奴隷の獣人
「シシシシ。それではまたのご利用をお待ちしております」
ハル――という名前の狐人族の少女を奴隷として買った翔達三人の背後からかけられる奴隷商人のチャントの言葉を無視して再び正門に足を運ぶ。
「大丈夫ですよ。私達は貴女に酷いことなどいたしませんから」
「この街を出たらすぐに解放してあげるからね」
獣人のハルの頭を撫でながら優しい言葉をかける二人。そんな二人の言葉にハルは頷く。
「はい、ありがとうございます。ハルはいいご主人様に巡り敢えて幸せです」
鎖は外してラヴァンの手を握りながら共に行動しているハルは目が見えない為に瞼は閉じてるも笑みを見せる。
「幸せなわけねえだろが…………」
ぼそり、と三人の前を歩く翔はそう呟く。
奴隷とされた時点で人としての尊厳は剥奪されている。
どんな暴行も苦辱も許される存在にされた奴が幸せなわけがない。
奴隷制度。異世界ではよく聞く話だが、実際にこの眼で見るまでここまで胸くそ悪いものとは思わなかった。
街に入る為に必要だとはいえ、奴隷を買った時点で翔のその手を黒く染まっている。
仮にこの街の奴隷制度を失くすことができたとしても奴隷という存在は消えない。
他の街や国に売られるだけの問題だ。
全ての奴隷を救えるわけでもない。
翔は勇者でもなければ英雄でもない。自分の手で届く範囲しか助けることは出来ない。
そんなことは嫌というほど理解している。
「チッ」
そんな自分に苛立って舌打ちし、正門に戻ると憲兵は奴隷であるハルを見てようやく翔達は街の中に入ることが出来た。
街に入ると中は予想以上に賑わっていた。憲兵は物流に栄んな街と言うだけあって少し歩いただけで色々な物が売られていた。
一般家庭に必要なものからマニアックなもの、武器や防具、本、鉱石までざっと見渡しただけでも多くの物が視界に入る。
華やかな街。そう思う。
だが、そんな華やかな街の中に首輪をつけて鎖に繋がれた人間族や亜人族が何人もいた。
ごく普通の夫妻とその子供。その夫が手にするは鎖でその鎖に繋がれているのは獣人の女性。子供はその獣人の女性を叩いたり蹴ったりしてるも女性は抵抗の意思すら見せない。
重たそうな荷物を運ばされている人間族の男性の背中を鞭で叩いている商人らしき人間族。
美しい人間族と亜神族を鎖に繋いで街を闊歩している貴族らしき男性。
地面に置かれた皿からミルクをすする獣人もいた。
この街に住む誰もが奴隷を好き勝手にしている。そんな光景を目撃して翔だけでなく後ろの二人も嫌気を差す。
「……………………まずは宿に行くぞ」
「……………………はい」
「そうだね…………」
どの奴隷に瞳を絶望に染めていた。出来る限りその眼と合わせないように宿を探す。
こんな街にいたらこちらの精神までおかしくなる。三人は明日にでも早々にこの街を去ることにした。
「……………………その前にこいつの服装をどうにかするか」
宿を探している途中で服飾店を見つけた翔はハルのみすぼらしい恰好を一瞥して二人に言う。
「……………………奴隷に服など、よろしいのですか?」
「気にしなくていいよ。私達は奴隷として君を買ったわけじゃないからね」
「そうですよ。私達が貴女に似合う服を選びます」
「あ、その前に…………【汚れを祓い、身を清める光の慈悲を】」
サクロは詠唱を口にして手をハルにかざす。
「【クリーン】」
すると光がハルを包み込み、身体についていた汚れが落ちて綺麗になった。
「女の子なんだし、身体は綺麗にしておかないとね」
聖職者が使う清浄魔法。身を清めるだけで特に効果は持たない魔法だが、そういう身だしなみは女として見過ごすことはできない。
「…………奴隷であるハルにこのような過度な待遇をありがとうございます」
自分の金色の髪と尻尾を触って先ほどとの違いを把握するハルはサクロがいる方に頭を下げて礼を口にする。
「…………お前、そんな魔法が使えんなら普段から使えよ。わざわざ身体を拭く手間も省けんだろうが」
「そんなことしたら合法的にショウの身体を見る機会がなくなるじゃん。引き締まったあの肉体を拝む為にもこの魔法はこういう時にしか使わないよ」
「お前もう一生喋るな。変態聖職者」
「アハハ…………」
サクロの言葉にうんざりする翔。その二人のやり取りに苦笑するラヴァンだが、人の事は言えない。
自分もこっそりと見ているとは口が裂けても言えないのだから。
身体の汚れが綺麗になったところで三人はハルを連れて服飾店に入る。
服選びは二人に任せて翔は壁に背を預けて待つことにする。
自分に女性の服を選ぶセンスなどないことぐらい承知済みだ。
待つこと五分。
「…………い、いかがでしょうか? 目が見えないのでハルにはわかりませんが」
白を基調としたワンピースに花の刺繍が施されている。素材もいい為に金の長髪も相まってよく映えている。
「よくお似合いですよ」
「うんうん、選んだかいがあったよ」
そのハルの姿に満足そうに頷く二人は視線を翔に向ける。
感想ぐらい言ってら? 二人の視線はそう言っている気がしてならない翔はぶっきらぼうに言う。
「似合ってんじゃねえの?」
「…………ありがとうございます」
ぶっきらぼうな言葉でも嬉しいのか頬を緩めて礼の言葉を口にするハルにラヴァンとサクロは捻くれたことを言う翔にやれやれと呆れる。
「ショウさ、もう少しまともなこと言えないの?」
「そうですよ。女性は男性に褒められたいものなのですから」
「うっせ。用が済んだら行くぞ」
代金を店員に渡してついでにこの街の宿がどこにあるか尋ねてから店を出て、店員が言っていた宿に訪れるのだが…………。
「申し訳ございません。今、二人部屋が二つしか空いていなくて…………」
「それじゃ私とこの人。あの二人は一緒の部屋で」
宿の店員の言葉に即断で翔と一緒の部屋になろうとするサクロの頭をどついて訂正する。
「俺とこいつ。それとこの馬鹿と後ろにいる奴が一緒だ」
翔はハルとラヴァンはサクロと一緒の部屋を取る。
「ラヴァン。こいつ部屋についたら縛っとけ」
「わかりました…………」
苦笑いしながら了承するラヴァン。
翔はハルを連れて宿の部屋に入り、荷物を置いてベッドに腰を落ち着かせるもハルはたったまま動かない。
「…………お前も休んどけ。少し休憩したらまた街にでるぞ」
「わかりました」
よろよろと動きながらどこか座れる場所を手触りで探すハルに目が見えないことを思い出した翔は息を漏らしながらハルを持ち上げて反対側のベッドの上に座らせる。
「お手数おかけして申し訳ありません、ご主人様」
「別にいい。そんなことより聞きたいことがある」
「はい。ハルに男性経験はございませんが、精一杯ご奉仕させて」
「んなこと聞いてねえし、する必要もねえ。つーかガキがそんなこと口走るな」
何か勘違いされていると思い訂正する。
翔はロリコンでもなければ女に餓えているわけでもない。そう言う風に見られるのは御免だ。
「この街を出たらその首輪を外す。次の街に寄るついでにお前の親か親戚に預けるつもりだが」
「ハルに身内はおりません。帰る当ても場所もハルにはありません」
ハルははっきりと自分は天涯孤独だということを告げる。
「ですのでどうかハルをお見捨てにならないでください。何でもいたしますので」
その言葉に翔は乱暴に自分の髪を掻きむしる。
どうやら翔が買った奴隷は相当な訳アリのようだ。




