間違っても
エルフの少女、エルティを魔族から助けた翔達。
そんな翔達を味方につけてエルティは自分が住むエルフの里にまで道案内をする。
「ここからは私達エルフの魔法がかけられています。私の後ろについて来てください」
木々や草花しかない森の中を歩いている途中、不意に森の中が霧に包まれる。
「魔族から身を隠すために私達が張った方向感覚を失わせる魔法です。同胞である私には効きませんが、皆さんには効果が及びますので注意してください」
注意を促して足を動かすエルティを見失わない様に進む翔達。
「エルフの方が使う精霊魔法は大自然の力を操ると聞きますが、これもその魔法の一種なのですか?」
「はい、我々エルフの魔法は自然との親和性が高くので自然の力を少し借りることができます。詳しくは私もわかりませんが、この魔法のおかげで我々エルフは今も辛うじて生き永らえているのは確かです」
精霊魔法の力のおかげで魔族の襲撃から生き残ることが出来たエルフ達だが、それはあくまで一時凌ぎでしかない。時間が経てばまたいつ魔族が襲ってくるかわからない状況に立たされている。
「私は里を出て助けを求めようとしたのですが、道中で魔族に見つかり交戦に応じるしかありませんでした」
「その時に私達と出会ったんだね」
「はい、貴方方に出会えた幸運に感謝しかありません」
「んなことより、里はまだなのか?」
「もうすぐで霧から抜けられます。そうしたら見えてくるはずです」
碌に見えない霧の中をエルティは迷いのない足取りで進んで行く。
翔達の目には辺り一面霧しか見えないが、エルフであるエルティにははっきりと視認できているのだろう。
翔は警戒して密かに探知魔術を起動させているが、反応がない。
少なくともエルフや魔族がこの霧の中で奇襲してくることはほぼ皆無だろう。
更に翔よりも探知・探索に優れているハルも何も言ってこない。この霧に魔法、魔術を狂わる効果はないのかもしれない。
ただ白亜の塔にエルフの集落を通るにはこの霧をどうにかしないといけないのはよくわかった。
エルフの手助け無しに進めばこの霧の中で力尽きる可能性が高い。
あの時エルティと出会えたのはこちらにとっても幸運だった。
警戒しながらエルティについていくと、霧から抜け出ることができた。
そしてその先にエルフの里だと思われる集落があった。
「我が里に人間を招き入れるとはどういう了見だ!? 恥を知れ!!」
「しかし、このままでは里も我々も魔族の手によって滅ぼされてしまいます! この方達の実力は本物です! この方達と協力すれば多くの同胞を救うことができます!!」
「その考え自体が恥知らずだというのだ! 人間なんぞに媚を売りおって!」
エルフの里につくなり、翔達は族長であるリヤンのいる一室まで招かれた。
エルティの案内で里につくなり、他のエルフ達に警戒され、疑心の眼差しを向けられる。
魔族に襲撃を受けたばかりということもあって気が立っているのはわかるし、特に何かを言うつもりもなかった翔達だったが、翔達の事をこの里の族長に伝える必要がある為に翔達は今ここにいる。
エルフの族長であるリヤンは翔達を見るや嫌悪の眼差しを向けてきた。
族長であるリヤンはエルティが話した保守派のエルフだと思って間違いはない。
「これは我々エルフの問題だ! 関係のない奴等はすぐに里から追い出せ!」
「そうすれば多くの犠牲者が出てしまいます! それにこれはもう我々でどうこうできる枠を超えています! どうか、同胞のことも考えてください!」
「私が考えていないと思っているのか!? だから貴様等改革派の考えには同意しきれない! 他の種族に頭を下げて媚びへつらえと言うのか!?」
「そこまで言ってはおりません! ですが、このままでは我々は滅ぶ一方。他種族と手を取り合って協力し、共に生きる道を探すことで我々は生き残ることができるはずです!」
「誇りを捨てろというのか!?」
「違います! 誇りを忘れない為です!」
「戯言を! まだ産まれたばかりの赤子同然の分際で!」
族長であるリヤンの言葉に翔は首を傾げる。
エルティはどう見ても自分と同じぐらいの年齢に見える。どう見たら赤子同然なのかわからなかったが、隣にいるラヴァンがそのことについて説明してくれた。
エルフは不老長寿。長い年月を生きる種族だ。
平均寿命は700~800とされ、長寿で1000を超すと言われている。
しかし、繁殖能力が非常に低く、子を成すのは難しい。
話を聞けばエルティの年齢は50前後。エルフからしてみればまだ赤子もしくは幼子でしかない。
200歳で成人して一人前のエルフとして迎えられる風習がある。
年齢の規模が違い過ぎる翔には想像もできないことである。
そんなことを考えている最中にリヤンがハルを指した。
「そもそも奴隷をつれている人間など信用できるものか!?」
ハルがつけている奴隷の首輪。それを見てリヤンはハルを奴隷と言い切ったのだが―――
「違います! ご主人様はこれを外そうとしてくださいました! これはハルが自分の意思でつけています!」
ハルはそれを否定した。
ハルの代わりに復讐を果たすその時までハルは主人である翔の所有物になると決めた。
この首輪は翔とハルの約束の首輪なのだから。
ハルの言葉を聞いて息を漏らした翔はうんざりしながら口を開く。
「そもそもお前等エルフだけで片づけられる問題ならとっくに解決できてんだろうが。誇りをいう前にまずは目先の問題を解決する方が先じゃねえのか?」
「黙れ! 貴様等人間の言葉に耳は貸さぬ! 貴様等人間は欲望の為に他者を陥れる最悪の種族だ! この騒ぎに乗じて我々を奴隷にするつもりではないのか!?」
「被害妄想逞しいな、おい」
怒りうんぬん以前にそこまで想像するリヤンの被害妄想に呆れる。
因みにエルフは奴隷としては非常に高く売れる。
希少価値が高く、それが女性で処女であればその価値は跳ね上がるのだが翔はそれを知らないし、知ったところでどうこうするつもりは微塵もない。
「お父様! 今の発言は私を助けてくださったこの方達に対する侮辱です! 謝罪と撤回をしてください!」
「誰が人間などに頭を下げるか! 私は事実しか言っておらん! 貴様も私の娘ならば人間がどういう生物かよく知っているはずだ! それなのに何故人間の味方をする!?」
「全ての人間がそうだとは限らないからです!」
「同じ種族には違いない!」
互いの会話に二人は親子だと知った。
保守派の父親と改革派の娘。互いに考えが違う為に意見も合わない。
野党と与党の政治理論を聞いている気分だ。
言い争う父娘に族長であり父親のリヤンが深い溜息と共に吐き捨てるようにエルティに告げる。
「………………………………これ以上の言葉はもはや不要。人間などと共に生きる道を選んだ貴様はもはや私の娘ではない。すぐにこの里から出て行け」
あまりにも突拍子もないその言葉にエルティだけではなくラヴァン達も目を見開いた。
たったこれだけのことで親子の縁を切る父親の余りにも酷い仕打ちに驚きのあまり言葉を失う。
『もうお前は俺の息子じゃない』
『もう二度と顔を見せないで』
「………………………………………………………」
リヤンの言葉に翔は嫌な記憶を思い出した。
忌むべき過去。それを思い出した翔はその場から立ち上がり、リヤンに近づく。
「なんだ? 私になにか――――っ!?」
リヤンの言葉を遮るように翔の拳がリヤンの顔面に直撃し、殴り飛ばされる。
それに驚く、エルティ達を無視して翔は床に倒れているリヤンに峻烈な眼差しを向けて言った。
「間違っても自分の子供にそんなこと口走るんじゃねえ! 次に同じことを言ったら魔族より先に俺がお前をぶっ飛ばしてやる!!」
怒声を飛ばす翔にリヤンは戸惑いと恐怖に打ち震えながら後退りする。
「だ、誰か! この者達をひっ捕らえよ!!」
怯えながらも助けを叫ぶリヤンの言葉にその場に多くのエルフ達が集結する。
「上等だ………………! 文句ある奴は全員かかってきやがれ!」




