王女の寝室
夜天に散る星空の下で二人の男女が王城に忍び込んでいた。
警備を突破して城内に潜入するのは漆黒の衣を身に纏う暗殺者達は予め頭に叩き込んだ城内の構造を辿って王女であるレイナの寝室に音もなく近付く。
言葉ではなく指で指示を出し合いながらレイナの寝室に移動する暗殺者達は目的の部屋に到着する。
罠が張られていないかを確認し、警戒しながら扉を静かに開ける。
僅かに開けた扉の隙間から内部を確認する。
暗殺者として鍛え上げられた夜目で部屋の内部を確認し、寝台に膨らみがあるのを目視する。
部屋の内部に侵入して得物であるナイフを手にする暗殺者達は足音を立てずに標的に近づく。
「悪ぃが」
「「――――――――っ」」
王女と暗殺者の二人しかいない部屋に声が響く。
内部を確認した時はいなかった黒のローブを羽織る目つきの悪い男が立っていた。
「こっちも仕事だ」
指を動かして暗殺者達の足元に魔法陣を出現させて動きを封じる。
「たくっ、こっちは調べ物で寝てねえってつーのに」
魔術で動きを封じた暗殺者達に愚痴を溢しながら歩み寄る翔は男の暗殺者の頭を鷲掴みにする。
「んで? 依頼人は誰だ?」
「……………………」
尋ねるも男は翔を睨んだまま何も答えない。黙秘する。
暗殺者としての矜持か? もしくは本当に知らないのか? その理由はわからないが、喋らないのであれば翔にも考えがあるがその前に。
「舌を噛んで自害も毒を飲もうが無駄だ。そんなもんを治す聖職者がこっちにはいる」
その言葉に男は僅かに目を見開く。
どうやら本当に自害をするつもりだったようだ。
「まぁ、死ぬなら全部ぶちまけてから好きにしな」
魔法陣を展開させて男の意識を白濁させる。
「何を!?」
相方の様子がおかしくなったことに女の暗殺者は声を荒げる。
「死にゃしねえよ。暗示の魔術だ。洗いざらい吐いて貰うぞ」
女の暗殺者に睨まれながら尋問に入る翔。その間、相方の目を覚まさせようと女の暗殺者は声を飛ばすもその意味はなく、結果的に男の暗殺者は全てを話した。
「くっ、殺せ…………」
身動きも取れず、素顔も見られて、洗いざらい吐かされた暗殺者を生かす理由はなくなった。
生を諦め、死を懇願する暗殺者に翔は鼻で笑った。
「ハッ、そんなに死にたきゃ自分で死ね。牢屋に入ったら好きにしな」
翔は予めに設置しておいた転移魔術で暗殺者達を牢屋の中に転移させる。
「暗殺者の迎撃ご苦労様です」
むくりと起き上がって礼の言葉を口にするレイナの反応はまるでこうなることがわかっていたかのように冷静だった。
「……………………冷静じゃねえか、王女様」
「立場上命を狙われる身ですからこういうことには慣れるものです。それよりも情報は?」
「依頼人はフードで隠されて知らねえらしい。声からして女とはわかったみてえだが、声音を変えることぐらい簡単だ」
魔道具で声を自在に変えることが出来れば相手が男だろうか女だろうかわからない。結局は一体誰が王女の命を狙っているのかその真相には届かない。
「つーか、心当たりはねえのか?」
「あり過ぎて逆に…………」
「チッ」
王族、それも王女である彼女をよく思わない者は多くいる。その中から探す出すのは困難だ。
現状ではこの調子で一ヶ月後に開催される継承式までレイナを護衛しなければならない。
「…………今、ふと思いましたけど寝室にお父様以外の殿方を招いたのは初めてですね。こういうのを夜這いと言うのでしょうか?」
「違ぇよ」
「夜中に忍び込んできた殿方の強引に押し倒されて純潔を強引に奪われるのでしょうか?…………どうしましょう、少しドキドキしてきました」
「するか! あと、するな!?」
頬に手を当てて赤くするレイナに怒号が轟く。
「たくっ………王女様なら婚約者ぐらいいんだろう?」
「ええ、おりましたよ。一週間ほど前に魔族に殺されましたが」
さらりと話すレイナに翔は僅かに表情を歪ませる。
「……………………俺達と出会ったのは」
「はい、その婚約者の葬式の帰りです。もっとも貴方様方がいなければ私も今頃はお墓の中だったでしょう」
表情一つ変えることなく事務的に話すレイナに翔は「そうかよ…………」と吐き捨てる。
「元々魔族によって衰退気味である国同士を結束させて再建するのを目的とした言ってしまえば政略結婚のようなものです。お気になさらず」
「誰が気にするかよ」
気遣いの言葉を乱暴に返す。
「んなことよりお前に聞きたいことがある」
「なんでしょうか?」
「こに城の地下に何がある?」
「………………この国の歴史とそれに関わる資料ぐらいしかありませんが?」
「嘘つけ。王女のお前なら知ってんだろう? なんせ地下にはこの国の王族しか入れない術式が施された魔法陣が扉に描かれていた」
「客人扱いといえど城内を好き勝手に動くのは困るのですが?」
「話をすり替えんな」
ハルからこの城の地下に変な気を感じると聞いて翔が物は試しにそこに足を踏み入れた。
レイナの言う通り、地下にはこの国の歴史とその資料が置かれていたが、隠し階段を見つけてそこに降りると頑丈な扉に刻まれた魔法陣を発見した。
「あそこには何がいる? それを教えろ」
峻烈な眼差しをレイナに向けながら問い詰めるとレイナは諦めるように息を吐いて教えた。
「我が城の地下には神に逆らった天使である『天魔』がおります。元々この国は『天魔』の姿を神リュマダから眩ませる為に建国されたのが始まりです」
「……………………こんなところにいたのか」
思い掛けない言葉と出会いに呆れと笑みを作る。
「もう何十、何百も幽閉同然の『天魔』の存在を知っているのは私達王家の一族のみ。それがどうかなさいましたか?」
「少しその『天魔』に用があるだけだ」
まさかこんなところで『天魔』の存在を知るとは思いも寄らなかった。
ハルがいなければ気付くことさえできなかっただろう。
「おい王女、その『天魔』に会わせろ。今すぐにだ」
翔は命令するかのようにレイナに言い放つ。
何を対価に支払われて失うことになってでも元の世界に戻る為に力を手に入れる。
その力が手に入れる存在にまためぐり合うことが出来た。




