思わぬ収穫
新たな街で翔は予定通り一人で情報収集に励んでいた。
組んだ二人は上手くいっているかはさておき、取りあえずは自分の仕事を済ませる。
「本当に見てねえんだな?」
「あ、ああ…………本当だ。そんな奴等見てねえ…………」
路地裏で翔はゴロツキ達から情報を聞き出していた。
街で聞き込みをするよりもこういう金に目敏いゴロツキ達の方が効率よく情報を聞き出せることを翔は己の経験則で知っている。
「チッ、この街もハズレか」
舌打ちしてゴロツキの胸ぐらから手を離して路地裏を出る。
この街でも煌もローレルはいない。
煌は兎も角としてローレルは容姿端麗で目立つ。少なくとも金に目敏いゴロツキ達がローレルを見つけたら放っておくわけがない。
犯すなり奴隷に売るなり行動しているはずだ。
そのゴロツキ達が見ていないということは二人共この街に訪れたことはないということになる。
後はあの二人が集めた情報と照らし合わせるだけだ。
「次は古代魔法と魔窟…………それと俺は知識を蓄えねえと」
後二つ集めなければならない情報と魔術師である翔は知識も蓄えておかないといけない。
蓄えた知識の分だけ魔術師である翔は強くなる。今よりも少しでも強くなれるようにしておかなければならない。
この街にある書店に足を運び、やる気のない店員の声を無視して書架から本を取り、流し読みする。
早読みで内容の要点だけ把握していく翔は次々と必要な知識を頭に叩き込んでいく。
要点だけ覚えて帰れば買う必要はない。地球の本屋で買い物した時に煌とローレルの二人にそう言った事がある。
『普通の人はできませんよ? 翔が変です』
『うん、僕も普通に買うよ』
二人はそんなことを言っていたが、それがこの世界で現在進行形で役に立っている。
世の中わからないものだ。
早読みで要点だけ覚えていく翔は不意に一冊の本に目が留まる。
「錬金、魔術…………? 錬金術じゃねえのか?」
魔術関連の本は少ないなかで錬金魔術という初めて知った文字に興味を持った翔はその本を開いて読んでみたが、これは書物よりも研究成果、論文のような内容だった。
ぱっと見た内容に今度は流し読みせずに読んでいくとどうやら翔が知っている錬金術とこの世界の錬金魔術は同じらしい。ただ呼び方が『錬金術』ではなく『錬金魔術』のようだ。
そもそも錬金魔術は魔術の一種で魔法陣で世界法則へ介入、等価で影響を及ぼす。
『等価交換の法則』。無から有は作り出せず、一から二を作り出すこともできない。
何かを成すにはそれと同じぐらいの対価を支払わなければならない。
世界に及ぼす元素と物質を扱う。それが錬金魔術。
軽く読んで翔はその本の著書名を見る。
「リーヴル・ノーウェ…………」
恐らくではあるがこのリーヴル・ノーウェも翔と同じ魔術師だったのだろう。
その人は自分の研究成果を本として世間に広げたが意味はなく、ただ置かれているだけになっている。
本の具合から相当前に置かれているのは目に見えてわかり、もうこのリーヴル・ノーウェはこの世にはいないこともすぐに理解した。
同じ魔術師のクラスを持つ者としてできることなら一度は会ってみたかった。
錬金魔術が記された本を買って翔はそれを宿に持って帰り、読み耽る。
「凄ぇな…………」
読めば読むほどにこれを執筆したリーヴル・ノーウェは天才だとわかる。
魔術に関りを持たない人が読めば一蹴する内容だが、同じ魔術師でこの世界の住人ではない翔にとっては一文字も見落とすことが出来ない。
文面に目を通していくほどその内容に引き込まれていく。
この世界の法則と干渉、術式、構造、魔法陣。それがどのように影響を及ぼし、何を成すのか。
錬金魔術の基本である等価交換。物質の変換、変質、合成、構築、分解の要素。
そんな基本的なことからその応用までこの一冊に納められている。
最後のページまで読み終える頃には既に夕日が沈みかけていた。
「思わぬ収穫だな…………」
これほどの傑作を手に入れることが出来たのは大きい。おかげで魔術の造詣にまた一歩深まった気がする。
惜しいと思うならこのリーヴル・ノーウェが生きている時に会えたらということぐらいだ。
感慨深くもそう思っていると、扉をノックする音がした。
「ただいま戻りました。ショウ様、おられますか?」
「ああ、入れ」
同じく情報収集に励んでいた二人が部屋に入ってきた。
「ただいまー」
「ただいま戻りました」
部屋に入ってきた二人の恰好は所々返り血がついていたのを見て翔は少し顔を引きつかせた。
「……………………おい、なにがあった?」
「えっと…………暴漢に襲われまして……………………」
「これで殴っただけ」
言葉を濁らせながら説明をするラヴァンの隣で笑みを絶やさないサクロが己の得物を持って見せた。
「……………………そうか」
若干二人を襲った暴漢達に同情し、翔はそれ以上の追求はしないでおいた。
今思い返せば初めてサクロと出会ったあの時も助ける必要はなかったと思うが、忘れることにした。
それから三人で集めた情報を交換し合い、照らし合わせるもやはり煌とローレルの行方はわからず、古代魔法についてもたいした情報は得られなかった。
だが―――
「魔窟はこの街から東寄り、山を二つ越えた先にあることがわかりました」
目的である魔窟の在処がわかった。
「なら明日準備が出来次第にすぐに魔窟に行くぞ」
狙いを魔窟に定めて行動を決める。二人もそれに異を唱えることは無く首を縦に振った。
移動に時間が掛かる為に今日は早めに就寝して、朝早くから出発する。
そのつもりで翔も錬金魔術を簡易に試して終わらせて眠りについた、その夜。
「……………………おい、なんのつもりだ?」
翔の上を覆い被るような体勢で笑みを見せるサクロに睨み付けながら問いかける。
「夜這い。男の子的にはぐっとくるよね?」
そんなことを言ってのけるサクロの恰好は半透明のネグリジェ姿。扇情的な恰好で翔に身を寄せてくるも、その前に翔はサクロの顔を鷲掴みする。
「この淫乱聖職者。お前には貞操観念はねえのか?」
「好きな人以外にこんなことしないよ。その証拠に私まだ処女だしね」
結構力を入れている筈なのに怯みもしない聖職者は挑発的な笑みを作る。
「もしかして怖いの?」
「あぁ?」
「だって普段からあんなに強気なのに女を抱けるという時に抱かないなんて…………ショウって実はヘタレ? それとも怖いのかな?」
「なんだと…………?」
「うん、それならしょうがないよね。むしろショウの初心で可愛らしいところが知れて私は満足だよ」
明らかな挑発的な言動に翔の中で何かがキレた。
「上等だ…………! 泣こうが喚こうが容赦しねえぞ!?」
売り言葉に買い言葉。
もはや後先を考えない意地の張り合い。
退くに引けない意地っ張りな翔の性格が裏目にでてしまい、思わず言ってしまった。
「強がらなくてもいいよ?」
優しい眼差しと共に挑発するサクロに翔の顔は女の敵そのものだった。
体勢を強引に変えて今度は翔がサクロに覆い被る体勢となるもサクロの表情からは笑みは消えていない。
こんなにも簡単に挑発に乗る翔にむしろ可愛らしく思えてしまう。
「覚悟しやがれ!」
退くに引けない状態になってしまった翔の手はサクロに伸び、容赦なく蹂躙しようとする。
「何をしているのですか!?」
その時、勢いよく扉を開けて入ってきたラヴァンのおかげで何もなくその一夜は終わりを告げた。




