それぞれの行動
ひょんなことから王女であるレイナの護衛をすることになった翔達は城の客室を借りて表向きは王女の客人として扱われている。
期限は一ヶ月。その間は王女の護衛を行うことになった翔達は初日はラヴァンが王女の傍で護衛している。
サクロとハルは城の探索兼城内の構造を把握。
翔は護衛の前払いでこの国に所有されている『勇者召喚』の古代魔法の資料に目を通していた。
「大体の構造は同じか…………」
椅子に背を預けてぼやく翔はネイション王国で見た魔法陣を照らし合わせて思考を巡らせる。
しかし、構造は同じでもこの国では一度も勇者の召喚に成功した試しがない。
それなのにどうしてネイション王国では何人も勇者を召喚することができたのか?
その違いは何か? 魔法陣に些細な構造の変化? 魔力の供給量? 様々な疑問が翔の頭を通り抜ける。
そもそも勇者を召喚する際にいったいなにを持って勇者と断定して召喚しているのかその原理もわからない。
「思っていたより難点だな…………」
ネイション王国の魔法陣が使えなくなった以上はそれを描かなければならない。そして、それができるのは魔術師のクラスである翔だけ。
「一度実験で召喚魔術を試してみるか…………」
転移魔術なら既に会得している翔は今度は召喚魔術を試してみる。
床に魔法陣を描き、そこに魔力を送る。すると、魔法陣の中心に女性の下着が召喚された。
それを見て翔は無言でそれを燃やして見なかったことにする。
「このままだと召喚はランダムか…………」
目的のものを召喚するにはその固定概念が必要となる。『勇者召喚』で勇者が召喚されたような固定概念が必要され、それによって魔力の消費量も変化する。
物質や小動物なら翔一人の魔力でも問題はないが、人一人を召喚するとなると無理をする必要がある。
「魔昌眼を使えば固定概念はまだなんとかなるが…………」
魔昌眼を使用して召喚魔術を使えば目的のものを召喚することはできるが、それはこの世界のものであって異世界、翔がいる地球のものは召喚できない。
魔昌眼で見えるのはあくまでこの世界の理だけだ。地球のものを召喚させることはできない。
『勇者召喚』の古代魔法を分析すればするほどにこれがどれだけ高度な術式かを思い知らされる。
自惚れではないが、翔はこの世界の魔術師の誰よりも強いし、その知識もあると思ってる。
だが、そんな翔でも解き明かせれない高度な魔法。それがリュマダ神が人類に授けた古代魔法。
一癖二癖はある古代魔法の解明と同時にこれからは思考錯誤を繰り返して実験も行ってみようと一考する。
まずは地球の物質を召喚することから始めようと思考を巡らせている。
「その為には知識か…………」
別の書物を手に取って再度調べ始める。
王女であるレイナの護衛を務めているラヴァンは執務室の王女のすぐ後ろで立っている。
元々城仕えであったラヴァンはそれなりの教養と礼儀作法を身に着けている為に特に訝しげに見られることなく、自然な態勢で周囲を警戒している。
レイナは眼前の羊皮紙に目を通して自分の仕事に集中している。
「城仕えなされたことがあるのですか?」
「え? は、はい。ネイション王国で…………」
不意に声をかけられて戸惑いながらも答えるラヴァンにレイナは微笑する。
「正直に申しまして『勇者召喚』に成功した唯一無二のあの国が滅びるとは思いませんでした」
手を止めず話しかけるにラヴァンは小さく頷いた。
別段、ネイション王国も他の国同様に幾多も魔族の襲撃を受けてきた。だが、それを撃退したのは異世界から召喚された勇者達だ。
だから勇者に守られているネイション王国はこの世界で一番安全な国だと思われていた節もある。
しかし、そのせいか何度も勇者を召喚でき、その勇者が魔族を撃退できると思い込んだ王や王族、貴族はその勇者を使い捨ての駒として扱うようになった。
男性なら政治、女なら玩具に。勇者として召喚された人は男女問わずに利用されるところまで利用されて殺された。
ラヴァンは見て見ぬふりをして自分にまで被害が及ばない様に自分の身を守るので精一杯だった。
最後に召喚されたのは例外中の例外、勇者に巻き込まれて召喚された二人。
その二人が翔とローレル。
いつもは一人だけなのに三人も召喚されていたことには驚いたが、特に深く考えることはしなかった。
どんなに頑張っても結果は同じ。最後は殺される。
なら自分のすることは変わらない。いつものようにするまで。
そうやって自分に言い聞かせてきたが、ある日に三人の中で一人だけ最弱で有名な魔術師のクラスになった者がいると小耳にはさんだ。
その人だけならもしかしたら見逃してくれるかもしれないと思って城から追い出そうとした。
今思えばあれは単に罪悪感から逃れたかっただけかもしれない。
でも、結果は違った。
最弱で有名な魔術師である翔に完膚なきまでに敗北し、泣かされた。
自惚れではないが、王国一と言われるだけの実力はあると思っていたが、彼はそんな自尊心を呆気なく砕いて、自分がどれだけ無知で愚かだったのかを思い知らされた。
その後、魔族の襲撃でネイション王国は滅びて今は翔に付き添って共に旅をしている。
「ラヴァンさん、私が女王になった暁には私の従者になるつもりはありませんか? 好待遇で雇いますよ?」
「………………その御気持ちだけで受け取らせて頂きます」
「そうですか、残念」
全く残念そうには思えない口ぶりで作業に集中するレイナにラヴァンは引き続き周辺の警戒に当たる。
城の探索兼城内の構造を把握に行っているサクロとハルは城内を歩きまわって迷子になっていた。
「広いね、本当に…………」
まさかこの歳で迷子になるとは思わなかったサクロは頭を抱えた。
「大丈夫です。ハルは仙気で気を探知できますのでご主人様がどこにいるのかここからでもわかります」
「頼もしいね…………」
自分よりも年下の女の子は無い胸を張って尻尾を振ってた。
「それにしてもお城って初めてで憧れはあったけど逆に落ち着かないな…………」
「ハルもです…………」
清貧な生活をしていた二人にとって城住まいに憧れと羨望を抱いてはいたが、実際に体験するとなんとも言えないというかなんというか、落ち着かない。
いつもの生活の方が性に合っていると二人は感慨深く頷いた。
「それにこのお城には変な気が感じます」
「変?」
「はい、足元の方から神々しいような禍々しいような何とも言えない気がします」
なんとも説明できない言葉に疑念を抱くサクロだが、ハルのように仙気は扱えないサクロにとってわからないことだ。
「う~~ん、一応ショウに教えておこうかな?」
「はい」
二人はその事を頭の片隅に置いて城内を歩きまわる。




