無責任な真似
「王女様に婚姻の話を持ち掛けられたって…………ショウが次の国王様?」
「ならねえよ」
ラヴァンが王女を護衛中にサクロとハルが翔の部屋に訪れて情報交換という談話をしていた。
レイナの護衛には昼はラヴァンが行い、夜は翔が担当している。
その間にサクロとハルは街に足を運んでもらい煌とローレルの行方と古代魔法や魔窟の情報を集めて貰っている。
そして翔は先日にレイナが話した婚姻話を話したら二人は驚いた。
「ショウが王様で王女様が正妻として…………私は側室? それとも愛人枠?」
「ハルは何番でも構いません」
「国王になるつもりも王女と結婚する気もねぇって言ってんだろうが」
勝手に話を進める二人に半眼を作る。
「でも、王女様の考えはわからなくはないね」
「あぁ?」
サクロは頬を掻きながら王女が翔に婚姻話を持ち掛けてきたことに納得する。
「ショウは自覚ないのかもしれないけど、ショウの実力はもう人間離れしているよ? 既に魔族を圧倒するショウを引き入れたら国は安泰。最弱のクラスである魔術師の歴史だって変わるよ。それに万が一にショウと王女様の間に子供が―――」
「作るか」
「……………………話は最後まで聞いて。万が一にその子供がショウの才能の一片でも受け継がれたら、それこそ勇者もしくは英雄の子供だと崇められる可能性だってあるから十分にある。王女様にとって最高の結果はショウと結婚してこの国に居てもらうこと。最低でもショウの子種は欲しいと思っているはずだよ」
「それほどなのですか? ご主人様は」
「間違いはないね。それだけショウの存在を重く見ているよ」
「流石はハルのご主人様です」
サクロの話にハルは尻尾を振るうも翔は呆れるように溜息を漏らす。
「……………………そんなんでガキが産まれてもそのガキが不幸なだけじゃねえか」
国の為に産まれて勝手に崇められて望まぬ人生を強いられる。
そんなのただの国の象徴する為に必要な愚像だ。
「………………異世界から来たショウにはそう思うかもしれないけど、この世界は、ううん、人類は何かに縋らないと前を向いて生きていけない。もうそれだけ魔族に追い詰められているんだよ」
哀しそうに寂しく語るサクロの顔には憂いが見える。
「皆、生きる為に必死になっているの。それは王女様も変わらない。この国の為、人類の為、世界の為に自分にできる最善を尽くしていると思うよ」
聖職者としての慈愛の言葉に翔は乱暴に髪を掻きむしる。
「ケッ。んなこと言われなくてもわかってんだよ」
「うん、そうだと思ってたよ」
いつものようににこやかに笑みを見せるサクロに改めてこいつが聖職者だと思い知らされる。
サクロの言う通り、人類はそれだけ危機的状況に立たされている。
人類が生き残るために誰もが最善を尽くそうと努力している。
レイナもその内の一人というだけの話だ。
「まぁ、王女様との結婚の判断はショウに任せるよ。旅を止めてこの国の国王になるのも反対しない。その時は側室に入れてくれたらいいよ。あ、後はこのお城で生活するのは落ち着かないから孤児院で住まわせて」
「ハルはご主人様のお側におります」
判断を翔に委ねる二人に翔は盛大に溜息を吐く。
好き勝手言ってくれる、と愚痴を溢しながら翔は話題を変えて二人が街で集めた情報を訊く。
「んで? 何か情報はあったか?」
「勿論」
親指を立てるサクロは翔に強請る。
「いい情報集めてきたから私とハルちゃんにご褒美が欲しいな」
瞑目しながら笑みを浮かべて、褒美を要求するサクロに頬をひくつかせる。
流石は守銭奴聖職者。仲間でも無料で情報を譲る気はない。
「……………………何だ?」
何を要求してくるのか、と警戒しながら尋ねるとサクロは櫛を翔に手渡して背を向ける。
「私にもハルちゃんのように髪をといてよ。結構羨ましかったんだよ」
荷台で翔がハルにしたことを要求してきたサクロに翔は溜息を吐きながら仕方なくサクロの髪をといていく。
「いいね、気持ちいいよ…………」
「そうかよ」
手慣れた手付きで髪をとく。
「次はハルもお願いします」
「待ってろ」
サクロとハルの二人の髪をといて翔は二人から街で集めてきた情報を改めて訊いた。
「まず、古代魔法と魔窟の情報だけど、次の目的地からは遠いから後で話すね。…………勇者様の行方がわかったよ。多分だけど」
「……………………本当か?」
「うん。でもショウが探している人ではないかもしれないけど」
「十分だ。話せ」
肯定するサクロに翔は手を強く握る。
ここまで旅でようやく手に入れた二人の内、煌の行方の手がかりを掴むことが出来た。
それだけでも大戦果だ。
「ここから南にある街で勇者様が魔族を撃退したって話をしていた商人がいたんだよ。もしかしたら違う可能性もあるかもしれないけど行く価値はあると思う」
「……………………ああ」
その勇者が本当に煌なのかはわからないが、サクロの言う通りに行ってみる価値はある。
そうとなればレイナの継承式を終えた日にでもすぐに出発した方がいい。
「そのことを後であいつにも話してやれ」
「はーい」
ラヴァンにもその話をさせるように伝える。
さしあたって目先の問題は王女の事だ。取りあえずは婚姻の話は蹴ったもののなにかしらの手段に訴えてくる可能性もある。
強引な手段、権力で圧力をかけるような手段は取らせないように脅しはしたが、既成事実や外堀から埋めてくる可能もある。
一番に考えられる手段としては既成事実。
毒か酒を飲ませて眠らせて朝起きたらお互いに裸といったベタな展開も起こすかもしれない。
あれこれと考えていると扉がノックされる。
「ショウ様。王女様がお話があるとのことですがお時間よろしいでしょうか?」
扉を開けて部屋に入ってくるラヴァンは王女からの要件を翔に伝えると本人は怪訝の表情をする。
「あぁ? 話だ?」
「はい。二人だけで話したいととても真剣な顔をしていました」
どうやら婚姻の事についての話だろう。まだ諦めてはいなかったらしい。
「まぁいい。お前等は休んでろ」
椅子から立ち上がって護衛を交代する翔は部屋から出て行く。
「ショウ、気を付けてね」
「…………ああ」
サクロの言葉を背に受けて翔は王女の部屋に歩み寄る。
「入るぞ」
「どうぞ」
扉を開ける。いつもならこの後の予定を軽く聞いたら何時でも動けるように待機しておく。
「ようこそ御出で下さいました」
王女の寝室。その寝台に王女はベビードールのような扇情的な下着に身を包んで横たわり、藍色の瞳は真っ直ぐ翔に向けられる。
「さぁ、どうぞ」
「……………………」
翔は無言で扉を閉めて自室に向かって歩き出す。
きっと王女様も疲れているんだろう、と思いそっとしておくことにする。
すると、後ろから勢いよく扉が開かれてそこから先ほどのベビードール姿の王女様が部屋から出てくる。
「………………疲れてんならさっさと寝ろ」
「違います! 女性が精一杯殿方を誘惑しているのですよ? 無反応は傷つきます」
どうやら翔を誘惑して既成事実を作ろうとしていたらしい。
しかしながら考えが浅すぎる。
酒や毒など卑怯な手を使わずに自分の身一つで誘惑してくるその気概は買うもそれに誘惑されるかどうかは別問題だ。
「取りあえず部屋に入ってください。この格好で外にいるのは私も恥ずかしいですし、貴方様も変な噂は避けたいでしょう?」
「同感だ」
妥協案として二人は部屋に入ると、椅子に座って腰を落ち着かせる。
「で? 懲りずに俺を誘惑か?」
「はい。貴方様をこの国に留めれるのならこの身ぐらい捧げます。それだけ貴方様は魅力的なのです」
「国王が泣くぞ?」
「この格好はむしろお父様から勧められましたよ?」
「…………………大丈夫かよ、この国」
実の娘にそんなことをさせる国王もそれを身に包んで実行する王女。
この国の行く先が若干心配になる。
「殿方はこういう恰好が好まれると聞きましたが、違いましたか?」
「俺が知るか、ボケ」
人によるだろうが翔にそんな趣味は持ち合わせていない。
「何度も言うが俺の答えは変わらない。お前とは結婚も婚姻もしない。お前が女王になったら報酬を受け取ってこの国を出て行く」
次の行き先も決まった。この国に留まる理由が万が一もなくなった翔は残された仕事をこなしてすぐに国を出る予定だ。
その話に神妙な顔で頷くレイナは口を開く。
「…………………わかりました。でしたら今夜だけ私と関係を結んでください。それ以上はもう望みませんし、関わらないと約束します。子種を頂けるのであれば今夜、私を好きにして頂いて構いません」
固い意思を見せる翔に最大限の譲歩として子種だけでも貰おうと提案する王女。
翔ほどの実力者の子供をこの身に宿せれるのならまだ妥協できる。
「しねえよ」
だが、翔は断固拒否する。
「どうしてですか? そんなに私の身体に魅力がありませんか?」
「違ぇよ」
「貴方様にご満足して頂けるように精一杯頑張ります。私だけでご満足できないと仰るのでしたらすぐに使用人をご用意します」
「そうじゃねえよ」
「なら、報酬ですか? 勿論お支払いします。望まれる額を申してください」
「いらねえよ、そんなもん」
何としてでも首を縦に振らせようとするレイナだが、翔は頑なに首を縦に振らない。
「……………………俺はそんな無責任なことをする気はねえ。やるなら最後まで関係を持つ」
そんな自分だけが都合のいいことなどしない。
関係を持つのなら最後までその責任を果たす。
「お前がこの国の為に必死に努力して務めを果たそうとしてんのはわかった。だから余計にそんな簡単に手を出す訳にはいかねえ」
レイナは国の為に身命を捧げている。そんなレイナを無責任に抱いて子供を孕ませて後はお任せ。
そんな無責任な真似はしたくはない。
「…………………少し手を伸ばせば簡単に押し倒せれる女ですよ? それでもですか?」
「ああ」
「貴方様が責任を感じることなど何一つありませんよ?」
「それでもだ」
「……………………どうしてそこまでして、貴方様には他に愛する女性が―――」
「いねえよ!!」
顔を赤くして即答する。
その反応に一瞬驚いて目を丸くするもレイナはすぐに気付いた。
既にこの人には裏切りたくない想い人がいるということを。
その人をただ一途に想いを寄せているのなら首を縦に振らない訳だと納得もできる。
「……………………少しだけ羨ましいですね」
自分がこれだけしても首を縦に振ることもしない。ただ一途に想われている彼の想い人がレイナは少しだけ羨ましく思った。




