護衛依頼
イクリム王国第一王女が乗っている馬車をたまたま助けて護衛という形で同行することになった翔達なのだが。
「ああ、とてもいい毛ざわり」
その王女様、レイナ・リース・イクリムは自分の馬車ではなく翔達が乗っている馬車の荷台に乗ってハルを膝元で抱きしめて耳や尻尾を堪能している。
ハルは借りてきた狐のように大人しい。同じ荷台に乗っているサクロも先ほどから姿勢を崩さずに背筋を伸ばしている。
手綱を握っているラヴァンも万が一が起きないように緊張しながら慎重に操車している。
「……………………お前、自分の馬車に乗りやがれ」
翔は変わらない態度で王女にそう言うと周囲の兵士に睨まれるも無視する。
「あら、あちらよりもこちらの方が王女が乗っているとは思われないでしょ?」
しかしレイナはそんな翔の言動に気にすることもなく平然とそう返す。
先程のリザードマンが誰かが意図的に放ったものやそうでないものでも警戒するこ越したことは無い。
なら、自分が使っている馬車よりもリザードマンを容易く葬った翔達がいる馬車に乗っていた方が安全だ。
王女が乗っていた豪華な馬車は先ほどの戦闘で血を失い過ぎた兵士が乗っている。
「それに私は貴方様方に興味があります。できれば街に着くまでお話でもと思いまして」
石化しているハルの頭を撫でながら穏やかに告げる王女に嘆息する。
「俺は話すのは得意じゃねえ。サクロ、任せた」
「任せたじゃないよ! 私だって王女様に何を話したらいいのかわからないよ!?」
話を振られたサクロは必死にそう叫ぶ。
下手な会話をすれば即首が落ちる。命懸けの会話を誰が好んでするものか。
聖職者とて命は惜しい。
「ふふ、そう慌てなくてもこの場は無礼講です。無礼を働いたから即処刑はありませんのでご安心を」
「お心遣いに感謝します。では、僭越ながら聖職者である私が旅の話をさせて頂きます」
「はい、お願いします」
畏まった態度でこれまでの旅の経緯を話し始めるサクロ。
普段は見れないギクシャクとした態度のサクロを鼻で笑う。
「ショウ様、言動には気を付けてください。言葉一つで私達の首が刎ねることもあるんですよ?」
手綱を握るラヴァンが小声で翔に話しかける。
「貴族、王族は誇り高く、無礼を働いたらその場で処刑されることだってあります。幸いにも王女様は寛大ですからこうしていられますが、いつ態度を変えられるかわかったものではありません」
「そん時はそん時だ」
「止めてください。それに下手に刺激して怒らせたら一生追われる嵌めになりますよ? そうなればお二方を探す旅にも支障がでます。それでもよろしいのですか?」
「……………………」
「今はいいかもしれません。ですが、最低でも街に到着したら嫌でも畏まった態度を取ってください」
「……………………チッ、わかったよ」
小さく舌打ちして嫌々ながら頷く。
翔の勝手な行動で煌とローレルを探す旅に支障を出す訳には行かない。
それならここは堪えて耐えるしかない。
「それより先ほどのリザードマンですが、どう思いますか?」
「あぁ? どういうことだ?」
話が一変して先ほどのモンスターについて話す。
「リザードマンは群れで行動するモンスターです。人も襲うことだってあります。ですが、王女様を襲ったのは本当に偶然なのでしょうか?」
「人も襲うならそうじゃねえか?」
「……………リザードマンには個体差もありますが他のモンスターと違って知能があります」
「……………………相手を選べるぐらいの知恵はあるってことか?」
「はい」
そう考えれば確かにおかしいと翔も思う。
人を襲うとはいえ、鎧を着ている兵士を襲うよりも行商人などを襲った方が狩りも簡単だ。
それなのに王女がいる馬車を襲った。
「勿論本当に偶然かもしれませんが、少し気になりまして…………」
あくまでそうかもしれないという可能性の一つとして話したラヴァンに翔もその疑念を頭の片隅に入れておいた。
仮に王女を狙ったものだとしても翔には関係ない。
こちらにまで火の粉が飛ぶというのなら払うが、そうでないのなら無視する。
兵士達と共に周辺を警戒しながら進み、街道を出るとついに街が見えてきた。
「あそこが私達が住んでいる街です」
ようやく新しい街が見えてきた翔達は王女を連れて正門を潜り、正門から見える城まで王女を運ぶ。
「凄いです。ハルはこんな大きなお屋敷は初めて見ます」
城が初見のハルは瞳を輝かせて羨望の眼差しを向けている。
それを見て苦笑するレイナと共に報酬金を貰う為に城の中に同行する。
「ようこそ、我が城へ」
城内を進む翔達の目に映るは多くの執事や使用人。豪華な絵画や彫像などがあちこちある。
「売れば…………いくらに」
翔の後ろでそんなことをぼやくサクロを無視して足を動かす。
既にネイション王国でこういうのに見慣れている翔とその城に住んでいたラヴァンはいつもと変わらない足踏みで王女に続いて城内を歩く翔達は一室に招き入れられる。
王女と対面するようにソファに腰を下ろす翔達に使用人が紅茶をテーブルに置いて部屋を去る。
「ではこちらが護衛の報酬となります」
手を叩くと近くにいた執事が金の入った袋を翔達の前に置くとその中身をサクロが確認して満足そうに頷いていた。どうやら予想より報酬は多かったみたいだ。
「それでは王女様。お、私達はここで失礼します」
面倒事を避ける為に仕方がなしに敬語で話す翔はさっさと城から出ようとするも王女に呼び止められる。
「少しお待ちを。冒険者である貴方様方に依頼をしたいのです」
「依頼、ですか…………?」
「ええ、街道で私と兵士達を襲ったリザードマンは私の命を狙ったものでしょう」
平然と自分の命が狙われているということを明かした。
「しかし、貴方様方にのおかげで私は命を救うことができました。ですが、また私の命を奪う為に暗殺を企んでくる可能性は高いと私は考えております」
「…………護衛をしろってか? 悪ぃがそんな暇はねえ。俺達には俺達も目的がある」
こんなところで時間を無駄にするわけには行かない翔はその依頼を断って部屋から出て行こうとすると。
「我が国が所有する『勇者召喚』の古代魔法と勇者に関わる資料の閲覧」
レイナのその言葉に翔の動きが固まる。
「『勇者召喚』の試みは何もネイション王国だけではありません。わが国でも幾多の実験を繰り返したその研究成果を保持しております。異世界人である貴方様にはこれ以上にない報酬では?」
翔はサクロを睨むも本人はさっと目を逸らした。
お喋り聖職者め、愚痴を溢す。
「当然金銭の方も用意しましょう。どうですか? 悪い話ではないとは思いますが?」
確かに悪い話ではない。
ネイション王国にある魔法陣はもう残っていない。調べてある程度は覚えてはいるもそれを再現できるかと言われたら怪しいところだ。
魔法陣を描くとしてもその知識が翔には必要だ。
「…………期限は何時だ?」
「一ヶ月後に行われる継承式。そこで私が女王になる予定です。それまでの間、私の護衛をお願いします」
第一王女であるレイナが正式にこの国の女王になるまでの間の身辺警護。
しかし、ラヴァンがそれに異を唱える。
「失礼ながら王女様。私達のような者を傍においてもよろしいのでしょうか? 何の接点もない私達よりも王女様が信頼できる方に護衛を要請するべきではないでしょうか?」
「接点がないからこそ貴方様方は私に恨みを持っていないことが明白です。その上に相応の実力者である貴方様方なら実力で周囲の者を納得させることができるはずです」
文句を言われる実力で黙らせればいいのです、となかなか物騒なことを言う王女。
ラヴァン達の視線が翔に集まる。
決定権は翔に委ねるように翔は少し悩んだ末にその首を縦に振った。
「…………資料は前払い。護衛の都合は俺達で決める」
「ふふ、では一ヶ月の間よろしくお願いします」
こうして翔達は王女の期間限定で王女の護衛をすることになった。




