魔術王
アレス学院の生徒であるセシルを助けて翔達は学院の講師と生徒達が集まっていた場所を見つけると、講師達は何か言い争っていた。
「急がなければ生徒が死んでしまうぞ!?」
「待て! 一人で行ってどうする!? ここは集団で行動するべきだ!?」
「ここにいる生徒達はどうするのですか!?」
「そうだ! 講師を二手に分けて一班はここに、二班は女子生徒の救出に!」
一秒でも早く救出に向かおうと動く者。
こちらの安全を確保して全員で行動しようとする者。
この場にいる生徒の安否を気にかける者。
二手に分かれて行動することを提案する者。
異常事態に講師達は慌てふためいてあれこれと言い争っていた。
その光景を見て翔は呆れた。
ラヴァンの話では優秀と聞いたが、とてもそうには見えない。
ああ言い争っている暇があるのなら誰か行動ぐらいしやがれ、と内心で愚痴を溢す。
翔達は救出した女子生徒であるセシルを持って近づくと顔見知りのラヴァンが講師達に声をかける。
「先生方、お久しぶりです」
「…………………君は、ラヴァン君か!? 首席で我が学院を卒業した!? それにセシル君!? 無事だったのか!?」
「はい、私達が運よくセンティワームに襲われている彼女を保護しました」
翔に首根っこを掴まれて猫のように大人しいセシルの無事な姿に講師達は安堵する。
「ラヴァン君。学院の生徒を助けてくれてありがとう」
「いえ、彼女を助けてのは私ではなくこの方です。お礼はこちらのショウ・クジョウ様にお願いします」
お礼の言葉を翔に流すラヴァンだが、翔はうんざりしたように口を開く。
「んなことどうでもいい。それよりもこの学院は自分の命が危険に陥ったら他の奴の命を囮にするようにでも教えてんのかよ?」
「え、そ、そんなことは決してない! 自分が助かる為に誰かを囮にするような者はおらん!!」
「こいつはされたみてぇだぞ? 同じ班の奴に囮にされたってな」
「なっ!? セ、セシル君!? それは本当かね!?」
「……………………はい。この人達が助けて下さなければ私はモンスターに殺されていました」
「そ、そんな…………」
彼女の言葉にとても信じられない顔をする講師達に生徒達はざわめき始める。
「確か、彼女の班は…………」
班分けしてセシルと共に行動していた三人の生徒達を見つけるとその生徒達は否定した。
「ち、違う! そいつが勝手に転んだだけだ!」
「そうです! 私達だって逃げるので精一杯で助ける暇なんてなかったから…………」
「好きで囮にしたわけじゃねえよ!」
剣、杖、片手斧。それぞれの得物を背負う生徒達は自分達には非がないことを強調する。
「大体、俺達がそいつを囮にした証拠なんてねえだろう!?」
「私達は間違っていません! 彼女のミスです!」
「そうだ! 先生はどっちを信じんだよ!?」
自分達は何も悪くはなく、あくまでセシルが一人でドジをして逃げ遅れたことを強調する生徒達にセシルは怒りで歯を噛み締めている。
「ふざけないで! 貴方達のせいで私は死にかけたんだよ!?」
「うるせぇ! お前が悪いんだろうが! 魔術師の癖にこの授業受けても意味ねえだろう!?」
「所詮最弱なんだから学院で大人しく仮病でもしてなさいよ!」
「そもそも魔術師が学院に通う意味ねえだろうが!」
「最っ低! 私だって好きで魔術師になったわけじゃないんだから!!」
ヒートアップする言い争いに翔は嘆息しながらセシルを掴んでいる手を離す。
「ひゅう!?」
急に手を離されて尻餅をつくセシルを置いて翔はセシルと言い争っていた三人の生徒達の前に歩く。
「な、なんだよ!?」
「少し黙ってろ」
問答無用で頭を鷲掴みにして魔術を起動させる。
魔術で人間の意思や感情などを数値化させて脳裏を読み取る。
「…………………ハッ、お前があいつの足を蹴飛ばしたのか」
記憶を読み取ってセシルの言い分が正しいと証明されると翔はその生徒の腹に拳を叩き込む。
「うぷ………うええええええええええええええええええええええっっ!!」
腹を殴られて膝をつき、吐瀉物を出す。
翔はその生徒を無視して後二人の生徒にもその身体にきつい一撃を叩き込んで地面に蹲ませる。
「き、君!? いきなり生徒に暴力など!」
「お前等が人のことをどうこう言えんのか? こいつらは自分達の意思で人一人を殺そうとしたんだぞ? 死ぬ思いがどれほどか叩き込んでやらねえとこのゴミ共はわからねえ」
「シ、しかし暴力はよくない! 暴力では何も生まれはしない!」
「だったら訊くが、話し合いで解決できるんならお前等講師共はどうしてすぐにあいつを助けに行かなかった? お前等がいつまでも言い争っている間にあいつが死ぬとは考えなかったのか?」
「そ、それは…………」
「今回はたまたま俺達が近くにいたから助かったが、次も助かる保証はどこにもねえ。くだらねえことを言い争う暇があんなら行動で示せ。じゃねえといずれ死者が出るぞ?」
セシルは本当に運がよかっただけだ。
運よく翔達が近くにいて助かったに過ぎない。そうでなければ間違いなく今頃はあの世だ。
「それにな、俺から言わせたら話し合いの方が何も生まれねえよ。人間って生物は言葉でどうこうできる生物じゃねえんだよ」
少なくとも暴力は痛みと恐怖を与え、それが己の行動を縛る枷となる。
翔はそう考えている。特に他人の事をなんとも思っていない奴には効果的だ。
「……………………すまない。この者達の罰は学院に戻り次第すぐに行う。だからそれ以上は勘弁してはくれんだろうか?」
「そっちがそう言うなら好きにしろ」
取りあえずはそれで落ち着いた。その時、ゴブリンの群れが翔達に向かって突貫してきた。
気のせいか怒気に満ちて駆け出してきている。
恐らくは生徒達に仲間を多く殺されて怒りが頂点に到達したのだろう。
その数に生徒達は怯え、講師達は臨戦態勢にはいるが―――
「死ね」
指をパチンと鳴らしてゴブリンの上空に魔法陣を出現させて雷を降らせる。
一秒もかかることなくゴブリンの群れは炭となる。
『…………………………………………………………………………』
瞬く間の出来事にラヴァン達を除いた講師、生徒達は目を見開いて口を大きく開ける。
「今のは魔法…………いや、魔法陣を見るに魔術なのか…………?」
「馬鹿な…………あれほどの高威力を出す魔術など聞いたことがない」
最弱で有名な魔術で高出力の威力を発揮した。それを目撃して信じられないものを見ているようだ。
「もしや…………貴方様は『魔術王』ですか!?」
「なんだ? その痛すぎる二つ名は?」
翔の魔術を見て講師の一人が驚愕と共にその名を叫んだ。
「魔術とは思えない高威力、高出力の魔術を駆使して魔族を葬る為に世界中を回っている人類最強の魔術師。まさか、この眼を見る日がこようとは…………」
「違ぇよ」
自分にそんな痛い二つ名がつけられていたとは思いも寄らなかった。
確かに前の国でも魔族を葬ったが、もしかしたらそれがきっかけに広まったのかもしれない。
「魔術の深淵を見てきた者。世界の真理の扉を開いた賢者。その神秘の叡智をどうか我々にご教授願いませぬか?」
まさかの学院からの誘いに翔は一瞬驚き、ラヴァン達に視線を向けると本人も頷いていた。
ラヴァンの提案通りに翔がこちらの要求を告げる。
「俺達は俺達の目的がある。それに協力するんなら手を貸してやる」
「勿論ですとも。我々で協力できることであればなんなりと言って下され」
取引成立。翔はラヴァンの提案通りにアレス学院の臨時講師として働くことになった。




