奴隷を買う
煌とローレルの行方と新しい力を探しに旅を続ける三人は新たな街に到着した。
――――のだが…………。
「はぁ? 奴隷がいねえと入れねえだ?」
新しい街の検問に引っかかって街の中に入れずにいた。
「元々は物流が栄んな街だったんだが、何代か前のこの街の領主がある制度を作ってな。この街に住む者、訪れる者は必ず一体の奴隷を所持する。って制度ができたんだよ」
憲兵の言葉に舌打ちする。
「チッ、くだらねぇ制度作りやがって…………」
「そういえば途中で奴隷商人の馬車が何台か目撃しました。あれはこの街で奴隷を売るのが目的だったのですね」
「ん~今から買うとしても絶対足元見られるよね…………」
その制度があるとは知らずに訪れてしまった三人はどうするか考える。
「おい、奴隷の相場ってどれぐらいだ?」
「詳しくは存じませんが、大体10~50万ユール。年齢、性別、状態、種族などによって変化はありますがそれぐらいかと…………」
「この街を素通りして別の街に向かうのは?」
「それだと食料が途中で尽きちまう。節約して使ったとしても限度があるぞ」
「そうですね。この街で最低でも食糧は確保しておきたいですし」
「なら気が進まないけどこの街に向かう途中の奴隷商人を捕まえて奴隷を買って用事が終わったらその奴隷を解放するって方法はどうかな?」
「……………………現状それしかねえか。幸いにも金はまだある」
サクロの溜めていた財産と不死の王の討伐報酬でそれなりに金は残っている。
相場の代金なら容易に奴隷が買える。
こんなところで無駄金は使いたくはないが、食糧問題は一大事だ。それだけは避けたい。
取りあえずこの街に向かっている奴隷商人の馬車を見つけて奴隷を買ってこの街に入ると考えを纏めている三人に――――
「シシシシ。奴隷のことでお困りですかな?」
「あぁ?」
如何にも胡散臭い笑みを浮かばせた中年の男性が三人に声をかけてきた。
「失礼。私は奴隷商を営んでおります。チャントというものです。勝手ながらお三方のお話を伺いましたところ奴隷がいないせいで街に入れないようで?」
「……………………ハッ、なるほどな。俺達のような何も知らないでこの街に来た奴をカモにしている奴隷商人か? 商人って奴は本当に抜け目がねえな」
「シシシシ。これはこれはなんとも頭の回転が速い。最も私めも商売ですので」
「別に文句はねえよ。こっちは街に入る為に奴隷が欲しい。お前は奴隷を売りたい。互いの利害の一致だ。さっさとお前の商品の奴隷がいるとことに案内しろ」
「シシシシ。話が早くて助かります。では、こちらへ。私の馬車が置いてありますので」
チャントという奴隷商人に促されてついていく三人。
「本来なら街の中で商売をしておりますが、貴方様のような方々に奴隷を提供する為にいくつか品物を連れては荷台に置いているのです」
「……………………そうかよ」
胸くそ悪い会話をするチャントと自分に苛立つ。
本当にこの世界は奴隷を人ではなく物で見ている。日本ではありえないことだ。
少し歩くとそこに大きめの荷台、奴隷が収容されている馬車があった。
「では、少々お待ちくださいませ」
チャントは鍵を取り出して檻の施錠を開ける。
その中には人間族の子供と亜人族の子供ばかり収容されて誰もが首輪と手錠がされている。
「……………………ガキばかりかよ」
「ええ、大人を入れると荷台に入る数も減りますので商品の紹介も含めて子供のみとさせております」
翔の言葉に説明を促すチャント。翔に続いて二人も中を覗くと険しい表情を作る。
二人も奴隷は好ましく思っていない。でも、人間社会では奴隷は許されている。
だから口を出さずに口を閉ざしている。
「この少年はどうでしょう? 人間の子供ですが健康そのもの。体格もいいですし、肉体労働には適しております」
そんな三人の心情に気付きもしないチャントは奴隷の紹介に移る。
紹介された少年、いや、少年だけでなくこの荷台にいる奴隷の子供達は皆、顔を俯かせて瞳を曇らしている。
もう未来など諦めた絶望の色だ。
無理もない。奴隷となった時点で法律的にも人以下の存在にされたんだ。
何をされようとも文句一つ言えないのが奴隷という存在だ。
活き活きと奴隷の説明をしてくるチャントを力の限りぶん殴りたい衝動に駆られるが、そんなことをしても何の意味もない。ここは一つさっさと適当な奴隷を買って食料を買い終え次第すぐにこの街を出ようと翔は考えを纏めて荷台を見渡すと―――
「おい、あいつは?」
翔の視界に止まったのは亜人族の少女。狐の獣人だ。
どの子供も顔を俯かせて曇りある瞳をしているのにその少女だけは瞼を閉じている。
「ほう、お目が高い。あれは東の島国に住む獣人で狐人族と申しまして、獣人の中でも珍しく魔力に似た力を持つと言われてはおりますが…………残念ながらあれは生まれつき目が見えないらしく日常生活ですら支障をきたす為、旅をするお客様にはお勧めできない商品ですね、はい」
その話を聞いて翔は言葉に含みを入れたチャントに眉根を寄せた。
言い方を変えればそういう愛好家には打ってつけの商品ということだ。
目が見えない為に逃げることも困難だから安心して手元に置けるという意味も含まれているだろう。
「いくらだ?」
「え、しかし…………」
「金さえ払えば文句はねえだろうが? それとも売れない理由でもあんのか?」
「い、いえ…………では70万ユールになります」
「ほらよ、72万だ。奴隷を買うのは初めてだから注意事項の代金込みだ」
「それはそれは、では僭越ながらお教えいたします」
奴隷に関わる情報をチャントから聞いた。
奴隷の首輪には主人の命令に背くと締まる術式が込められている。
首輪を外すには専用の鍵、もしくはその術式に直接手を加える。
基本は前者だが、魔術師である翔の場合は後者も可能だ。
主人が死んだ場合、奴隷も殉死する。
奴隷の所有権は主人にあり、主人が奴隷を解放した場合奴隷は自由となるが、その場合だと奴隷よりも酷い扱いを受けることがある。
奴隷の衣食住は主人が管理する。
奴隷の所有物は全て主人の物となる。
チャントから聞いた概ねの内容はそんなところだった。
「失礼ですが、血を少々いただけますかな? 主人と奴隷との契約を結ばせますので」
手渡されたナイフに皮膚を薄く切ってナイフに血をつけるとチャントはそのナイフを持って狐人族の少女が嵌められている首輪に垂らす。
それで契約は完了したのか、チャントは狐人族の少女の首輪に繋がっている鎖を持って引っ張るように連れてくる。
「これでこちらの商品はお客様の物となります」
「……………………ああ」
手渡される鎖に一瞬手を伸ばすのを躊躇うも掴む。だが、その鎖はすぐにでも手放したいと思えるぐらいに気持ち悪い。
すると、狐人族の少女はペコリと頭を下げる。
「ハルと申します。どうか末永く可愛がってくださいまし」
「……………………」
挨拶する狐人族の少女――ハルに翔は何か言葉を返す余裕はなかった。
地球でも昔は奴隷がいた。それは現代人である翔も知識として知っている。
だけど、実際に奴隷を目の当たりにして奴隷を買うこの行為に翔は吐き気がした。




