母の代わり
「お待ちください!!」
エルフの族長であるリヤンを殴り飛ばした翔と族長の声に駆けつけてきたエルフ達が一触即発なか、エルティが両者の間に立ち入る。
「ショウさん、貴方が私の為に怒ってくださったのならそのお気持ちには感謝します! ですが、ここで争うのは貴方方にとっても不利益になるはずです!」
次にエルフ達に。
「武器を下ろしなさい! 今、私達が戦うべき相手はこの方達ではなく魔族のはず! この場は私に任せて下がりなさい!!」
エルティの言葉に翔もエルフ達も互いに矛を収める。
ここでエルフと戦うのは簡単だが、翔の目的はあくまでこの先にある白亜の塔。そこにはエルフの力が必要になる。エルティの言う通りここで戦うのは不利益でしかない。
エルフ達も現在戦っている相手は眼前にいる人間ではなく自分達を襲撃してきた魔族だ。
族長の娘であるエルティに従い、その場を離れていく。
互いに争うことなく無事に終えたことにエルティだけではなくラヴァン達も安堵の息を漏らす。
「な、何を勝手に…………………ッ! 親子の縁を切った貴様にそのような決定権はない!」
「まだ言うか……………」
自分勝手な理由で親子の縁を切ったリヤンに翔は苛立ちを露にする。
まだ殴り足りないのかと拳を振り上げようとする翔にエルティが父親を守るように前に立つ。
「どけ」
「いいえ退きません。例え縁を切られたとしてもこの人が私のお父様には違いありません。どうか、その怒りを私のお父様に向けないでください」
凛とした真っ直ぐな瞳で翔から目を逸らさずに言い切る。
その確固な意思がその瞳から感じる翔は振り上げた拳を下ろして踵を返す。
「くだらねぇ………………………」
吐き捨てるようにそれだけを言って部屋から出て行く。
胸を撫でおろすエルティやラヴァン達。翔の怒りを直接受けていたリヤンはその場で座り込む。
「お騒がせして申し訳ありません。お父様には私からよく言い聞かせますので」
「あ、いえ、私達よりもエルティ様の方が………………………」
「私のことはいいのです。それよりもこれからのことについてです」
親子の縁を切られたはずなのにエルティは自分のことを置いて今後のことについて話を進める。
「私達エルフを狙う魔族。その正体は既に判明しています」
「それは……………………?」
重苦しい空気の中でエルティは重い口を開けてその名を口にする。
エルフの里を勝手に出歩く翔は特に何もせずただ里の中を歩いていた。
「おい、人間だ」
「本当だ………………どうして人間がこの里に?」
「へぇ、あれが人間か………………初めて見た」
「さっきエルティ様と一緒に歩いているのを見たぞ」
「フン、人間風情が好き勝手に我が里を出歩きおって」
「放っておけ。我々には関係のないことだ」
興味、疑問、感心、侮蔑、無視。様々な視線と声が翔に向けられるもその一切を無視する。
陰でごちゃごちゃ言う奴にいちいち構う方が面倒だ。
「ああくそ、イラつく………………」
リヤンのせいで嫌な記憶を思い出した翔は苛立ちが収まらない。
もう二、三発殴っておけばよかったと少し後悔する。
「きゃ!」
「あぁ?」
歩いていると不意に何かにぶつかって翔は視線を下に向けるとエルフの女の子が尻餅をついていた。
走ってたまたまぶつかったのだろう。翔は溜息を吐きながら手を差し伸ばそうとする。
「フィーリア!」
だが、その前に母親と思われるエルフが女の子を抱きしめて翔から距離を取る。
そして人間である翔を睨むように見てその場から離れていく。
「チッ」
異物でも見るかのようなその瞳を見て翔は自分がどうしてこんなにも苛立っているのかわかった。
リヤンの事もある。だが、今はこの里にいるエルフの声と視線に苛立っている。
昔を思い出させるかのようだ。
「こちらにおられましたか」
「…………………何か用か?」
背後から駆け付けてきたエルティが声をかけてきた。
「はい、皆さんを宿までご案内してきました。ショウさんにもご案内と魔族のことについてお話があります」
「ああ」
どこに泊ればいいのかも魔族のことについても何も知らされていない翔はエルティの話に納得する。
「どこにある?」
「こちらです。ついて来てください」
宿があるところまで案内されながらエルティは族長の部屋での話を振る。
「どうかお父様をお許しください。本当はエルフにも人間にも差別なく接する優しい方だったのです」
「あれでか?」
どう考えてもリヤンの言動とエルティの言葉が繋がらないことに怪訝する。
「お父様は元々は改革派だったのです。ですが、お父様の妻、私のお母様が人間に攫われて奴隷にされてから保守派になってしまわれたのです」
エルティの母親イシャメルは改革派のエルフだった。
人間や他の種族とも積極的に交流を深めてエルフの生活をもっとよくしようと日々努力していた。
父、母共に改革派のエルフでその娘であるエルティもその姿に憧れの念を抱いていた。
だがある日。
人間の商人の話に乗せられたイシャメルは里から離れた場所で単身で訪れて奴隷商人に捕まった。
それを後に知った族長であるリヤンは妻を取り戻そうと部隊を引き連れて駆け付けるも何もかも手遅れだった。
どこに連れて行かれたのか、どこに売られたのかわからず。リヤンは妻を騙した人間に強い憎悪を抱いた。
それからリヤンは改革派から保守派に移籍し、娘であるエルティに人間の怖さを教え込んだ。
「ですが私は、お母様がこれまでに培ってきた努力を無駄にはしたくありません。それを成し遂げてお母様の努力を実らせたいのです」
失った母親の意思を代わりに受け継いで父親に反対してでも改革派に属する。
「ハッ、それで娘を勘当するとはいい度胸だな」
確かにそういう経緯があって人間を毛嫌いする気持ちは理解できるし、保守派に移籍するにも頷ける。
だが、それで娘を勘当するのは別問題だ。
「それは仕方がありません。そもそも人間を里に招き入れること自体が掟に反することなのですから」
苦笑するエルティに舌打ちする。
「それで勘当かよ。胸糞悪ぃ」
「いいです。その覚悟で私は貴方方を招いたのですから。あ、こちらです」
翔達が泊まる宿に到着した二人。そしてエルティは最後にこれだけは告げて置いた。
「私はここで失礼させて貰いますが、最後に今回エルフを襲う魔族の正体についてお話しておきます」
「ああ」
エルフを襲う魔族。その正体に耳を傾ける。
「相手は七魔将の一角、ヴァロノス。この者が私達エルフを襲う魔族です」
その名に翔は聞き覚えがあった。
それはハルの村を襲撃したハルの怨敵。復讐の相手。
それがこのような所で会うことになるとは予想外もいいところだった。
だが、これで翔にも戦う理由ができた。




