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伝説のレフリー津久田健次郎、悪役令嬢に転生す。  作者: 南蛇井


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72/82

議題が“レティシアの扱い”へ収束

議論は混乱し、堂々巡りに陥っていた。

帝国の意図、連邦の真意、学院の中立維持──

無数の可能性が絡まり合い、誰もほどけない。


だが、次第にその糸は、まるで自然と吸い寄せられるように、

ひとつの一点へと収束していく。


――レティシア・アーデルハイト。


その名が、会議室の空気を変えた。


教務官が静かに、しかし逃げ場のない声音で口を開く。


「帝国も連邦も、彼女に関心を示しています。

 安全保障の観点からも……彼女の“身柄管理”が必要かと」


“身柄管理”。


人ではなく、危険物の扱いについて語るような響きだった。


ゼフィル教授は、眉間に深く皺を刻んだ。


「彼女はただの努力家の学生だ!」

言葉に怒りと、どこか痛みが混じる。

「観測対象? 宗教的中心? そんな馬鹿げた扱い、許せるか!」


教授の声には、彼女をよく知る者だけが抱く

切実な“人としての尊厳を守りたい”という思いがにじんでいた。


しかし聖務院の学者は、冷ややかな視線で反論する。

まるで、感情を一滴も含まない硝子のような声で。


「現実として──学院で最も“影響”を受けたのは彼女です」

淡々と告げながら、机上の資料を指で押し示す。

「外部が彼女を中心と見なす以上、学院も対処せねばならないでしょう」


つまり、

“外が勝手に決めた中心にされている以上、

 学院も巻き込まれるしかない”ということだ。


論理としては正しい。

だが、あまりに冷酷だった。


ゼフィル教授の握った拳が、机の下でじり、と軋む。


会議室に、長い沈黙が落ちる。


それは誰も、

“学生一人を政治の中心に置きたくない”と分かっていながら、

それを否定できないという、苦しい沈黙だった。


やがて、学院長が深く息をつき、

椅子の背にもたれたまま、重い言葉を落とした。


「……レティシア嬢の安全を、学院として保証する。

 だが、それがどこまでできるかは……分からない」


その言葉は、学院という巨大な船が

嵐の中で軋む音のように聞こえた。


こうして、名前を呼ばれた一学生を中心軸に、

学院の全機構が動き始めてしまった。


誰も望まなかったはずの渦が、

静かに、しかし確実に、

レティシア・アーデルハイトという少女を呑み込もうとしていた。

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