エルフ
都市エクスエラを離れ、再び旅に出る。
アレス学院で完成させた魔力を動力に動かす魔力自動車を走らせ次の目的地である白亜の塔を目指す。
「うわぁ、目が回りそう………………」
「………………………ハルは少し気分が悪くなってきました」
馬車よりも速い速度で動く自動車から見る光景に目を回すサクロと車酔いをするハルには魔術で車酔いを治させる。
ハンドルを握り、操縦している翔の隣には助手席で地図を広げているラヴァンがいる。
「まだ見えねえのか?」
「はい。この自動車は早いのですが距離も距離ですし、どうしても時間がかかってしまいます。早くても後一週間以上はかかるかと」
馬車よりも速く動けて入るもエクスエラから白亜の塔までは距離がある。
本来なら馬車を使っても最低一ヶ月はかかる距離を一週間程度で到着するのなら早い方だ。
「それよりも問題があります。この先、白亜の塔に到着するには三つの道の内どれかを絶対に通らなければいけません」
目的地である白亜の塔に辿り着く前に翔達には障害が待ち受けている。
一つ目はモンスターの群生地。
小型から大型まで数多くのモンスターが生息している危険地帯。
二つ目は毒森。
植物から空気まで森全体が毒で覆われている危険地帯。
そして三つ目が―――
「エルフの集落か…………」
異世界で定番中の定番種族であるエルフ。
三つ目はエルフの集落を通る必要があるのだが、エルフは閉鎖的な種族。
多種族との交流を嫌い、森の奥や辺境の地で生活しているエルフ達の許可がなければ通るどころかエルフが得意とする精霊魔法によって道を遮られるか、迷わされてしまう。
「精霊魔法は私達、人間族が使う魔法とは異なり、大自然の力を操ることができると聞きます。勿論、操るといっても個々の力量に左右されますが」
「集団で魔法を使われたら面倒この上ねえな」
ラヴァンの言葉に続けるように口を開いた。
その先にある白亜の塔を目的にしている為にモンスターの戦闘は避けて通りたいし、解毒の魔法が使える聖職者がいるとしても毒森に入るには自殺行為でしかない。
なら残されているのはエルフの集落しかない。
「一応交渉に応じてくれるか試してみますか?」
「その辺はお前に任せる。向こうから手を出してきたのならぶっ飛ばす」
穏便に済ませられるのならそれでいいが、エルフの方から敵意を向けてくるのなら翔に容赦という二文字はない。
「ね、ねぇ……………もうちょっとゆっくり動かしてくれない………………………?」
後部座席から顔色を悪くして弱弱しく声をかけてくるサクロは車酔いだとすぐにわかる。
やはり、車のないこの世界で慣れていない人が乗ると酔いやすくなるのかもしれない。
翔はハルと同じように魔術をかけて酔いを治させる。
「大人しくしていろ。車酔いしたくなかったら外の景色でも見てろ」
「はーい」
普段は問題という名のスキンシップを行ってくるサクロも車酔いは嫌なのか大人しくなる。
自動車を作って正解だったと、翔は人知れずにそう思った。
「つーか、お前は平気なのか?」
「はい。これといって問題はありません」
後部座席に座る二人は車酔いにやられたというのに助手席に座っているラヴァンは車酔いはしていない。
案外酔いに強いのかもしれない。
そんなことを思いながら車を走らせる翔は三つの道のりの分岐点に辿り着き、迷うことなくエルフがいる集落がある方向を選ぶ。
「にしてもエルフか………………………」
「どうなさいました?」
「なんでもねえよ」
はぐらしながら翔はローレルならエルフに会うと知ればおおはしゃぎしていただろうとつい思ってしまった。
例えそれが自分に嫌悪を向けてくる相手だろうともローレルは変わらず接してくるということを翔はよく知っている。
「………………………………」
助手席に座っているラヴァンは横目で翔を見て、僅かだが口角が上がっていることに気付く。
本人は気付いていないかもしれないが、翔は良くも悪くも感情が顔に出やすい。
穏やかな表情をしている今はきっとローレルのことを思い出していると察する。
わかってはいることだが、やはり遠い。
今も傍にいるのは私達だというのに翔はこの場にはいないローレルのことしか頭にない。
いや、きっとそうでなければたった一人でも二人を探しに行く旅に出ようとは思わないだろう。
自分以上に大切な、それこそ危険を顧みず命を賭けられるほどに。
ラヴァンは思う。どうすれば自分にもその穏やかな表情を向けてくれるのだろうかと。
サクロのようにスキンシップと称して抱き着いたりなどはしたない真似はできない。でも、そこまでしないとやはり女として意識してくれないのかもしれない。
そう思えば羞恥を捨ててまでスキンシップを取ったりするサクロはやっぱり凄いとは思うけど、自分がサクロのように抱き着く想像なんて出来ない。
葛藤するラヴァン。
その時、急ブレーキがかけられて車が急停止。
その際に葛藤していたラヴァンは前に額をぶつける。
「~~~~~~~~~っ」
葛藤していたとはいえ、急停止して額を強打した個所を押さえて涙目で痛みに堪える。
「ど、どうしたの?」
「あれ見ろ」
翔が指す場所に視線を向けると道に木々がなぎ倒されて通れなくなっていた。
「災害で倒れたよりも何かに倒された方がしっくりくるな。ハル、仙気でこの周辺に何かあるか探れ」
「はい」
翔の指示を受けたハルは意識を仙気に集中して周辺の気を探る。
「ここより北東方面に数十名の魔族の気と別の種族の気、恐らくはエルフの気が感じられます」
「魔族がエルフを襲ってんのか?」
「はい。ハルはそう感じます」
「お、おかしいですね。エルフは亜人族、人間族と魔族の戦争には関係ない中立の存在ですのに」
額を押さえながら率直な疑問を口にするラヴァンに翔も頷く。
人間族と魔族は敵対関係で戦争を繰り返してはいるも、亜人族は戦争に加担せず、中立の存在だというのが暗黙の了解のようになっている。
気紛れや何かしらの理由があったとしても魔族がエルフを襲えば報復としてエルフが人間族と手を組む可能性だって捨てきれない。
「………………まぁいい。そのエルフを助けて恩を売っておくぞ。そうすりゃ簡単に通れるかもしれねぇ」
「はい」
「はーい。それはいいんだけどラヴァン、頭大丈夫? 治療しようか?」
「お、お願いします」
「任せて。二万ユールね」
「値上がりしていますね………………………」
しくしくとお金を払って治療を受けるラヴァン。ほくほく顔で車から降りるサクロ。
そんな二人を見て呆れる翔は空間魔術で自動車を亜空間に収納する。
「ハル、案内を頼む」
「お任せください」
ハルを先頭にエルフと魔族がいる場所に駆ける翔達は近づくにつれて音が聞こえ始めた。
「あそこか」
戦闘音が聞こえて翔達はようやく目視することができた。
悪魔の姿をした十体ほどの魔族を後ろに下がらせ、自分の力を誇示したいのか他の魔族よりも一回り体格の大きい魔族が女性エルフをいたぶっている。エルフも翡翠色の髪を泥で汚しながらも剣を持って必死に攻撃に耐えている。
「お前等は取りまきをやれ。俺はあの魔族を捕えて情報を聞き出す」
「はい」
「了解」
「参ります!」
一番先に動いたのはハルだ。刀を抜刀した状態で身体能力を能力増大。
爆発的な速度で取りまきの魔族の首を刎ねる。
「なんだ!?」
突然仲間が殺されたことに驚愕する魔族達に空から光の槍が降り注がれる。
「【ルーチェスピア】」
無詠唱から放たれる光魔法に魔族は回避する暇もなく光の槍をその身に浴びてしまう。
「くっ!」
「はい、残念♪」
「な、ぶっ!?」
運よく光の槍が当たらずに逃げようとした魔族にサクロがメイスでその顔を潰した。
「な、なんだてめえら!?」
エルフをいたぶっていた魔族が突然現れたラヴァン達の存在に驚きを隠せれず、喚く。
だが、足元に突如展開される魔法陣に気付かず、魔法陣から出現する熱を帯びた鎖に捕縛される。
「なんだかんだと聞かれたら答えてあげるのが世の情けだったか? まぁ、こんなネタを言っても仕方がねえがお前等魔族の敵だ」
姿を現す翔。エルフは呆気を取られた顔で翔達を見る。
たった数人で十体はいる魔族を瞬殺し、その内一人を捕縛。
瞬く間でそれを成し遂げた四人にエルフは目を丸くする。
「大丈夫? すぐに治すから」
エルフに駆け寄るサクロはすぐにエルフの治療に入り、他の三人は捕えた魔族の尋問を始めようとしていた。
「あ、貴方達は………………?」
魔族と同じ質問をするエルフにサクロは笑みを溢しながら答えた。
「素直になれないひねくれ者とその仲間達かな?」
素直に助けようとは言えず、恩を売るなど捻くれたことしか言えない翔にサクロはおかしそうに笑う。
その答えにエルフはよくわからずに首を傾げた。




