“因果徴の正式評価会”とは何か?
レティシアの存在を巡る水面下の争いが激しさを増す一方で、
王都の一角――聖務院の奥深くに保管された古文書が、静かにその名を囁いていた。
“因果徴の正式評価会”。
王国宗教法が制定されて以来、めったに発動されることのない儀式である。
しかし、その荘厳な名称とは裏腹に、実態はきわめて政治的だった。
――神意の揺らぎをもたらす人物を判定するための神学的検証。
表向きは、ただそれだけ。
だが古記録を読み解けば、この儀式がどれほど“管理のための制度装置”であるかは明白だった。
聖務院の審問官たちが、淡い蝋燭の光の下でその文言を確認する。
「……名目上は、因果の乱れの検証」
「だが核心は、宗教勢力が対象者をどこまで支配できるかの宣告だ」
巻物には、数百年前の判例が淡々と記されていた。
“聖務院の認可なくして、市井に戻ることを許さず”
“対象者への監督官の配置を義務付ける”
“神意の保護の名目により、学院や民間の干渉を制限する”
それらは保護の言葉を借りた拘束であり、
一度この儀式が執行されれば、対象者は“宗教的管理下”に入る。
レティシアにとって、それが何を意味するか。
――自由の喪失。
――学院生活の終了。
――聖務院による常時監視。
――国家宗教の象徴として祭り上げられる未来。
そして、少女自身がそれを選ぶ余地はほとんどない。
審問官の一人が、小さく息を吐いた。
「……つまり、この儀式は“印”なのだ」
「聖務院が『この者は我らの管理下にある』と世界に示す、不可逆の刻印……」
補佐官が頷く。
「国外勢力――帝国も連邦も、これを最も恐れています。
一度評価会が執行されれば、彼らは手を出しにくくなる」
神官長は、白い衣を擦らせながら視線を落とす。
「だからこそ、今、強行する価値がある。
……レティシア・アーデルハイトを回収するために」
その声には、一抹の後ろめたさすらなかった。
焦燥と権威。それだけが色濃く滲んでいた。
だが、聖務院は理解している。
これは少女を救う儀式ではない。
――支配するための儀式だと。
そして、その決定が下された瞬間から、
レティシアの知らぬところで、彼女の未来は静かに軌道を変え始めるのだった。




