復讐の獣人
「勇者のクラスを持った男と金髪の魔法使いだぁ? 聞いたことねえな」
「そうか…………」
宿で一度休息を取ってから翔達は二手に分かれて食料調達と情報収集に励んでいた。
翔はハルを連れての情報収集で酒場に足を運び、酒場の店主に一杯飲むことを条件に二人の行方を探るも空振りに終わった。
「そんなことよりも今はある魔術師の男の噂でいっぱいだぜ? 最弱で有名なクラスの魔術師が魔族を迎撃して街を護ったって話だ? 何か知らねえか? 兄ちゃん」
「知らね」
酒を飲んで知らない振りをする。
十中八九間違いなく自分の事だが、他人の振りをしておいた。
面倒事は御免だ。
「にしても…………」
店主は横目で翔の隣にいる果汁水を飲んでいる狐人族の少女、ハルを見る。
「兄ちゃんの奴隷は随分身なりがいいな? そっちの趣味か?」
「ぶっ飛ばすぞ」
断じて幼女趣味ではない翔は変なことを言う店主に鋭い眼差しを向ける。
下手に面倒事に巻き込まれないように共にいさせているだけの話だ。
憤る翔に店主は「悪い悪い…………」と悪びれることなく謝る。
「どうだ? 俺のとこの奴隷と交換してみねえか? 中古だがいい身体してるし、それなりに仕込んでる。そっちのガキよりかは満足してやれるぞ?」
「行くぞ」
好色の笑みを見せながら奴隷交換を提案してくる店主を無視して代金をテーブルに置いてハルの手を持って立ち上がる。
「お堅いな…………兄ちゃんは」
やれやれと言った感じに呆れた声を背にして酒場を出る二人。
粗方の情報は集めたがやはり、二人に関する情報も古代魔法や魔窟の情報も入手できなかった。
奴隷はいるが栄んなこの街ならそれなりの情報は手に入るとは思っていたが、期待外れもいいところだ。
ハルの手を引きながら街中を歩くもやはり、周囲のあちこちには奴隷。
道の真ん中で堂々と奴隷に暴行する輩も入ればそれを面白そうに傍観する者もいる。
本当に腹が立つ。
翔は胸の奥に荒ぶる怒りを押さえながら街に来た時に発見した鉱石をいくつか買う。
他にも魔術で試してみたい実験材料をいくつか買い占めて宿に戻る。
「あ、お帰りなさいませ」
「お帰りー」
宿に戻ると食料を買いに行っていた二人は既に戻って来ていた。
「どうでしたか?」
「収穫はねぇ。予定通り明日には出るぞ」
もうここには用はねぇ、と告げる。
「問題はこいつだ」
翔はハルを一瞥しながら二人とハル自身に言う。
ハルには帰る場所も家もない。頼れる人もいない天涯孤独の身。
この街を出てからハルをどうするかが問題だ。
「あの、私達と一緒に行動するというのは…………?」
「論外だ」
ラヴァンの提案を一蹴する。
翔達の旅は過酷で更には以前の魔窟で七魔将のエクエスに目をつけられている。
魔族側が翔達を少なからずは警戒されている中で子供であるハルを連れて旅をする方がよっぽど危険だ。
このまま街に残したらそれこそ次は性奴隷となる可能性も高い。
「旅をしながら信用できそうな人に預けるしかないかな?」
「今のところはそれしかねぇ。…………お前の神聖魔法で目を治すことはできねえのか?」
「無理だよ。生まれてすぐにできた傷や呪いならともかく、生まれ持ってきた病気や障害は傷でも呪いでもないから治せれないんだよね」
聖職者であるサクロでも先天性の病気や障害は治すことは出来ない。
治してあげたいのは山々だけどできないことを隠すこともできないサクロは正直にそのことを話した。
「そうか…………目が見えるようになればまだいいと思ったが、そう簡単にはいかねえか」
その話を聞いて特に何も言い返さない。
無理なことをあれこれ考えるよりも別の方法を考える。
「あの…………ハルのことはお気になさらず」
自分の事をあれこれと考えてくれている三人にこれ以上気を遣わせまいと口を開く。
「ガキが気を遣うな。それにこれはお前の今後の身の振り方だ。少しはどうするか考えとけ」
そんなハルに翔はそう言う。
奴隷の身分から解放する以上はそこからはハル自身が考えて生きなければならない。
一人にしろ誰かと一緒にいるとしても翔達と別れたらもう会うことはないのだから。
結局は誰か信用できる人に預けるで落ち着いて食事を済ませて互いの部屋で休みを取る。
「おやすみなさいませ」
「手を出したらダメだよ?」
「出すか、ボケ」
二人は部屋に戻って翔もさっさと休もうとするとハルは自分の着ている服を全て脱いで全裸となり、翔の傍に寄ろうとする。
「…………服着ろ。風邪引くぞ」
「えっと、夜伽は…………?」
「いらねえよ」
女の奴隷は皆こうなのか、とにかく必要ない翔はそれだけ言ってベッドの上で横になる。
久々のベッドにすぐに眠気が押し寄せて来て、睡魔に身を委ねようとする。
「…………ご主人様」
寝そべる翔に己の肢体を重ねようとするハルに眠気が飛び、瞼を開ける。
「おい、自分のベッドで寝やがれ」
覆い被る獣人の少女に呆れながらも自分のベッドに行くように促す。
幼女趣味でもなければ変態でもない翔は子供が上に乗ったぐらいでどうこうする気はない。
「……………………あ?」
そのはずなのにハルを見ると鼓動が高まる。
欲しい、自分のものにしたいと思ってしまう。
手が自然とハルの頬に触れる。
ピクと反応する狐耳が愛らしく思えて仕方がない。
頭が白く染まり始め、感覚という感覚も麻痺していく。
何も考えられなくなる。
「どうぞ」
そこに息を吹きかけるような少女とは思えない甘く、囁かな声に翔はただ衝動のままに駆られ―――
「――――――――っ」
―――る。その瞬間、脳裏に過るはローレルの笑み。
一瞬だけ意識がはっきりしたその一瞬で翔は自分の顔を力の限り思い切って殴る。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
痛みで正気を取り戻した翔は自分の上に乗っかっているハルを睨む。
「……………………俺に何をした?」
怒気を孕んだ声音に驚きを隠せれないハルは予想外だったのか怯えが見てわかる。
「”命令”だ。嘘偽りなく俺に何をしようとしたか話せ」
主人の命令を強制させる首輪の力を使ってハルが何をしようとしていたかを吐かせる。
「……………………仙気を使ってご主人様を操ろうとしました」
「仙気?」
「森羅万象の全てに宿る気と呼ばれる力。狐人族はその力に長け操ることができます」
格闘ものの漫画で出てくる気のようなものか、と考えて翔は奴隷商人であるチャントが言っていた魔力に似た力についてようやく理解した。
確か漫画でも気の扱いに長けた者は相手の気を自在に操って行動不能にしたり、気の流れを断絶することができるなら欲情させるのも狐人族にはお手の物。
似たようにハルは翔の気を操り、傀儡にしようとしていたと推測する。
「俺を操ろうとしたその目的はなんだ?」
ハルの目的を探る翔。その答えに一瞬渋るハルだが観念したように狐耳と尻尾を垂らす。
「……………………復讐。ハルは、あの男、ヴァロノスに復讐する為に生きているのです」
「ヴァロノス…………?」
聞き返す翔にハルは首を縦に振って肯定を取り、ここまでの経緯を翔に話した。
ハルは東の島国。その中で小さな田舎村で生を受けてこの世に誕生した。
生まれつき目が見えないという障害があったが、元々仙気の扱いに長けた狐人族。その中でもハルは仙気の扱いに関して天賦の才を持ち、眼が見えなくても仙気で周囲を感じ取ることができたのでそれほど苦労はしなかった。心優しい両親と村の人達に囲まれて幸せな毎日を過ごしていたある日。
ヴァロノスという魔族が村を襲撃してきた。
悲鳴と消えていく村の人達の気。
ハルの両親はハルを身を挺して守り、命を落とした。
魔族の哄笑を背に、ハルは走った。
生きる為に、そして両親と村の皆の仇を取る為にハルは走った。
山を彷徨って、死にかけたところでチャントに拾われてこの街にやってきた。
奴隷という身分に落とされたがハルは復讐を諦めていなかった。自分を買った主人に従順の振りをして近づき、夜伽と共に仙気で主人を自分の思うように操り、奴隷の身分から解放しようと考えていた。
そこまでの話を聞いて翔は疑問が生じた。
「俺やあいつらはお前を奴隷から解放するって言っただろうが」
元々奴隷を持つ気はない翔達はハルを奴隷から解放しようと何度も口にしている。
わざわざ夜伽の真似事をする必要はないはずだ。
「………………ご主人様の気は凄いのです。宿る気の質量は本人の強さに比例するのです。ご主人様の気はあの男と同等。ご主人様ならあの男をヴァロノスを倒せると思ったのです」
「俺の強さを知って予定を変更。復讐の為に俺を利用しようと考えたわけか」
「はい、あのままでしたらハルは仇を取ることができません」
いずれかはハルを手放そうと考えていた翔達だが、それではハルの復讐は果たせれない。
どうしても翔達の傍にいる必要があった。
「ハルは…………ハルはあの男が許せないのですッ! でも、ハルはあの男には勝てないから、だからご主人様の力を借りて父上と母上、村の皆の仇を取りたい!!」
少女は痛恨の声を上げる。
ハルは理解している。自分の力ではどう足掻いてもヴァロノスに勝てない。復讐を果たせないと。
だからこうするしかなかった。
これ以外に方法が思いつかなった。
それが自分の貞操を失う破目になって仇が取れるなら仕方がないと自分に言い聞かせてきた。
胸の奥に溜まっていた想いを口にする少女に翔は告げる。
「……………………悪ぃが俺には俺の都合がある。お前の復讐に力を貸す気はねえ」
そんな少女に向けて翔は断言する。
翔には煌とローレルを見つけて元の世界に帰るという目的がある。それ以外に時間を浪費するわけにはいかない。
それに顔を俯かせるハル。
だが―――
「まぁ、そいつが俺達の前に現れたらついでに倒してやる。邪魔だしな」
ぶっきらぼうにそう言った。
その言葉に顔を上げるハルは耳と尻尾を逆立てながら。
「ありが、とう…………ございまず…………ご主人様………」
一杯の笑みを咲かせる。




