サプライズ
王女、レイナ・リース・イクリムの継承式は盛大に行われた。
継承式は城内ではなく城外で行われ、豪華絢爛の馬車で街を一周する催し。多くの国民達に自分の存在を覚えてもらう為に顔を出す儀式のようなものでレイナはにこやかな笑みを浮かばせながら国民達に手を振っている。
国民達も新たな国王の誕生に盛大に喝采の声を上げている。
そして最後には国王パードレから直々に継承の証である王冠を授かる。
これにより、レイナは正式にこのイクリム王国の女王となった。
「……………………問題はねぇみてえだな」
女王となったレイナは国民達に向けて言葉を発しているその影で翔達は今日で最後になる護衛の仕事にまっとうしている。
公の場で人混みに紛れての暗殺という可能性もある為に影に隠れて護衛に当たっている翔達は無事に何事もなく終わることを祈る。
「終わりか…………」
長いようで短い護衛の仕事も今日で終わり。明日には次の街を目指して旅に出る。
それだけの話だ。
今は最後の最後でヘマをしないように仕事に力を入れる。
継承式は無事に終わりの時を迎えて翔達は女王レイナに呼び出された。
「皆様方。今日まで本当にありがとうございました」
王室に呼び出され、女王からの感謝の言葉に恐れ多くその場で膝をついて平伏するラヴァン達だが、翔は変わらず態度で女王に言う。
「んなことより報酬を寄越せ」
「ショウ様!?」
「構いません、皆様方もどうか楽になってください」
女王の言葉に甘えて立ち上がるラヴァン達。使用人の一人がテーブルに報酬金を置く。
「こちらがこの一ヶ月、私の護衛を務めてくださった報酬金です。お納めください」
「ありがたく頂戴します」
サクロが報酬金をしっかりと受け取るとレイナは使用人に目配りを送り退出させる。
「皆様方のおかげで無事に女王になることができました。これからの皆様方の旅に祝福があることを願います」
「そうかよ」
「欲を言えばもっと滞在して欲しいものですが…………」
「するか」
「ええ、存じております」
一応滞在を願うレイナだが迷うこともなく一蹴する翔に笑みを見せる。
どんな誘惑にも屈しない彼の固い意思の強さは十分過ぎるほどに知った。
あの夜も彼は誘惑に負けずにその意思を貫いた。その強さには感服するほどに。
「………………今からでも私と子作りをしませんか?」
「しねえよ」
今のようにあっさりと断られる。残念この上ない。
「ほらよ」
「……………………これは?」
翔がレイナに投げ渡したのは束ねられた羊皮紙だ。
「身体強化と障壁魔術の術式だ。この国の魔術師に依頼して魔道具にでもすれば多少は国力にもなんだろう?」
その言葉に目を丸くするレイナは羊皮紙に記されている術式に目を通す。
「凄い…………」
多少は魔術に関する知識を持っているレイナだが、この羊皮紙に記されている術式は無駄がなく綺麗だということぐらいわかる。これを量産して兵士に装備させれば兵を、いや、発展に成功することができればこの国の力になる。
「それとこいつをくれてやる」
次に投げ渡されたのは指輪だ。
「……………………ようやく私と結婚する気になりましたか?」
「違ぇよ」
結婚指輪でも告白でもなかった。
「女王になったら立場上危ねえだろうが。魔力を注げば起動する結界の魔道具。好きに使え」
投げ捨てるように言葉を吐く翔は視線をレイナから逸らしながら言う。
「だが勘違いすんじゃねえぞ? これ以上あれこれと言われるのが面倒だったから渡しただけだ。後は勝手にしやがれ」
「申し訳ございません。ショウ様はきっと『俺達はこの国に留まることは出来ねえが力くらい貸してやる。それを国を守る為に使え』と仰りたいと思います」
「んなこと思ってねえよ。面倒なだけだ」
どこまでも素直に物事を言えない彼に誰もが温かい眼差しを向ける。
「ふふ、大切に使わせて頂きます。貴方様に感謝を」
微笑みながらも早速その指輪を左手の薬指につけるレイナは嬉しそうに身に着けた指輪を眺める。
「ねぇねぇ、ショウ。私達には何かないの?」
「ねえよ」
強請るサクロだが一蹴する。
そもそも既に武器や能力を強化させている三人にこれ以上何かをすることは今のところは考えていない。
下手に持たせても使えなければ意味がないのだから。
「しかしよろしいのですか? これだけでも公の場で発表すれば魔術師の存在価値は大きく変わりますし、貴方様にも利益がありますが?」
「そんなもんに興味はねえよ。したきゃお前の名前でしろ。それにその程度大したことはねえ」
「……………………これほどの術式が大したことないなんて、やはり私と一緒になりませんか?」
「しつけえぞ」
この羊皮紙に記されている術式だけでも驚かされるのにこれが大したことないと断言する彼の底知れない強さを手放すのがやはり惜しく思う。
それでも彼を止めることはできない。
この国の為に身命を捧げているレイナと同じように彼には彼の進むべき道がある。
それを阻むことは誰もできない。
「では代わりに恩賞を授けましょう」
「あぁ? いらねえよ」
「そういうわけにはいきません。王女としての誇りと責務。なりより面子に問題が生じます」
「そうかよ。んで? 何をくれんだ?」
「そうですね。これほどのものですからこちらもそれ相応のものを差し上げたいですし、驚かせたいので少しの間目を閉じては頂けませんか?」
「……………………まぁいいが」
サプライズが好きなのか? と思いながら翔は視界を閉じる。
すると、頬に柔らかく暖かい感触が襲う。
目を開けるレイナが翔の頬に接吻していた。
「な、な、な、な…………」
「ふふ、女王の初接吻なんて国宝級ですよ?」
顔を真っ赤にさせて口をぱくぱくさせる翔に悪戯に成功した子供のように無邪気に笑う女王様。
ラヴァン達も目を見開いて驚く中で翔は顔を真っ赤にしながら叫んだ。
「は、ははははは破廉恥なことすんな!!」
彼はとても純情だった。




