異世界の刀
次の街に向けて動く馬車の荷台で翔は横になっていた。
ここ数日は盗賊にも襲われることもなく平穏に旅を続けられている翔は操車をラヴァンに任せて横になり、魔昌眼の制御訓練に集中している。
眼帯をしていなければ勝手に知恵と知識を翔の頭に流し込む魔昌眼の取り扱いには注意が必要だ。
実戦、それもエクエスのような強敵とまた対峙する時の為にこの魔昌眼を完全に制御しておかないといけない。
「どう? 上手くいきそう?」
「……………………まだだな」
翔と同じく操車できないサクロは本を読みながら暇を潰しては時折翔に声かけてくる。
こういう時は弁えているのか、スキンシップしてこないのはありがたい。
無論、スキンシップをしてきたら問答無用に縛り付けて動けなくするまでだが。
「こいつはとんだじゃじゃ馬だ。碌に俺の言うことを聞かねぇ」
魔昌眼に触れて愚痴を溢す。
訓練を始めた時に比べれば良くはなったが、完全に制御するまではまだまだ時間がかかる。
「ショウ様。また無理しているのではありませんか?」
手綱を握っているラヴァンから厳しい口調がとんできた。
「してねえよ」
「そういうことを言うショウ様の言葉は信用できません。少しは休んでください」
どうやら翔の無理はしていないは信用されていないようだ。
だが、それは正解だ。
時間にしてもう数時間はぶっ続けで制御訓練をしている。ラヴァンの言葉は正しい。
「チッ、わーたよ」
眼帯をして休むことにする翔。これ以上何か小言を言われると鬱陶しいからと自分でそう納得させて。
「ふふ。ショウ、膝枕してあげようか?」
「いらねぇ」
「そう遠慮しなくていいよ? ほらほらいい膝枕がここにあるよ?」
自分の膝上を叩いてアピールするサクロを無視して横向きに寝転がる。
こちらを見向きもしない翔にサクロは頬を膨らませて、閃いた。
そっと翔の背中に寄り添うように横になる。
「離れやがれ!!」
「痛ッ!?」
だが、そんなサクロに翔は怒鳴り声を上げて強引に突き放す。
「うぅ…………最近ショウが私に対する扱いが酷いよ…………」
「自業自得だろうが」
「そりゃ、ショウも想い人の方が喜ぶのはわかるけどさ」
「誰があんな天然女のことを!?」
「誰もそこまで言ってないよ? そう言うってことはそういう自覚はあるってことだよね?」
「~~~~~~~~~~~ッ!? ああクソが! 俺は寝る!」
「お休み~」
墓穴を掘ってしまった翔は顔を真っ赤にしてふて寝に入る。
そんな初々しい反応にサクロはほっこりする。
だけど同時に思う。翔がどれだけそのローレルという女性を愛しているのかを。
少なくとも自分の全てを賭けてまで助けようとしているほど惚れているのはサクロでもわかる。
まだ名前しか知らないローレル。
翔本人の口からは愚痴や文句しか聞かないが、話すときのその表情は言葉とは裏腹にとても穏やかだった。
そして愚痴が終えた頃には最後、本当に一瞬だけ悲しい顔を見せる。
思えば翔は人間の悪意について妙に詳しい。
不死の王の時もそうだったようにもしかしたら翔の過去にとんでもないことがあったのかもしれない。
戦う時も翔は自分の命の価値を低く見ている気がする。
きっと今訊いても答えてはくれないだろう。もっと信頼を深めてから訊いてみようとサクロは決めた。
晴天の日の下でのんびりと移動する三人。
すると、後方からすごい勢いで街道を走ってくる馬車がこちらに向かって来ていた。
「なんだ…………?」
騒がしい音に目を覚ました翔は後方を見ると勢いよくこちらに向かってくる馬車とその後方にそれを追いかけていると思われる馬になった集団。
「追われているのは商人みたいだね」
荷台の大きさから見て商人だと悟るサクロに翔は面倒なことに舌打ちする。
「チッ、めんどくせぇ…………」
真っ直ぐなこの街道なら間違いなく面倒事に巻き込まれる。
「逃げてください!!」
こちらに向かってくる年若い商人が翔達に向けてそう叫んだ。
自分が追われている立場だというのにこちらに逃げるように声を飛ばすとは思いも寄らなかった翔は溜息を漏らしながら頭を掻く。
「頭! もう一つ馬車がありますぜ!」
「運がいいぜ! その馬車からも金目になるものを全て奪え!」
「テンプレ台詞だな、ゴミ共」
盗賊達に上空に魔法陣を展開させて重力で地面に叩きつける。
「……………………え?」
突然の出来事に商人は目を丸くし、馬車を止める。
「もう大丈夫だよ」
驚いている商人にサクロは安心させるように声をかけ、翔は重力魔術で地面にへばりついている盗賊達に歩み寄る。
「地面の染みになるか、消えるか好きな方を選べ」
「き、きき消える! すぐに消えるます!」
更に重力を増して告げる翔に盗賊達は呆気なく後者を選んだ。
重力を消して自由の身となった盗賊達は立ち上がると笑みを見せて武器を手にする。
「馬鹿が! そんなもん守るわけねえだろう!!」
「だろうな」
襲いかかってくるもそれを翔は読んでいたかのように盗賊達の重力を軽くして宙に浮かばせる。
「へ?」
「空の旅でも楽しんでこい。まぁ、命の保証はねえが」
ピン、と指で弾くように盗賊達は空の彼方へ飛んで行った。
ああいう輩はゴキブリのように生命力も強いから死んではいないだろう。死んだとしてもそれは因果応報。
自分のこれまでの行いが悪かっただけの話だ。
「おい、行くぞ」
「え~、今お礼といてお金を集金しているのに…………」
「お前何もしてねえだろうが」
商人から謝礼金を貰おうとしていたサクロに呆れながら首根っこ掴んで馬車に戻ろうとする。
「あ、あの! 助けてくださりありがとうございます!」
お礼を言う商人に翔は鋭い眼差しを向ける。
「勘違いすんじゃねえ。あのままじゃ俺達にも被害が出るからやっただけだ。助けた覚えはねえ」
「ごめんね、この人捻くれているから素直にお礼が受け取れないんだよ」
「お前は余計な事喋るんじゃねえよ!」
余計な事を言うサクロに怒鳴りながら自分達の馬車に戻るも商人は自分の荷台からある物を持ってくる。
「あの、せめてこれを受け取ってください!」
「お金!?」
「金に反応し過ぎだ…………」
真っ先に食いついてきた守銭奴聖職者に呆れながら翔はそれを見て目を丸くした。
「へぇ、異世界にも刀があんだな…………」
漆塗りの鞘に収まった刀。異世界でも刀があることに驚いていた。
「僕が持っている商品で一番高価な物です。お礼に受け取ってください」
「ありがとう。大切に売るね」
即座に受け取ってそんなことを口走るサクロの頭を叩きながらサクロの手から奪取する。
「助けたつもりはねえって言っただろうが。これはお前が持ってろ」
「いえ、そちらがそのつもりではなくても僕が助かったのは本当ですから。受け取ってください」
返そうとするもあくまでそう言い返す商人に翔は溜息を吐く。
「……………………そうかよ。なら貰っとくぞ」
「はい。本当にありがとうございました」
礼を言って離れていく商人。翔は貰った刀を早速鞘から取り出す。
「綺麗なもんだな…………業物か?」
太陽の光に反射して輝く刀身にご満悦する翔はこの刀に術式を書き加えて魔道具にするにもいいかもしれないと一考して刀身を鞘に収める。
「俺達も行くぞ」
「はーい」
そんなこんなもあって翔達は再び次の街を目指して旅をしている。




