一生分の責任
サクロの処刑の日はすぐにやってきた。
教皇から直々に死罪を言い渡されて、定型文のような台詞を耳にしながら適当に相槌を打って返答し、最後に処刑方法は民衆の前で行われる”火刑”と告げられた。
サクロはすぐにそれが見せしめとわかった。
自分を民衆の前で惨たらしく処刑することで人類の裏切り者はこうなると民衆に教えているのだ。
それに反発することも悲観することもなくただ「はい」とだけ返答した。
既に覚悟を固めているサクロにとって死は恐れるものではない。
「出ろ」
警察の声にサクロは牢屋を出る。手錠に鎖をつけられて逃げられない様に処刑場まで連行される。
警察署を出ると、外に待っていたのはこの街の人達、民衆からの険しい眼差しと非難の声だった。
誰もが彼女を魔女と罵る。
これまで彼女と言葉を交えた人も、互いに笑いあった人も、一緒に食事を取った人も含めて全員が彼女を魔女と罵り、貶す。
これも処刑の一つなのだろう。
憎まれ役を作ることで他の大勢の人の怒りや憎しみを押し付けることで結束力を高める。
精神的苦痛までも強いらされる彼女は皮肉にもあの不死の王の気持ちが少しだけ理解できた気がする。
こんな風に陥れる毎日を送れば人類に報復する為に不死の王になるにも頷ける。
それでも彼女に恐怖はない。
その憎まれ役を受け入れて彼女は足を動かす。
それでもただ一つだけ不安はある。
この街を救った彼がここにいるかどうかだ。
彼は疑うことなくそれどころか助けようとしてくれたことに正直に言えば嬉しかった。
彼の助けを拒んだのも潔く死を受け入れているからではなく、この街の勇者となった彼を陥れたくなかった。
彼は否定するもこの街を救った事実は変わらない。そんな彼が自分なんかの為にその名声を捨てさせるわけにはいかない。
これでいい。彼女は自分自身の出した答えに満足しながら処刑場まで訪れた。
そこには十字の柱と足元には木材が敷き詰められている。
ここが自分の死に場所だと悟り、彼女はただ柱に縛られる。
柱に縛られる彼女の視界には多くの民衆と彼女の周囲にいる警察。それから少し離れたところに教皇がこちらを見ている。
罪状を述べられているなかで彼女は民衆を見渡して彼がいないことに安堵する。
もうこの街を出て行ってくれたのだろうと彼女は自分の最後を見られることがなくなると一欠けらの不安もこれで消えた。
「聖職者サクロよ。その身を我等の神、リュマダ様に捧げよ」
最後に教皇が最後の言葉を告げて、警察が彼女の足元に火を放つ。
燃え上がる炎。足元からくる熱気に彼女は静かに瞼を閉ざす。
思い出すのは朧げな自分の捨てた両親、そんな自分を拾ってくれた院長、共に同じ傷を持つ友達、これまでに出会った人達を思い出す彼女の頬に一滴の涙が零れる。
処刑の炎が彼女に燃え移ろうとする瞬間、彼女の上空に魔法陣が出現して大量の水が降り注いだ。
頭から大量の水を浴び、炎は完全に消沈する。
彼女も、そしてこの場にいる多くの民衆たちも突然のことに目を丸くする。
「命乞いの一つでもすると思ってりゃ本当に死ぬことを受け入れやがって」
聞き覚えのある声と悪態。彼女の前に降り立ったのは不死の王からこの街を救い、街から去ったはずの勇者、翔がそこにいた。
「どうして…………?」
啞然としながらも声を飛ばすサクロの言葉を無視して彼女を縛り付けていた鎖を破壊する。
すると、いち早く正気に戻った教皇が声を投げた。
「な、何をしているのか理解しているのかね!? 君は、人類を、この街を滅ぼそうと魔族と手を組んだその魔女を助けたのだよ!?」
教皇の言葉に続いて民衆も非難の声を上げた。
「そうだ! 魔女を助けるな!!」
「そいつは俺達を殺そうとした女だぞ!?」
「勇者が魔女を助けるのかよ!! ふざけるな!!」
「さっさとそいつを殺せ!!」
「うるせぇぇええええええええええええええええええええええええええええええええッッ!!!」
瞬間、凄まじい大喝。
怒りの形相を浮かべて激昂する彼の凄まじい怒声に誰もが口を閉ざした。
「どいつもこいつもムカつくんだよ!! 勇者だの魔女だの下らねえこと言いやがって!! お前等の頭の中に入ってんのは脳みそじゃなくて糞か!? 街を滅ぼそうとする奴がどうして戦場に出たのかそんな当たり前の疑問にも抱きもしねえのか!? ああ!?」
激声を飛ばす。
「勇者と持ち上げて魔女と貶して随分と見下げ果てたゲス根性だな、お前等は! 戦う覚悟もなければ、死を受け入れる気概もない! 安全な所でただ適当に周囲と合わせて貶すしか能がねえのか!?」
「おい! いい加減に―――」
激声を飛ばす彼を止めようと警察が数人がかりで彼を取り押さえようとするも翔はその警察に容赦なく拳を叩き入れる。
「ハッキリ言ってやる。お前等全員生きる価値もねえそこら辺に転がっているゴミと同じだ」
口を閉ざす民衆の前で彼は嘲笑と共に貶す。
「歯向かう気概もなくただ怯え、助かることを当たり前のように縋って安全だと分かれば堂々と前に出て罵倒し、蔑むお前等にはそれがお似合いだ」
嘲弄と冷笑を見せる彼の言葉に誰もが怒りを覚える。
「文句がある奴は前に出やがれ。相手してやる」
だが、その怒りを爆発させることが出来ずにいた。何故なら彼は強いから。この街を襲った魔族を撃退した強敵に立ち向かうことができない。
そんな彼等に翔は吐き捨てる。
「だからお前等はゴミなんだよ。そんなんでこれから生きていけんのか? また魔族が襲われた時、助けてくれると思ってんのか? 甘えんな。自分の身も、自分にとって大切な誰かを護れるのも結局は自分自身だろうが。自分を弱さを許す理由を作ってんじゃねえ」
「ショウ………もうこれ以上は」
「お前にも言ってんだよ!」
止めようとするサクロに翔は怒りの矛先を彼女に向けた。
「自分の命を簡単に諦めてんじゃねえ!! お前に冤罪を押し付けたあのクソ教皇に一泡吹かせてやれよ!」
「でも、私が死ねば全部…………」
「死ねばいいなんてふざけたこと抜かすんじゃねえ!!」
彼女の言葉を遮って翔は叫ぶ。
「お前が犠牲になれば全て丸く収まるなんてどこの聖女様だ! お前はただの金に汚い聖職者で十分だ!」
「ひ、ひどい…………」
否定はできない分より彼女の心にくる。
「誰かあの反逆者共を殺せ!!」
教皇が叫んだ。それを聞いて警察が一斉に動き出したのを見て翔はサクロを抱きかかえる。
「《術式展開・重力》」
魔術を起動させて自身らにかかる重力を弱めて、体重を軽くする翔は人一人抱えたまま屋根上まで軽々と跳ぶ。
「ついでだ! 《術式展開・光》!」
瞬間、強烈な閃光が放たれて直視した者は目を押さえてその場に蹲る。
「な、なにしてるの!? 今からでも遅くない! 私を置いて――――」
「ふざけんな。俺はな、お前に一番苛立ってんだよ」
屋根上を走りながら怒気を滲ませる声を出す。
「お前は誰かを救いたいが為に金を集めていたんだろう。なら、その金は俺の為じゃなくて自分が救いたいと思う奴に使いやがれ。少なくとも俺はそんな金はいらねえ」
路上では警察が追いかけられて屋根上を駆ける状況のなかで翔はサクロに言う。
「だから俺はお前を助けたことは間違いとは思わねえ。その為なら下らねえ名声など捨ててやる」
「ショウ…………」
「だがあくまで俺自身の為だ! そんな金、俺には荷物だからお前に押し付けるだけだからな! 勘違いすんじゃねえぞ!?」
顔を朱色に染めながら悪態を吐く彼にサクロは笑みを作る。
「ハハ、素直じゃないね」
「うるせぇ!!」
「でもありがとう…………」
「……………………」
「ふふ」
そっぽを向きながら無言で屋根上を駆ける翔に微笑むサクロ。二人は正門前に辿り着くとそこにはラヴァンが馬車を用意して待っていた。
「お二人共急いでください!!」
手綱を握っているラヴァンに二人はすぐに馬車に駆け込むとすぐに走り出す。
正門を抜けて郊外に出る三人。
後ろから追いかけてくる警察を一瞥し、離れていくことを確認する。
「もういいだろう。あいつらもモンスターが出る外にまで出てくる必要はねえだろうし」
街から離れてもう追手は来ないだろうと息を吐く翔はサクロを下ろす。
「次はどうしますか?」
「取りあえずは次の街を目指すしかねえ」
今後の行動。食料調達や情報収集をする為にも街には行かないといけない。それまでは野宿生活だ。
「ねぇ、ショウ」
「あぁ? 文句なら受け付けねえぞ?」
「責任取ってね?」
「はぁ?」
「え?」
その言葉に二人は呆気取られるもサクロは笑みを浮かべたまま言う。
「あそこまでされて惚れない女の子はいないよ? だから私の一生分の責任を請求するからしっかりと払ってね?」
笑みと共に告げるはサクロの言葉に硬直する二人はそれに気づかない程鈍くはない。
それは紛れもない告白だ。
「ふふふ」
硬直する二人を見据えながら聖職者は笑みを溢す。




