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ひねくれ者の最弱魔術の使い方  作者: 幻影十夢
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婚姻話

「お呼びでしょうか? お父様」

レイナはこの国で国王を務めている父親、パードレ・リース・イクリムに呼び出された。

「急にすまないな。まぁ、座りなさい」

「はい」

国王であり父親であるパードレは真剣な顔で口を開く。

「まず、お前を暗殺しようと企てた者を捕縛した。分家筋のルマノスだ」

「やはりそうでしたか…………」

父親の口から告げられた犯人の名前にレイナは納得するように頷いた。

「あの方は私が女王となるのを酷く反対しておられましたね」

「ああ、私も目星をつけて部下に頼んで密かに調べさせた。結果は想像通りだ。恐らくはもう大丈夫だとは思うが一応は注意はしておいてくれ」

「勿論です」

立場上は命を狙われることが多い。犯人であるルマノスが捕まってもまた別の人が暗殺を企む可能性だって十二分にある。

「もうすぐ継承式。改めて訊くが、女王になる決意は固めたか?」

「はい。この国の為に身命を捧げる覚悟はできております」

迷うことなく己の決意を告げる。

パードレの妻が亡くなり、国王のパードレの血を引くのはレイナただ一人。

息子がいない以上はレイナがこの国の女王になるしかないのはパードレもレイナも重々承知している。

だが、不安もある。

女の身で王に責務を果たせれるのか? 国王として一人の父親として不安が残る。

だからパードレはそんな娘の為にも早めに婚約者を決めて女王を継承してすぐにでも結婚させるようと考えていたのだが、その婚約者は魔族に殺された。

人望もあり、文武両道の優れた王族の家系。娘であるレイナと歳も近く、数ある中から選び抜いた立派な男性であった。

この者ならと思い婚姻を持ち掛けてあと少しのところで命を落とした。

レイナが女王になれば跡継ぎは必須。

その為にも優れた男性を婿として迎え入れる必要がある。

ただでさえ魔族の進撃もある今のご時世。何事も速めに考えて行動しなくてはならない。

しかしながら娘であるレイナに相応しい男はそうはいない。

今も数多くレイナに婚姻の話が降ってくるがパードレはそれを拒絶している。

明らかに権力目当ての者達ばかり。そんな者に娘は任せられない。

国王は悩む。この際、身分は問わずに娘に相応しい男性を探すかと。

少なくとも娘を大事に想う気概はある者でなければならない。

王としての財務もこなせるだけの知識と器量を持ち、責任感もなければならない。

いざという時に娘を護れるだけの実力もあれば文句はない。

容姿は問わんが、国民を引っ張っていく立場としては整っているとなおいい。

身分という立場を除いてそのような者がいるかと思考を働かせているとふと一人の人物を思い当たる。

以前の魔族の進撃の際に魔族の大群を一撃で葬った魔術師の男。

娘であるレイナが独自で雇い入れた冒険者と話は聞いたが、あの男の冒険者はどうだろうか?

遠目で一度見たぐらいだが、容姿は悪いようには見えなかった。

実力も申し分ない。

部下からの報告では粗暴なところはあるも礼儀作法はできると聞く。

そして仕事とはいえこれまで何度も娘を暗殺の手から守った。責任感も強い方と考えていい。

仲間からも慕われているとも聞いた。人望もあると思っていいだろう。

そこまで考えて国王はレイナに尋ねる。

「レイナよ。お前が雇い入れたあの男性についてどう思う?」

「ショウさんのことでしょうか? そうですね、とても意思の強い方だと印象に残っています。それに実力はもはや文句のつけようがないほどにお強い。どうにかこのままこの国に滞在して頂ければと私は考えてます」

翔一人いるだけでも国は安泰だ。だが、継承式が終われば翔達は再び旅に出てしまう。

そうなる前にどうにかこの国に居続けて貰えないだろうかとレイナは常日頃からそう考えている。

「………………ふむ」

話を聞く限りは娘からその男に対して悪い印象は持っていないようだ。

「その男性は爵位や領地を欲しているのか?」

「いえ、そもそも欲しがらないと思います」

異世界の住人である翔がこの世界で爵位や領地を持ったとしても元の世界に帰れば無用の代物に変わる。

あるだけ無駄。

だから欲しがらないとレイナは思った。

「なるほど…………」

王権や権力を狙っているわけでもない。それどころか無欲と言ってもいいぐらいだ。

それなら国民に重税を課すこともなく、国の維持に心血を注いでくれるかもしれない。

「あの、どうかなさいましたか?」

先程から翔に対する問答に怪訝するレイナに国王パードレは告げる。

「レイナ。その者を婿に迎え入れる気はないだろうか?」

身分以外に特に問題点は見られない翔をレイナの婿に迎え入れようとする。

王位は血統であるレイナに就かせて実権を翔に握らせれば娘の負担も減り、国も安定。少なくとも悪いようにはならないはずだとパードレは思案する。

平民である翔には荷が重い話かもしれないが、そこは娘であるレイナの器量に任せよう。

「……………………」

無理だろう。レイナは父親であり国王であるパードレの婚姻話を聞いて断言する。

彼等には彼等の目的がある。その為に婚姻などと自ら縛られる選択をするわけがない。

それにラヴァンの話を聞いた限りでは既に想い人がいる。その人を裏切ってまで首を縦に振るとも思えない。

国を任された国王としては翔を手に入れたいという考えも理解出来る。

それでも彼はきっとどれだけ好待遇の話を持ち掛けてもはっきりと断るはずだ。

だが、理想的な話ではある。

国の為に翔とその仲間達はこの国に留まり、生活してくれた方がこの国はもっと快適になる。

「わかりました、お父様。必ずやあのお方を婿にしてみせます」

「うむ、期待している」

この国の為にレイナは翔を婿として迎え入れようとする。






「というお話をお父様となさいまして…………私の婿になる気はありませんか?」

「寝言は寝て言え」

パードレと話した婚姻話を翔に伝えるも本人はどうでもいいように淡々と答えた。

「王位は私が就ぎますが、実権はショウさんに譲ります。ラヴァンさん達を側室にそれ以外の女性を何人でも作って頂いても構いませんが?」

「作るか。どっかの王族か貴族にその話を持ち込んでさっさとそいつと結婚でもしやがれ」

話を続けるレイナに乱暴にそう返す。

「お父様にはもう貴方様を婿にすると宣言してしまいましたし、諦めて私と一緒にこの国で暮らしませんか?」

「こっちの話を一切無視してだがな。お前とこの国の都合など知ったことか。俺達は予定通りにお前の継承式が終わればすぐにこの国を出る」

「そこをなんとかなりませんか?」

「ならねぇ」

「毎日贅沢三昧ですよ? 平民では一生かけても食べられない食事を毎日のように食べられますよ?」

「国の人口、制度、生産、国内の安定と維持、国外との外交と対策。思いつくだけでもブラック企業も真っ青なハードワークだが?」

「そのブラック企業やハードワークというのはわかりませんが、そこは私の精一杯の愛で支えます」

「少なくとも俺はお前に愛などねぇ。そもそもお前は俺の力目当てでその話を持って来たんだろうが。政略結婚もいいところだ」

「そこから始まる愛もあると思いますが?」

「かもな。だが生憎と俺とお前の間にはそんなもんは生まれねえ。俺はお前のことなど当然愛してねえし、お前も同じだ。国の為にと自分に言い聞かせて納得しているだけだ。俺はそんな義務的な女と結婚する気は微塵もねぇ」

鋭い的確な指摘にレイナは一瞬表情を強張らせる。

「……………………それが生まれ持って王族となった者の義務です。個人の感情など二の次。国の為ならどんな嫌いな方でも受け入れなければならないのですから」

経済的には恵まれている代わりに自由がない。束縛された運命。

それも次期女王となれば尚更だ。これまでの半生も自由など与えてはくれなかったに違いない。

「その義務に俺が付き合う義理も義務も道理もねえ。諦めな」

「いいえ、そういうわけには参りません。貴方様の力は無視できるものではないことぐらいは自覚されているでしょう? この国だけではなくきっと他の国も同じことをなさる筈です。中には権力を駆使してまで強引な手段を使う者もおられるかもしれません」

「権力は必ず表にはできない裏がある。それを暴いて俺を敵に回したことを後悔させるまでだ」

口角を上げて言い放つ翔の言葉に強引な手段を使わなくてよかったとレイナは安堵した。

「お前が何と言おうが俺の答えは変わらねえ。諦めて他の相手を探しな」

強引にこの話を終わらせる翔だが、レイナはまだ諦めてはいない。

継承式までに必ずこの人を婿にしてみせると、己を鼓舞する。


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