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ひねくれ者の最弱魔術の使い方  作者: 幻影十夢
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所詮は最弱

魔窟(ダンジョン)探索で翔達三人は隠された道を発見し、そこで見つけたのは暗黒の泉。

そこに住む怪物(モンスター)カリマールを新たな力、錬金魔術を駆使して打倒。

泉と周辺の調査を行おうとした矢先にそいつは突然現れた。

漆黒の全身鎧(フルプレート)を全身に纏う黒騎士。その姿は翔は忘れようにも忘れられない。

「どうしてお前がここにいやがる…………?」

峻烈な眼差しで問いかける翔の頬に冷汗が流れる。

かつては死に体だった翔の命を気紛れで見逃した張本人。

あの時は無我夢中で実力の差があり過ぎていたせいもあるのか気付かなかったが、黒騎士から感じる圧倒的な威圧感。ただそこにいるだけなのに本能が訴えている。

――――逃げろ、と。

こいつには敵わない。勝てない。殺される。

本能が生存を求めて脳に直接そう語りかけている。

翔はまだいい。だが、二人は黒騎士の威圧感に当てられて顔を青ざめて膝を震わせている。

恐怖で身体が支配されている二人を庇うように翔は前に立つ。

「答えろ…………ッ!」

いつでも魔術を起動できるように身構える。だが、黒騎士は変わらぬ態度でその問いに答えた。

「私がこの場所に訪れたのは魔王様の指示だ。この魔窟(ダンジョン)にある力を回収するようにとな。それがまさか貴様と遭遇することになるとは」

黒騎士もここで翔達と会うのは考えてもいなかったのか意外そうにそう言った。

しかし、その話を聞いて翔はこの魔窟(ダンジョン)に古代魔法(エンシャント)もしくはなんらかの力があるのは黒騎士の話でわかった。

「貴様等のおかげで容易にここまで来ることが出来た。貴様等が通ったあの穴がなければきっとここまで容易くこの場所に訪れることはなかっただろう。その礼に貴様等の命を見逃してやる。あくまで私が魔王様から授かった指示は力の回収だ。貴様等を殺す指示は受けていない」

どうやら黒騎士は翔が分解して作った穴から降りてきたようだ。

そしてこの場所に訪れたのも魔王の命令を受けて翔達と出会ったのもただの偶然。

殺しの命令を受けていない黒騎士にとって翔達は障害にもなり得ない。だから、見逃そうとする。

「……………………魔族にしては随分と紳士的だな? いや、騎士道ってやつか?」

無駄な殺生をしないのか、問答無用に殺しにかからない黒騎士。

「魔族にも矜持と法はある。私の方から言わせて貰えば人間の方が狡猾で凶悪だ。貴様もそう思うだろう? 偽りの勇者よ」

「ハッ、そうだな」

あの時の事が嘘だと看破されているも翔はいつも通りに態度で鼻で笑った。

「あの時、貴様を見逃したのも単なる気紛れという理由以外に貴様が勇者ではなかったからだ。あの日、魔王様は予見した。魔族にとって勇者は脅威であると。その脅威を排除する為に私が出向いた」

黒騎士は初めから翔が勇者ではないことに気付いていた。

その上で見逃された。

勇者を殺す様に命令を受け、そうでないものの命は黒騎士にはどうでもよかった。

「だが、あの日どこを探しても勇者の気配すらなかった。どこか別の場所に逃げた以上留まる理由もない」

逃がしてよかったと翔は本気でそう思った。

魔族の狙いは煌。その煌が殺されないで済んだ。

「私達七魔将は魔王様に牙を剥く存在である勇者を発見次第すぐに抹殺する指令も与えられている」

勇者である煌を殺す。

それだけは聞き流すことは出来ない。

「お前等、逃げろ…………」

後ろにいる二人に逃げるように促す。

「俺はこいつをここで倒す。煌を殺させるわけにはいかねぇ」

勝てないとわかりながらも無謀だと理解しながらも翔は戦う。幼馴染である煌の命を狙っている黒騎士をここで倒して、煌に振りかかる脅威を排除する。

「…………………私も、戦います」

「私もショウを置いて逃げられないよ…………」

顔を青ざめながらも残ることを宣言する。

「あの魔族は私がいた国を滅ぼしました…………仇を討たなければ」

「仲間を置いて一人だけ助かるのは嫌だからね…………」

二人は確固たる意思と覚悟を固めていた。黒騎士の恐怖で逃げ出したいはずなのに戦うことを選択した。

「死ぬぞ? それでも戦うのかよ?」

「その台詞はそのままお返しします」

「一人より三人の方が生存できる可能性もあるよ?」

意地でも逃げるつもりはないらしい。なら、それ以上は何も言わない。

「行くぞ。初めから全力だ」

決して油断できる相手ではないことは承知。初めから全力を出さなければ負ける。

二人は首を縦に振って得物を構える。

「《術式展開・炎》!」

魔法陣を展開させて火炎を放出する。だが、それだけでは止まらずに黒騎士の周囲に魔法陣を複数出現させてそこからさまざまな属性の魔術をぶつける。

「【帯びよ、炎。荒ぶる轟炎は一切合切の全てを焼き尽くし、焦土と化す】!」

「【神よ、神聖の力を我が元に。浄化の炎は魔を祓う】!」

翔に続いて二人も詠唱を唱えて魔法を発動させる。

「【ヴォルケーノ】!」

「【メタトロン】!」

轟炎と浄化の力を持つ聖なる炎が同時に放たれて黒騎士を襲うもそれだけでは終わらない。

「《術式最大展開》!」

更に黒騎士の上空に巨大な魔法陣を出現させる。

「《雷光》!」

稲光が閃く、極大の雷光が黒騎士を呑み込む。

凄まじい雷撃と共に舞い上がる砂煙に翔は駄目押しのように炎の魔術を起動させて放つと砂煙に引火して爆発する。

細かい粒子に火気を近づけることで発生する、粉塵爆発。

怒涛の連続攻撃。少しも力を緩めたりしない全力の攻撃を繰り出した三人。

並大抵の相手、いや、自分達よりも強い相手でも倒してもおかしくない攻撃のはずなのに黒騎士は無傷だった。

「ハッ、マジかよ…………」

翔は悪態を吐きながら眼前の光景に頬を引きつかせる。

「気は済んだか?」

まるで猫にじゃれつかれていたかのように平然とする黒騎士は今度は自分の番かのように腰に携えている漆黒の剣を鞘から抜き放つ。

そして、黒騎士の姿はかき消えた。

反応を許さない速度の肉薄。瞬く間に剣の間合いに入った黒騎士は漆黒の剣を振り上げる。

「―――――――っ! 《術式展開・結界》!」

反射的に翔は結界を展開させて防御を取る。これまで多くの攻撃からその身を守ってきた結界。

だが、振り下ろされた黒騎士の一閃はその結界を紙のように容易く斬り裂き、翔の身に深すぎる刃創が刻まれた。

自身の視界に夥しい紅血が散る光景と剣を振り下ろした黒騎士の姿。

音が途絶え、時の流れが緩慢になる中、翔の身体はぐらりと後方へ傾いた。

「ショウ!?」

「ショウ様!?」

翔の斜陽を瞳に映す二人は両目を吊り上げて左右から黒騎士を襲う。

左右から放たれる杖とメイス。だが、黒騎士が剣を振るうと杖もメイスも容易く両断。自身の得物が斬られて啞然とする二人に拳が振るわれ、壁に叩きつけられた。

「ぁ…………!」

「ぅ、っ…………!」

地面に倒れ込む二人を一瞥することもなく、黒騎士は翔の首を掴んで持ち上げると黒騎士の顔に拳撃が炸裂した。

「……………………大した気概だ」

致命傷を負われながらも攻撃をしてきた翔の瞳はまだ死んでいない。その瞳はどこまでも喰らいついてやるという気迫が伝わってくる。

碌に動けないはずなのに鎧の上から拳や蹴りを放つ翔に黒騎士は無感情の声音で告げる。

「魔術師にしてはたいしたものだ。だが、所詮は最弱のクラス。貴様如きの魔術は私には効かん」

攻撃も防御も最弱で有名なクラス、魔術師であるながらとんでもない威力を発揮させた翔に感心するも黒騎士にとってはそれだけの話だった。

「貴様は勇者ではない。脅威にも値しない。大人しく己の死を受け入れろ」

黒騎士はそう言い残して翔を漆黒の泉に放り投げる。

翔の身は水飛沫と共に漆黒の泉に沈んでいく。


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