人間の想像力は
翔達三人はあるかもしれない古代魔法を求めて魔窟に足を踏み入れたが――
「クソがッ! ここもハズレか!?」
「急いで戻りましょう!!」
「流石にペシャンコは嫌だよ!」
魔窟探索は難航していた。
全速力で来た道を駆け出す三人の後ろには巨大な大岩が転がってきている。
テンプレ的な罠は異世界でも共通認識かもしれない。翔は走りながらそんなことを思った。
元来た通路から大広間を出ると三人は左右に動いて後ろから迫ってくる大岩を避け、大岩はそのまま真っ直ぐに進み、別の通路に入って行った。
この魔窟に足を踏み入れてからまだ一歩も前に進めていない。
しらみつぶしに先に進む道を探してはいるが、今のところはどの道もハズレばかり。
その道に進めば罠やモンスターが待ち構えている。
「はぁ…………はぁ…………こ、ここも駄目だったね…………」
「そ、そうですね…………」
「チッ!」
息を荒げて呼吸を整える三人。常に罠に警戒してモンスターとも戦っている為に心身ともに疲労が見え始めて来ている。
もう何十回も来たり戻ったりしている三人は一旦休憩を取ることにした。
「…………………一回休むぞ」
「はい…………」
「賛成…………」
三人はその場に腰を下ろして休息を取る。取りあえずこの広間には罠もなければモンスターも出てこないことは判明している。
休息を取った後にもう一度別の道を探る。
「あの、ショウ様。水は?」
「いらねぇ。お前等が飲んでろ」
飲み水を渡そうとするラヴァンに素っ気なくそう返す彼の顔は険しく、明らかに苛立っているのがわかる。
それを見てサクロが口を挟む。
「ショウ。先に進めなくて苛立つのもわかるけど水ぐらいは飲んでおいた方がいいよ? いつまでも水や食べ物が口にできるかわからないんだし、今食べないと損だよ?」
「……………………わかったよ。寄越せ」
「は、はい。どうぞ」
サクロの言葉に一理あると思い、水を口にする。
その後無言で思考を働かせることに集中した。
ここまでの道のり、罠やモンスターの共通性、魔窟の構造、階段の幅、通路の長さ。ここまで集めた細かな情報を纏め上げて頭の中で解析していく。
なにかしらの共通点や僅かなキッカケさえ見つけることが出来れば先に進める可能性が出てくる。
まだ残りの通路や階段はざっと見ただけでも二十は超えている。
その一つ一つをしらみつぶしに探さなければならないことも視野に入れて思考を働かせる。
「それにしてもここが唯一の救いだよね。罠もモンスターも出てこないし」
「そうですね。そうでなければこんなにもゆっくり休憩を取ることもできません」
二人の他愛もない会話に翔は聞き流そうとしたが、そこであることに気がついた。
「……………………おい、地図を寄越せ」
「え? ど、どうぞ…………」
ここまでの道を羊皮紙に纏めてくれた地図とこの大広間を見渡して翔はもしかしたらとその可能性に疑念を抱いた。
翔は立ち上がってモンスターが出てきた通路の方に歩き出す。
「少し確かめてくる。お前等はここにいろ」
二人にそう言ってその通路の先を駆け出していく。
通路の先に消えた彼に、二人は首を傾げながら彼が戻ってくるのを待っていると、軽い地響きと、モンスターの鳴き声が聞こえてきた。
徐々に近づいてくる振動と鳴き声に二人は狼狽えていると、通路の先からモンスターの大群を引き連れて翔が戻ってきた。
「何しているの!?」
二人はモンスターの姿にすぐに戦闘態勢。通路から出てきた翔に続いて出てくるモンスターを倒そうと気を引き締めるも――――
「あれ?」
「……………………どういうことですか?」
モンスターは通路から大広間に出てくることなく、通路の中でこちらを睨み唸り声をあげている。
その奇妙なモンスターの行動に怪訝する二人に翔は口を開く。
「お前等の話を聞いておかしいって思ったんだよ。どうしてモンスターがこの大広間にいねえって。別に通路は塞がれてねえ。獲物を求めて移動しようと思えば移動できたはずだ」
これまでの通路では待ち受けているかのようにモンスターの姿があった。壁や屋根から出てくることなく通路を進めばそこにいたかのように存在していた。
なら、いつまでも餌がない場所をうろうろしなくても餌である翔達がいる大広間に来ればいい。
それをしないということには何かあると翔は考えた。
「モンスターはこの場所に来れない?」
「ああ、縄張りつーよりも一種の結界が通路に張られてんだろう。俺もよくはわからんが」
見た感じ石造りの構造をしているが、それらしい術式も魔力も感じさせない。古代人が使っていた何か別の力が今も働いているのかもしれないのが翔の推測だ。
「恐らくだが、ここにあるどの道も偽物、フェイクだ。どの道も罠やモンスターだらけだろうな」
「それでしたらいったいどのように進めば…………」
「そう思うだろう? だが、古代人もこれじゃ進めねえはずだ。だから自分達も進められるように何かこの大広間に細工を施したはずだ」
そうでなければ古代人も通ることが出来ない。
この大広間こそがこの魔窟の先に進む為の扉だった。
しかし、この大広間にはその先に進むに必要な鍵は見当たらない。
翔はもう一度ラヴァンが描いた地図を見て口角を上げる。
この大広間は綺麗な正四角形。なら、もしかしたらと翔は思う。
これをこの世界の人間が思いついて作り上げたとするのならその発想力には驚かされる。
「お前等、エレベーターって知ってるか?」
当然異世界人である彼女達は知らない。それを知っているのは科学が発展した地球人のみだ。
翔は左手を地面に置いて呪文を口にする。
「《術式展開・錬金魔術【分解】》」
左腕のガントレットの裏側にはリーヴル・ノーウェが記した錬金魔術の基本である分解の魔法陣を描いている。これによって左腕で触れた物質を分解することができる。
そして分解された地面の一部を見て翔は確信した。
「やっぱりな。この下に先に進む道があった」
分解された穴を二人は覗いてみてみるとそこには深い、それこそ底が見えない程に深い縦穴が開いていた。
「まさかこの大広間がエレベーターと同じようになっていたとはな」
人間の想像力は時代どころか世界を超えていると言うしかない。
古代人はエレベーターと同じ要領でこの大広間ごと下に降りていた。周囲に不規則にある通路も階段も全ては侵入者を欺く偽物。
目的の場所がこの大広間の足元にあるとは誰も思わないだろう。
「驚いた…………でも」
「どうやって降りるんですか?」
二人は底が見えないこの先をどうやって降りるのかと翔に尋ねる。
「……………………仕方がねえ」
この大広間を下に動かす方法がわからない以上は手段は一つだけ。
作っておいてよかった、と思いながら翔は再び地面を分解させて穴を広げると二人を両脇に抱えて飛び降りる。
「舌を噛みたくなかったら喋るな!!」
「きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっ!!」
「いやぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっ!!」
ブーツに術式を書き込んで作っておいた魔道具、空歩によって空気を足場に疾走しながら縦穴へと降りて行く。
その間、両脇に抱えられている二人は悲鳴を上げ続けた。




