王女様
いつも通り旅を続けている翔達。するとハルの狐耳がピクと何かを察知した。
「ご主人様、この先に複数の人がいます」
仙気の長けた狐人族であるハルは目視できない場所からでも気で人を察知できる。
「鉢合わせるか?」
「はい」
「面倒だな…………」
余計な騒動に巻き込まれて面倒事は避けたい翔は迂回するか悩む。
しかし、ここは一本道の街道。
このまま進めば鉢合わせるというのならいっそのことここで暫く時間を置いて進もうかと一考する。
「あと血、人の血の匂いがします」
獣人の嗅覚で嗅ぎ取ったその匂いを三人に教える。すると翔達は緊張が走る。
「あの、助けに行きませんか?」
ラヴァンがそう提案する。
「あぁ? んな面倒事にいちいち関わるってのか?」
面倒事は避けたい翔にとってその提案に素直に首を縦には触れないのだが、三人の助けてあげてほしいと訴えている視線に耐え切れずに乱暴に頭を掻く。
「わぁーたよ」
「では、急ぎます!」
翔の了承を確認したラヴァンは馬を走らせる。
馬を駆け出して急いでその場所に向かう翔達一行はすぐにその場所に辿り着く。
二頭立ての馬車を襲っているのは二本足で立つ人型の蜥蜴のモンスターが10体。数人の兵士がそのモンスターと戦いながら後ろで怪我をしている兵士を守っている。
「前方にリザードマンが10体!」
「怪我をしている人は私が治すね!」
「ああ、ハル。先手はお前が行け」
「はい! ハル、参ります!」
ハルは刀を手にして馬車から跳び出す。獣人の高い身体能力で駆け出すハルはリザードマンと接近と同時に一閃を浴びさせる。
「グルルッ!?」
不意に傷を負われたことに驚きの声を上げるリザードマンや兵士達は突然のハルの登場に丸くする。
「ルルル!」
「グル!」
仲間に傷を負わされて憤るリザードマンはその鋭利な凶爪をハルに振るうもハルはそれを紙一重で躱してリザードマンの身体に赤い一線を走らせる。
そして少し遅れて翔達もその場に辿り着く。
「それじゃ怪我人は私に任せて!」
「ああ」
馬車から降りて傷付いた兵士達の所に向かうサクロに翔もハル同様に参戦しようとするがラヴァンに止められる。
「ショウ様、ここは私に行かせてください。新しい魔法を試します」
「なら行け」
「はい」
翔の代わり参戦するラヴァンは杖を前にかざしてリザードマンに向ける。
「【プロクス】」
放たれる渦巻く炎はリザードマンを飲み込んで灰へと姿を変えたが、翔はそんなことよりも詠唱無しで魔法を発動させたラヴァンに口笛を吹く。
「無詠唱魔法ってやつか? 少しはマシになったじゃねえか」
「いいえ、まだまだです。もっとイメージを鮮明にしませんといけません。そうでないと想像より威力は出ません」
謙虚ではなく強さを飽くことなく求める声音で自分はまだ弱いと言外に告げる。
ひっそりと練習している成果は今のところは出ているもこれではまだまだエクエス、七魔将には届かない。
これからの戦闘を考えれば最低でもエクエスと互角以上に戦えるようにしないといけない。
「もっと強くならねばなりません」
再び炎でリザードマンを灰に変えていくラヴァンとリザードマンを切り裂いていくハルの二人の活躍で次々とリザードマンは倒れていく。
その光景に唖然とする兵士達にサクロが歩み寄ってくる。
「【神よ、地に住む下界の下々に癒しの施しを与えたまえ】」
詠唱を口にする。
「【キュアヒール】」
癒しの光が傷を負った兵士達を包み込むとその傷は瞬く間に消えていく。
「はい、一人1万ユール」
『ええっ!?』
にっこりと金銭を要求するサクロに驚きの声を上げる兵士達。
守銭奴聖職者はこんなときでも逞しく金を要求する。
そうこうしている内にリザードマンは全てハルとラヴァンの手によって倒された。
「ご主人様! 倒しました!」
「ああ」
尻尾を振りながら駆け寄ってくるハルの頭に乱暴に手を置くもハルは嬉しそうに目を細める。
「行くぞ。これ以上は無駄だ」
「えぇ~もう少し待ってよ」
「いいから行くぞ」
金を徴収しようとしているサクロの首根っこを掴んで自分達の馬車に向かう翔達に兵士の一人が声をかけてくる。
「旅の方! 助けてくださるだけでなく兵士の傷も治してくださりありがとうございます!」
「礼はいらねえ。さっさと道を空けろ」
兵士達の馬車が邪魔で通れない翔は礼の言葉よりも先に馬車を動かす様に声を飛ばす。
「すぐに。ですが、我等の姫が貴方方に直接礼を申し上げたいと」
「姫だぁ?」
兵士の言葉に怪訝する翔達に馬車の扉が開くと、そこから姿を見せたのは一人の少女だ。
歳はラヴァンやサクロより少し下ぐらいだろう。美しい華やかなドレスを着こなす銀髪の少女。
「お初にお目にかかります。私はレイナ。レイナ・リース・イクリム。イクリム王国第一王女でございます」
優雅に一礼する第一王女に翔以外の全員がその場で膝をついた。
「ショウ様、頭をお下げください。あの方は王族の方です」
ラヴァンは密かに翔にレイナが王族であることを教えるも翔はふんぞり返る態度を取る。
「知るか。王女だろうが王族だろうが関係ねえ。さっさと道を空けやがれ」
威張り散らす態度で傲慢な物言いに兵士達はぎょっと目を丸くしてサクロ達は呆れるように息を吐く。
王族相手にそのような態度は本来ならその場で即首を刎ねられても文句は言えないのだが、レイナは可笑しそうに笑みを溢す。
「ふふ、変わった殿方。勿論すぐにでも道は空けます。ですが、お礼を先に。私と我が国の兵士達を救ってくださりありがとうございます。貴方様に感謝を」
「俺はなんもしちゃいねえよ。礼ならこいつらに言え」
「ではそう致します」
器の広い王女に安堵するラヴァン達。翔は三人を連れて自分達の馬車に戻ろうとする。
「失礼ですがどちらにお向かいかお聞きしても?」
「…………取りあえずは街だが? そうがどうした?」
「それでしたら私の街まで護衛という形でご同行をお願いできませんでしょうか? 貴方様方がいればとても心強いです。勿論報酬もお支払い致します」
「その御依頼謹んで受けさせて頂きます」
「………………なんでお前が返事をしやがる?」
翔に変わって即答するサクロ。その瞳は金になっていた。
相手が王族だからその報酬も期待できるのだろう。金にがめつい守銭奴聖職者らしい考えだ。
「………………まぁ、行き先は同じだ。受けてやる」
「ありがとうございます」
こうして翔達は偶然にも遭遇した王女と共にイクリム王国に向かって動き出す。




