これからの事について
エクスエラの都市にある路地裏で道化師の仮面をつけた男性は手に持つ水晶で魔族化したスティルとそのスティルを元に戻した翔の光景を使い魔を通して見ていた。
「流石は魔術王。まさかあの状態から元に戻すとは……………侮れませんね」
予想では殺すと思っていたが、生かすだけではなく人間にまで戻すとは予想外もいいところ。
しかし、男性は特に悔やみもなく、ただ淡々と結果を受け入れる。
男性にとってスティルはただの実験動物。殺されようが失敗しようが結果さえ出ればそれだけでいい。
実験動物はこの都市にまだまだいる。
誘惑に弱く欲望が強い人間族なら少し誘導するだけで簡単にひっかかる。
スティルの敗北を見て、男性は次の実験動物でも探そうと思ったその時。
水晶越しで翔がこちらを見ていた。
――次はない。
そう聞こえてくるかのように口を動かして警告してきた瞬間、水晶が何も映らなくなった。
恐らくは偵察として放った使い魔を倒したのだろう。
「気付かれましたか……………」
見つからない様に気を遣ったつもりではあったが、魔術王には通用しなかったらしい。
ここで次の一手を繰り出せば間違いなく自分の首を狙ってくるに違いない。
そうなれば間違いなく殺される。
「…………………名残惜しいですが、この都市から去りますか」
まだまだ実験を続けたかったが、これ以上騒ぎを起こす真似をすれば自分の首まで絞めてしまう。
名残惜しくも今はこの都市に留まる事よりも逃げることが優先だ。
「私はまだ死ぬ訳にはいかない」
男性は闇に紛れ込むように姿を消した。
魔族化したスティルを助けてから数日が経過し、スティルは目を覚ました。
それから国の憲兵から事情聴取を受けると道化師の仮面をつけた男性に唆されたと話した。その後は都市全域でその男性を捜索及び他にも怪しい人物がいないか調査が行われた。
スティル本人も身体に異常があるか都市の病院で検査を受ける為にしばらくは入院生活を送ることになる。
翔の活躍によって運よく被害者はおらず、今回の事件は無事に終わりに近づいているなかで、翔はスティルを魔族化した原因と思われる錠剤について調べていた。
「面倒なもん作りやがって………………………」
「何がおわかりになられたのですか?」
「ああ」
その薬物による効果と副作用についてわかった翔は思わず愚痴を溢し、ラヴァン達にそれを説明する。
「これは人間族を魔族に作り変える薬物だ」
「人を魔族に…………………?」
「それってできるものなの?」
「正確には移植に近いな。魔族の遺伝子を組み込まれたこの錠剤を人間が体内に取り込めば魔族の特徴でもある魔力が一気に増幅する。だが、増幅した魔力は少しずつ魔族に近づき、薬を摂取すればするほどに魔族に近づいていく。おまけにこれは依存症も高い。一度服用したらもう薬を手放せれないほどにな」
「でしたら―――」
「安心しろ。あいつの体内にある薬は完全に消えた。依存症もねえよ」
それを聞いて安堵の息を漏らす。
一応、偵察をしていたと思われる鳥を使って警告はしておいた。
今では都市の憲兵が調査を行っているし、二度も今回の事件を起こして足跡を残すような愚かな真似はしないとは思う。
流石の翔でもこの都市のどこかにいるその犯人を捜しだすのは不可能だ。
この都市を出て行ってくれるとこちらも余計な負担を背負わなくていい。
「でも、その薬を作った人は何が目的だったんだろう?」
「そうですね。今の現状では人間族より魔族が優勢です。有利な状況なのにどうして人を魔族に変える必要があるのでしょうか?」
ラヴァンの言う通り、この世界の戦争で現在進行形で優勢なのは魔族だ。
それなのにどうして人を魔族に変える必要があるのかその理由がわからない。
戦力を増やすにしても他にもやりようがあるはずだ。
「んなことは本人に直接訊けばいい。ちょっかい出して来たんだ。またいつかなにかしらの方法で姿を見せるはずだ」
今回の事件、スティルの狙いは翔だけだった。それ以外眼中にないほどに執拗に翔に攻撃を仕掛けてきた。
そう暗示をかけられたのか唆されたのかは不明だが、一度手を出した以上は二度三度ちょっかいを出してくるに違いないと翔は踏んでいる。
なにより翔は既にエクエスを経由に危険な存在と知らされている。
魔術王というふざけた二つ名がいい証拠だ。今回も自分を殺そうと魔族を差し向けてきたのかもしれない。
「これからは魔族との戦いは避けられねえかもな」
そうぼやく。
それでも翔がすることは変わらない。
煌とローレルを見つけ出して元の世界に帰る。それだけだ。
それを邪魔する者は相手が誰だろうと容赦しない。
「………………………とにかくもう数日したらこの都市を出れるように準備しておけ。ラヴァンには悪いが講師達に伝えておけ。もう十分に功績はあげたってな」
「……………わかりました。ショウ様の仰る通り、学院も功績は得られているでしょうから断る理由はないと思われますし」
翔の言葉に応じる。
翔も自分の荷物ぐらい纏めておこうと思った矢先。
「その前に少しいいかな?」
サクロが言葉を投げてきた。
「なんだ?」
「これからより戦いが激しくなる前にどうしても聞きたいことがあるの。ショウにとって私達は必要?」
三人の心にある悩みの種をサクロは率直に翔に問いかけた。
「足手纏いならはっきりとそう言って欲しい。私達はショウの足を引っ張る真似だけはしたくないから」
真っ直ぐに見据えるサクロの眼差しは真剣そのものだ。
ラヴァンやハルもそんなサクロの言葉に不安そうにしているのが伝わってくる。
この聖職者は本当に人の領域に足を踏み込んでくる。それがどういう結果になるのかわからない訳でもないのに。
「………………………………最初は俺だけで二人を探そうと考えていた。お前等には関係のない問題だ。だから、俺はお前等がいつ旅をやめようがそれを止めるつもりはない。今でもだ」
二人をこの世界のどこかに飛ばしたのは紛れもない翔自身。二人を見つけ出す責任が翔にはある。
これは翔自身の問題でこの場にいる三人は関係のない問題だ。
「だけど、まぁ、その、なんだ、お前等がいなかったらきっと俺はここにはいない。途方に暮れていたと思う。だからなんだ、少なくとも感謝しているつもりだ」
言葉を濁らせ、視線を逸らしながらぶっきらぼうに感謝の言葉を告げる翔に三人の表情から笑みが浮かべられる。
「別に強制はしねぇが、付き合ってくれるんなら助かる………………………」
素直に一緒に旅をしてくれとは言えないひねくれ者の言葉に三人は頷いた。
「はい。勿論そのつもりです」
「当然。まだ一生分の責任を果たして貰ってないからね」
「ハルもどこまでもついていきます!」
「…………………………ありがとう」
誰にも聞こえないぐらい小さい声で感謝の言葉を送った。




