宗教問題へ“政治問題”が拡大
聖務院が《正式評価会》を強行しようとした、その翌日。
王都全体が、微かだが確かに揺れ始めていた。
宗教問題で済むはずだった火種は、
帝国・連邦の介入により、あっという間に“政治の領域”へ広がった。
◆王国宗教勢力 vs 学院(学術派)
学院が「学問の独立」を主張する一方で、
聖務院は「神意の解釈は宗教権威の管轄だ」と譲らない。
互いの思想が正面からぶつかり、
その衝突は、職員室から講義室の隅々まで伝播していった。
学院の廊下では教授同士の激論が日常になり、
学生たちでさえ、
「学問か、信仰か」のどちらに肩入れするか問われ始める。
◆宗教勢力 vs 帝国神統院
聖務院の内部文書には、もはや隠しきれない焦りが滲んでいた。
“帝国の神意干渉術師がレティシアに接近。
主導権喪失の恐れあり。”
帝国からの使節が学院に入ったことで、
聖務院は自らの権威が奪われる未来を直視せざるを得なくなった。
だからこそ――
彼らは評価会を前倒しにし、
強引にでも権限を確保しようとする。
それは、帝国と王国宗教勢力の間に、
確かな火種を落とす行為だった。
◆聖務院 vs 王政府
聖務院の独断専行は、ついに政府内でも問題となり始める。
王政府高官
「学院は国の教育機関だ。
宗教だけで動かすわけにはいかない」
聖務院側
「神意に関わる事だ。政府の口を挟む余地はない」
意図せずして、権力機構の亀裂まで表面化した。
◆学院内の学生たちにも走る緊張
そんな大きな波紋が、
最も弱い立場にいる学生たちの耳にも届く。
廊下の隅で、
昼食の列で、
図書館の静寂の中で――
レティシアの名前だけが独り歩きを始めた。
「聖務院が、レティシア嬢を“連れていく”段取りらしい……」
「帝国と連邦の使節も狙ってるって噂だぞ。
どうなるんだよ、王国……」
「……学院って、こんな危ない場所だったの?」
はじまりは、ただの噂だった。
だが繰り返されるほどに、
それは不気味な現実感を持ち始める。
◆そして――当のレティシアは。
世界のどこより静かな、学院寮の小さな部屋。
昨日よりも早く沈む夕日が、
レティシアの机の影を長く引き伸ばす。
彼女は知らなかった。
自分が踏みしめる床の下で、
宗教と政治と国際情勢が絡み合い、
巨大な渦をつくりはじめていることを。
知らぬまま、
孤独なまま、
ただ“いつも通り”を守ろうとする。
その姿こそ――
各勢力が求める中心点であり、
同時に最も脆い火種でもあった。
レティシアは、まだ分かっていない。
自分の周囲で静かに燃え広がる炎が
もう誰にも止められないところまで来ていることを。




