真実
王女であるレイナを連れて城の地下に訪れる翔にレイナは小さく息を吐いた。
「王女を召使いのように扱うなんて普通は死罪ですよ?」
「お前が黙っていればいいだけだろうが」
丈の長いゆったりとしたネグリジェ姿に肩に羽織をかけたレイナに翔は堂々とそう言ってのけた。
「護衛中にこの国に魔族が襲ってきたら迎撃するのに仕事の内に含めますよ?」
「わぁーたよ」
今回の事に目を瞑り代わりに魔族の迎撃に参加を取り付けるレイナは地下の隠し階段を降りて扉の前に立つ。
レイナはその扉の魔法陣に手を置くと魔法陣が輝き、扉が開かれる。
扉の先には更に下に続く階段が姿を見せる。
翔は迷うことなくその階段を降り始めて、レイナもそれに続く。
「しかし天魔にいったいどのような要件が?」
「力を貰う。それだけだ」
階段を降りながら質問を投げるもあっさりとそう返された。
以前魔窟で遭遇した天魔のように力を手に入る可能性があるのなら翔はそこに行く。
「一応申しますが、危害を与えるということはお止め下さい。長年我が国を見守って下さるお方ですから」
「そいつによる」
天魔から手を出してこない限りは何もしないが、向こうから何かしてくるのであったら翔も容赦しない。
長い階段を降りて行き、二人は漸く一番下まで辿り着いた。
「開けるぞ」
そこにある扉に手を当てて開ける翔は突然の光で視界を閉ざす。
徐々に光に慣れて瞼を上げるとそこには辺り一面の花畑が広がっていた。
地下だというのに地上の昼間のように明るいその場所に唖然とする翔にレイナはその花畑の中心を指す。
「あそこにおられるのが天魔です」
レイナが指す場所には一人の白い少女がいた。
服装も、髪も、瞳の色も、肌も人肌よりも白い。白で覆いつくされた少女が花畑の中心で二人を見据えながら立っている。
魔窟で遭遇した天魔とは違い光り輝いてはいないが、あの時と会った天魔と似た雰囲気を感じる。
翔は花畑に足を踏み込んでその少女に近づく。
「お前が天魔か?」
「違うわ」
尋ねるも少女はそれを否定した。
「それは人間族、いえ、リュマダが人間族に言い伝えた偽りの伝承。私達は女神よ」
「……………………どういうことだ?」
自称女神と名乗る少女に怪訝するも少女は翔の眼帯に視線を向ける。
「その左眼。そう、貴方は彼女に対価を払ったのね」
納得いくかのように頷く少女に翔は問い詰める。
「自分だけで納得してねえで答えやがれ。お前が天魔じゃなく女神で、リュマダがどうして人間族に嘘の伝承を伝えたのか全部だ」
己の疑問を解消する為に翔は言い放つも少女はただ冷然とした態度で翔に告げる。
「貴方は真実を知ってどうするの?」
「元の世界に帰る。それだけだ」
真っ直ぐに真意ある瞳で少女を見据えると、少女は翔から視線を逸らしてレイナを見る。
「……………………そこの貴女も聞きなさい。これはもう私達女神と元凶であるリュマダしか知らない真実を」
その言葉にレイナは翔の傍まで歩み寄り、これから耳にする内容に唾を飲み込む。
「この世界は元々は人間族と亜神族が平和に生活する世界。それを管理するのが私達十二神の役目だった。だけど、ある日に別世界から訪れた神がいた。それはリュマダ」
淡々と少女は昔の事を話す。
「リュマダは別世界からこの世界を自分の物にしようとやってきてその強大な力で私達十二神を倒し、力及ばず敗北した私達は下界でリュマダに見つからない様に身を隠した。そしてリュマダは新たな種族である魔族を創り上げて人間族と戦争を始めた」
悔しいのか少女の手に力が込められているのがわかる。
それでも少女は語る。
「リュマダの目的は混沌。希望と絶望の繰り返し。この世界に住む種族と自分が創り上げた種族で戦争を行わせてた。だが、リュマダは自分が創り上げた魔族を強くし過ぎたために人間族に希望を与えた。それが古代魔法…………であり、この世界の住人ではない貴方をこの世界に召喚したのもその一つ」
「『勇者召喚』か…………ハッ、つまりなんだ? 俺達はリュマダを楽しませるための駒ってか?」
「そう。人間族がそう簡単に絶滅しない様にする救済措置」
「ふざけやがって…………ッ! とんだ邪神じゃねえか………ッ!!」
腸が煮えくり返るほどに憤る翔に少女は冷静に続ける。
「私達を追い出したリュマダは自分がこの世界の神だと神託を下して今ではこの世界の神として崇められるとは逆に私達は神に逆らって下界の堕とされた反逆者。私達は来るべき時、神々の大戦に向けて力を蓄えているの」
「少しお待ちください。その神々の大戦が開戦したらこの世界は…………」
「勝敗関係なく滅びの道を辿るわ」
「――――――っ」
断言するその言葉に言葉を失うレイナ。
無理もない。死を宣告されたも同然のことを告げられたのだから。
「私は貴女の先祖と契約をしたのよ。この国を発展する力を授ける代わりに私をこの場所に匿うという契約を。この事は貴女の先祖代々から私の口から直接語り継がれてきたことなのよ。貴女にはそのことに知る権利があったから話しておくわ」
真実を耳にして言葉を失うレイナを置いて翔は口を開く。
「なるほどな、お前の事情も世界の真実も理解した。だが、この世界がどうなろうか知ったことか」
はっきりと翔はそう言い切った。
「俺はあいつらを連れて元の世界に帰る。その為の力を貰いに来ただけだ。神々の大戦だろうとなんだろうと勝手にしてろ」
レイナ同様に真実を聞いた翔はリュマダに怒りを覚えるが、この場所にまで訪れた本題は別だ。
力を得る為に翔はここまできたんだ。
「……………………助けてくださらないのですか?」
レイナは縋るかのように翔に言い寄る。
「貴方様がお強いことは聞いています。なら、その力は弱い人達の為に使っては頂けないのですか?」
「甘えんな。強い奴は弱い奴を守る義務がどこにある? そんなもん自分の弱さから目を背けて逃げているだけじゃねえか。自分の弱さを憎まない奴がみっともなく縋るんじゃねえよ」
無表情で突き放つように冷酷に告げる。
「俺は自分の弱さをどこまでも憎む。強くなるならどんな犠牲だって払う」
なにより翔は勇者でも英雄でもない。救える数には限界がある。
恨まれようが憎まれようが自分が護ると決めた者だけを護る通す。それだけだ。
「女神、俺に力を寄越せ」
その力を手に入れる為に翔は女神の少女に要求する。
「……………………」
白い瞳が翔の心を見抜くように見据える。
「……………………いいわ、貴方のその意志の強さに免じて力を授けましょう。―――――代わりに貴方の五感の一つ”味覚”を貰うわ」
「ああ」
要求する対価に迷うことなく頷く翔に少女は翔の身体に手を当てる。すると、消失する感覚と同時に何かが身体の中に流れてくる。
「私が貴方に授けた力の能力は能力増大。貴方と貴方が任意した相手の能力を何倍にも増大させるわ。ただし、増大できるのは本人の力量によって左右される」
単純ながらいい能力だと翔は思った。
しかも自分だけではなく自分以外の人の力を増大できるのはありがたい。
「貴女はどうするの?」
少女はレイナに視線を向ける。力を欲するのか? そうでないのかを確認する眼差しにレイナは困惑した顔でその視線から目を逸らした。
「そう。でも、それが正しいわ」
少女はそんな彼女を責めることなく静かに瞼を下ろした。
失うことに恐れて逃げるのは恥ではない。避けて通るのは賢いことだ。
その先を進むのは覚悟を決めた愚者だけだ。




