いんだよ」
顔を真っ赤にして叫ぶ翔は視線をサクロから外すもサクロはそんなことお構いなしに下着に手を伸ばす。
「サクロ様! それはいくらなんでもやりすぎです!! いくらなんでもは、は裸だなんて…………………ッ!」
よしいいぞ。こいつを止めろ。翔はラヴァンを全力で応援する。
「ラヴァンだって嫌でしょ? 隠し事されるの。ならこうして強引に聞き出すしかないよ」
「そ、それはそうでしょうが……………………ッ!」
「少しでもショウの力になりたいのならショウが苦手な色香で攻めるのがいいんじゃないかな?」
「………………………………」
「おい」
無言で葛藤するラヴァンに思わず声をかけるも反応はなかった。
今、ラヴァンのなかにある天秤が揺らいでいる。羞恥心を捨ててまで翔の事を聞くか、羞恥心を捨てずに翔の話を聞かないか。その天秤が揺らいでいるなかでサクロが追い打ちをかけるように耳打ちする。
「女として意識してくれるかもよ?」
その言葉に天秤は決定した。
「わ、私も脱ぎます! ショウ様のお力になりたいですから!」
「おい! 俺はお前の事を常識人だと思ってんだぞ!? その悪魔聖職者の言葉に耳を貸すんじゃねえよ!!」
「これもそれも全てショウ様が悪いのです! お覚悟を!!」
「お前等な!!」
恥ずかしながらも服を脱いでいくラヴァンに既に一糸まとわぬ姿となっているサクロ。翔は目を強く瞑る。
「マジでぶっ飛ば――」
脅しをかけようとする翔だが押し倒されて床に転がり込む。目を閉じている為に誰かはわからないが誰かが自分に抱き着いているのは感触を通じてわかる。
「ほらほら~さっさと話さないともっと強く抱きついちゃうぞ~」
「お前…………! いい加減にしやがれ!!」
翔は声を聞いて抱き着いているのがサクロだとわかって蹴り飛ばそうとするも身体が動かない。
「いい加減にするのはショウのほうじゃないかな?」
「魔法で身体を拘束させていただきました」
「お前等……………………ッ!!」
どうにか拘束から逃れようとするも抜け出せない。その様子を見たサクロはある疑問を抱いた。
「あれ? 魔術で拘束を解かないの?」
「うるせぇ! こんなもん力づくで…………………ッ!!」
「もしかして解けないの?」
その確信染みた言葉に歯を強く噛み締める。
魔法は無から有を生み出す力にたいして有から有を作り出す魔術とは根本的な違いがある。
それが自然現象の類などであれば魔術を用いて間接的に干渉させることは可能だが、直接的な干渉はできない。今の翔のように魔法の縄などで縛られている状態なら抜け出すことは困難。
魔昌眼を用いて対象の魔力を解析すればどうにかなるが、今は目を開けることができない為に翔が縄から抜け出すには自らの力で抜け出すしかない。
「そっか~これはいいこと知ったな~」
「ショウ様。か、覚悟を固めてください」
目を閉じている為に何をしているのかはわからない。ただ、自分の上に何かが乗っかかっているのはわかる。すると、不意に服の中に手が入ってきた。
「お前どこに手を入れてやがる!? 痴女か!?」
「失礼な。ショウの身体だから興味があるんだよ。うわ、凄い筋肉。やっぱり男の人って硬いな……………ラヴァンも触ってみたら?」
「そうですよね、仕方がないことですよね。では、失礼して」
「本当にいい加減にしやがれ!!」
怒鳴り散らすも二人は止まらない。翔に抱き着きながらも身体をまさぐってくる二人に翔はハルの存在を思い出した。
「ハル! ”命令”だ! この二人を止めろ!!」
使いたくはなかった奴隷の首輪による命令で二人を止めさせようとする翔だが、一向に動く気配を感じられない。
「知ってる? 命令は奴隷の耳に入らないと強制的に従えることはできないんだよ」
「音を遮断する結界をハルに張りました」
どこまでも用意周到。というよりもこんなところで魔法の成果を発揮してどうすると文句を言ってやりたい。
「さぁ、話す気にはなったかな?」
「話してください。ショウ様」
「………………………………………………………話す気はねぇ」
それでも翔は口を割ることは無かった。それどころか抵抗する意思を失くしたかのように強張っていた全身の力を抜く。
「好きにしろ。だが、俺は自分の事は絶対に言わねぇ」
ここまでやっても翔は口を割らなかった。
どうしてそこまでして言いたくないのかわからない二人は顔を見合わせる。
「失礼します。明日の行動についてお話したいことが………………」
不意に部屋を訪れてきたエルティはそれを目撃した。
魔法で身体を縛られて床に転がっている翔とその上に全裸でのしかかっているラヴァンとサクロ。そして結界内に正座しているハルというおかしな光景を目の当たりにしたエルティは何も言わず、何も聞かず、そっと扉を閉めた。
誤解を解く為にラヴァンとサクロは大慌てでエルティを捕まえる。




