暗黒の泉
魔窟の大広間の下に新たな道を発見した翔は二人を抱えて縦穴に跳び下りた。
魔道具である空歩を使って空気を足場に下に縦穴を降りて行き、地面に着地する。
「ここか」
最下層と思われる場所までなんとか辿り着いた三人の視線の先には新たな通路がそこにあった。
ここにも輝きを放つ光灯石がある為に道が照らされている。
二人を手放して自由の身にすると二人はその場でへたり込む。
「い、生きてる…………?」
「うぅ…………ひっぐ……………………」
縦穴からの落下に近い移動方法に啞然としながらもぼやくサクロはまだいいが、ラヴァンに至っては嗚咽を漏らしていた。
「……………………おい、泣くな。魔族に殺されかけた時に比べりゃマシだろうが?」
流石に女を泣かせてしまって申し訳ないと思い、そう言うもラヴァンは首を小さく横に振った。
「ひぐ、ち、違………います……………………お願いですから、ぐす……………………こちらを見ないで……………………」
涙声で否定してそう懇願してくるラヴァンに怪訝すると、鼻にツンとした嗅ぎ慣れた刺激臭の匂いがした。
それもラヴァンの方から。
「ショウ、少しの間向こう向いててあげて……………………」
「……………………悪い」
翔と同じく察したサクロは同じ女としてラヴァンに同情して慰めに入り、翔はバツ悪そうに二人から視線を外した。
流石の翔もこればかりは心から反省した。
少しして顔を赤くしたラヴァンと翔を責めるように見てくるサクロに居心地が悪くなり、謝った。
「……………………悪かった」
普段なら頭を下げない翔も今回ばかりは頭を下げて謝罪した。
「いえ………………もう、大丈夫ですから……………………」
思い出したくもない黒歴史を作ってしまったラヴァンは一刻も早くこのことを忘れたい思いで一心だ。
許すからもうこれ以上思い出させないでが、本音だ。
空気が重く感じるなか、サクロが間を割って明るく声をかける。
「ま、まぁ、ショウのおかげで新しい道も発見できたし、油断しないで行こう!」
「おう…………」
「はい…………」
取り合えずは今回の事は一旦忘却の彼方に放り投げて魔窟探索に気持ちを切り換える。
今度は分かれ道もない一本道。
どこかを選ぶ必要もない三人は罠に警戒しながら先に進む。
この道は間違いなく正しい道と確信がある三人はただひたすらに足を前に動かす。
「あそこか」
しばらく歩くと道が途絶えて広い場所に出る。
そこには数多の金銀財宝が―――――あるわけもなく、真っ黒な泉があった。
黒に黒を混ぜたかのような暗黒の泉を見て三人は首を傾げる。
「ここが最深部なのでしょうか…………?」
「あるのは真っ黒な泉だけ?」
周囲を見渡しても道らしい道もなく、ただ暗黒な泉がそこにあるだけの広い空間に来てしまった。
「もしかして、この真っ黒な泉の中に道があるのかな?」
「それはちょっと…………」
綺麗な泉ならまだいいかもしれないが、こんな真っ黒な泉の中に入るには流石に抵抗を覚える。
それにこんな泉の中に別の道があったとしてもこんな右も左もわからなくなる泉に潜っても見つかるかどうかもわからない。
「とりあえず調べるぞ。このまま手ぶらじゃ帰れねえ」
何かあるかもしれないと思い、三人は泉に近づくと静止していた泉に波紋が生じる。
瞬間、激しい水飛沫と共にそれは姿を現した。
巨大なイカ。神話の生物で表すならクラーケンだ。
「クラー」
「これは絶滅したとされている伝説の生物カリマール! こんなところに棲息していたなんて!」
驚きと共にクラーケンと思っていた生物の正体を見破るラヴァン。どうやらクラーケンではないようだ。
しかし、驚くにも束の間。
クラーケンもとい正式名称カリマールはその巨大な触手で攻撃してきた。
「《術式展開・結界》!」
瞬時に結界を張って防御を取るとラヴァンとサクロが詠唱を口にする。
「【天より注げ、唸り轟く一条の雷光】」
「【神よ、神聖の力を我が元に。浄化の炎は魔を祓う】」
二人は詠唱を唱えて魔法を発動する。
「【フードゥル】!」
「【メタトロン】!」
カリマールの頭上より降り注がれる強烈な雷と神聖の力を帯びた魔を焼き払う浄化の炎が一斉に放たれる。
「……………………効果はねえみてえだな」
二人の魔法を直撃したというのにカリマールは健在。大した損傷も見当たらない。
「だが、こんなモンスターがいるってことはこの道は間違いはねえってことだ」
口角を上げながらこれまでの道が正しかったことに確信を持てた。
あとの問題はこの巨大なイカをどう倒すかだ。
「やっぱ銛で一突きか…………」
「銛って持って来てないよ…………?」
「ショウ様がご乱心に…………」
「作るんだよ。まぁ、オタク女に見せられた有名アニメのパクリだが」
右手を地面につけて呪文を口にする。
「《術式展開・錬金魔術【構築】》」
呪文を唱えて地面の一部を巨大な銛に構築する。
左腕のガントレットには分解。そして右腕のガントレットには構築の魔法陣を描いている。
これによって触れた物質を別の形へ構築することができ、翔は地面の一部を巨大な銛へと構築した。
左右違う錬金魔術を描いたこの方法はとある錬金術師のアニメキャラを参考にしたとはあの天然オタク女には絶対に言えない。
翔はその巨大な銛をカリマールに向けて照準。銛の柄に勢いと威力をつける為に爆発魔術を付与。
この銛そのものを即席の魔道具として作製して魔力を送る。
「くたばれ」
結界を解いて柄の爆発と共に発射される銛は真っ直ぐにカリマールに突出し、カリマールの本体を貫く。
風穴は空いたカリマールは後ろ向きに倒れ、水飛沫を辺り一帯に撒き散らす。
そして、そのまま動かなくなった。
動かなくなったカリマールを見てバトルアニメも異世界ではいい参考になると内心で呟き、二人にこの周辺を調べようと声をかけようとする。
「「「―――――――――――――っ!?」」」
瞬時、三人はとてつもない威圧感をその身に感じ取った。
自分達が来た道のりに振り返って臨戦態勢を取る三人の前にそれは姿を現した。
「お前は…………っ!?」
姿を現したその存在に翔は目を見開く。
「貴様か…………」
姿を現したのは漆黒の鎧に身を包んだ騎士の姿をした魔族。
かつてはネイション王国を滅ぼし、翔の命を見逃した黒騎士が三人の前に姿を現した。




