降り掛かる火の粉は
魔族の集団に襲われていたエルフを助け、魔族の一体を熱の帯びた鎖で捕縛することに成功した。
「たかが人間風情がなんでこんなところにいやがる……………ッ!?」
しかし、魔族は捕らわれているにも関わらず、強気だ。
怯えも恐怖も弱みさえ見せない魔族に翔は鎖の束縛を強める。
「そんなことはどうでもいい。お前は黙って俺の質問に答えやがれ」
「ハッ、たかが人間に教える事などなにもない」
ぎりぎりと鎖で締め付けられているにも魔族は翔の問いかけを拒絶。反抗的な意思をみせる。
熱を付与させた鎖によって苦痛が強いられているはずなのにこの魔族は怯むことさえしないその根性に翔は気骨のある奴だ、と内心でそう思った。
「ハッ、碌に動けねえ奴が偉そうにしてんじゃねえ」
「フン、貴様こそこの程度で俺を捕えたつもりか?」
そう言い返す魔族にサクロから治療を受けているエルフが声を飛ばした。
「気を付けて! その魔族にはまだ………………ッ!」
その言葉を遮るように鎖が引き千切られる。
以前、魔族化したスティルの時より多少は頑丈にした鎖を眼前の魔族はまるで紙切れのように引き千切った。
鎖から解き放たれた魔族は立ち上がって口角を上げる。
「この程度の鎖、俺の能力〈剛力〉の前では何の意味もない」
「へぇ………………………」
上から目線でものをいう魔族に翔は冷笑を浮かばせる。
魔族にはその個体によって能力が存在している。
魔法でも魔術でもない。その個体によって持つ特殊能力。
眼前にいる魔族は〈剛力〉。その名の通り、力を上げる能力を持っているのだろう。
「さて、この俺をコケにした代償は高いぞ。人間!!」
振り下ろされる拳は能力〈剛力〉によって通常よりも腕力が引き上げられ、如何に頑丈な盾や鎧を持っていようが関係なくその防御ごと殴り潰すことができる。
直撃すれば地面の染みとなるであろうその暴力的なまでの拳撃を前に翔は口を開けた。
「その程度で吠えるな」
「な………………ッ!?」
振り下ろされた拳を翔は片腕で受け止めた。
「ば、馬鹿な!? たかが人間風情に俺の一撃を受け切るなどありえん!!」
「現実を直視しろ」
翔はその腕を払い、蹴撃を魔族に炸裂させる。
「ガッ!?」
蹴り飛ばされる魔族はその威力に何度も地面を跳ねて木々に背中を衝突させる。
「たかが魔族風情が人間を舐めるな」
見下すように発する言葉に自分が人間である翔に蹴り飛ばされるという現実に困惑する魔族。
翔は白魔術を用いて己の肉体を強化させている。
そこに能力増大も加われば翔の身体能力は飛躍的に上昇。
少なくても目の前にいる魔族と正面切って戦って勝てる程度には強化している。
「あ、ありえない………………………」
「ありえちゃうんだよ、これが………………………」
驚きの声をあげるエルフに苦笑いするサクロ。
もう翔は人間の枠内に収まっていい存在ではない。その実力はもう―――
「ば、化物め………………………」
「ハッ、化物から化物呼ばわりされるとはな」
魔族の言葉を鼻で笑う翔は指を動かして幾重の魔法陣を展開させる。
「さて、殺す前に一つ質問してやる。お前等魔族がエルフを襲撃する理由はなんだ?」
「………………………………」
「そうかよ」
沈黙する魔族はただ翔を睨むだけ。それだけで翔はもうこれ以上は時間の無駄だと悟る。
エルフをいたぶっていたからどんなクズかと思いあっさりと情報を話すと踏んではいたが、仲間を売る真似だけはしない骨のある奴ではあった。
「お前、名前は?」
「………………………アザムだ」
「そうか。俺は翔だ。お前の名前は覚えておいてやる」
「フン、化物の名など覚える気もない」
「あっそ」
指を動かして魔術を起動させる。
「光華」
放たれる高密度の光の魔術はアザムに直撃。その身を残さず消滅し、最後にその場には光輝く華を模した魔術の光だけが残される。
その光輝く華はまるで最後の手向けのようだ。
魔族を倒した翔はエルフの方に視線を向ける。
エルフの特徴である長い耳。翡翠色の髪と瞳をしている女性エルフ。
身体の線も細く、一言で表すなら華奢だ。
容姿も非常に優れていて誰が見ても美人と答えるだろう。
「で? お前はこの先にあるエルフの集落の住人か?」
「え、は、はい」
啞然としているエルフは咄嗟に肯定を取ると翔は続ける。
「俺達はお前等の集落の先にある白亜の塔に用がある。命を助けてやった代わりにお前等の集落を通れるように口添えしろ」
同族であるこのエルフが口添えすればすんなり通すかもしれないと思い、要件を告げる。
すると―――
「あ、あの――」
「あぁ? なんだ?」
「わ、私はエルティと申します! どうか魔族の手から私達の里をお救いしては頂けませんか!?」
翔達の実力を目の当たりにしてエルティは必死に懇願する。
「今、我等の里は魔族の襲撃を受けてこのままでは里は滅び、我々も殺されてしまいます!」
土下座に近い態勢で深々と頭を下げてまで懇願するエルティに翔はラヴァンに尋ねた。
「おい、エルフって他種族のことを毛嫌いしてるんじゃなかったか?」
「その筈ですけど、私もエルフの方と直接お会いするのは初めてですし………………」
人間に頭を下げてまで助力を請うエルフに怪訝する。
少なくとも翔のイメージでのエルフは無駄に誇り高く、何があっても他種族の力を借りない。漫画などの知識ではあるもそんな感じだと思っていた。
間違っても土下座してまでものを頼むような種族ではない。
「………………………それは私が改革派、つまり人間や他の種族との交流を求める派閥に所属しているからです。お二人が想像しているのは保守派。現状維持に属するエルフの事です」
疑問に答えるエルティに納得する二人。
エルフにもそれぞれ価値観や考え方があるのか、と一考する。
「里をお救いくださるのであればきっと保守派の方々も通してくださる筈です。どうか、何卒ご助力を」
「はぁ? 何言ってんだ、お前」
「え?」
「割に合ってねえんだよ。馬鹿か?」
集落を抜ける為の通行許可を報酬になんとか助力を得ようとしたエルティだが、翔は呆れた口調でそう言った。
「別に俺達はどうしてもお前等から通行許可を貰う必要はねぇ。最悪、お前等の集落を無視して強引に突き進む方法も、お前等が魔族に滅ぼされた後で通る手段だってある。たかがそれだけの為に何体いるかわからない魔族と戦うなんて割に合ってねえって言ってんだ」
「ほ、報酬もご用意します! 望まれるのであればこの身を貴方に捧げることもやぶさかではありません!」
「そんなもんいるか」
自分の身を捧げようとするエルティを一蹴する。
「こっちはさっさと白亜の塔に行く必要があるんだよ。お前を助けたのは恩を売って効率的にエルフの集落を通る為の手段に過ぎねえ。自分達に飛び散った火の粉は自分達で払え」
「そ、そんな…………」
光明が見えたと思いきやそれが絶望に変わったエルティの瞳に涙が溜まる。
「ね、ねぇ、流石にこのまま放置は酷くないかな?」
「知るか。それに俺達が助けたとしてもその次はどうする? また助けを求めるのか? 甘えんな。自分に振りかかる火の粉くらい自分で払えないのならさっさと里を捨ててどこへでも逃げるんだな」
冷たいと思われるも翔の言い分は決して間違いではないことぐらいわかっている。
今はそれでよくてもその次も同じようになった際に助けて貰えるとは限らない。
彼の言う通り、自分達の力でどうにかするしかないのは紛れもない事実だ。
でも――
それでも――
この場で諦めていい理由にはならない。
一人でも多くの同胞を救うためには彼等の力は必要不可欠。
「でしたら貴方の力を私に売ってください!」
「あぁ?」
突然変なことを言い始めたエルティに怪訝する。
「見返りとして私の全てを捧げます。貞操を捧げろと仰るのなら喜んで捧げます。この命を好きな時に好きなように奪ってくださって構いません。どのような命令でも従順に従います。疑うのであればそちらの狐人族の少女のように奴隷の首輪をつけても構いません。ですから、どうか私にそのお力を売ってください」
忠誠を誓う騎士のように翔の前に跪く。
「………………さっきも言ったはずだ。お前なんかいるか」
「私は精霊魔法の他にも剣も弓も他のエルフよりも優れております。必ずやお役に立つと約束します」
里を救おうと精一杯自分をアピールするエルティだが、翔の答えは変わらない。
「何度も言わせんな。お前なんかいるか。お前はさっさとエルフの集落に案内すればいいんだよ」
「しかし――」
「いい加減に黙れ。お前等の都合など知ったことか」
全く取り次いでくれない翔にエルティは手を強く握りしめる。
自分の全てを捧げても駄目なのか、と嘆きをあげたい気持ちでいっぱいだった。
その時―――
「まぁ、案内している道中に襲いかかってくるなら俺の敵だ」
不意に放たれたその言葉に思わず顔を上げる。
「降り掛かる火の粉は自分で払わねえといけねえしな。仕方がねえがその時は魔族をぶっ飛ばしてやる」
「そ、それは………………………」
戸惑うエルティにラヴァン達は苦笑する。
「エルフは助かると思っていいよ」
「そうですね。きっと助けてくれますよ」
「ご主人様はとてもお優しいですから。きっとお救いくださいます」
「………………………………お前等、俺はエルフを助けるなんて一言も言ってねえぞ。変なこと言ってんじゃねえ」
余計なことを吹き込む三人を睨むも三人はそれを華麗に無視する。
それに舌打ちする翔はエルティに言う。
「いいからさっさと案内しやがれ。まさか、帰り方を忘れたなんて言わねえよな?」
「はい! すぐにご案内します!」
エルティは翔達を自分が住む里まで案内を始める。




