学生たちの反応 ― “恐怖”と“好奇心”の渦
レティシアが廊下を歩くたび、
その背後で必ず“誰かの声”が生まれた。
「帝国の人が、彼女に会いに来たらしいよ……」
「連邦の観測官とも話してたって……どういう立場なんだ?」
「そもそも、学院にそんな大物を呼ぶ理由って何だよ……?」
ひそひそ声なのに、刺さるように耳へ届く。
名前だけがやけに鮮明に聞こえるのは、きっと気のせいではない。
中庭を横切れば、芝生の上にいた学生たちが
ぽつりぽつりと視線を向けてくる。
そこには三種類の感情が混ざっていた。
――純粋な好奇心。
――得体の知れないものへの不安。
――立場を測るための、薄い警戒。
視線は、誰もが表面上は“普通”を装っているのに、
どこか探るように、じわりと肌に貼りつく。
レティシアは歩幅を変えなかった。
変えてはいけない、と言い聞かせているように。
だが、空気は勝手に変わっていく。
やがて、学生たちの間に“自然発生的な線引き”が生まれ始めた。
帝国の鑑定官セラフィナを支持する一派は、
「宗教的権威が動くなんて滅多にない」と興奮気味に語り合い。
連邦の観測官ユールグ側に共感を示す学生は、
「科学的な立場の方が安心できる」と冷静さを保とうとする。
そしてもう一つ。
「巻き込まれたくない」と距離を取る層も、
目に見えない大きな塊として生まれていた。
派閥はあくまで“声にならない色分け”だ。
誰も明言はしない。
だが、学院の空気は確かに三つ四つに割れ始めていた。
レティシアを中心に──。
当の本人は、廊下の窓に映った自分の姿を
ほんの一瞬だけ見つめる。
そこにいるのは、いつもの学生服の少女。
だが、周囲の世界だけが勝手に変容し、
彼女を“特別な何か”に仕立て上げようとしていた。
風はまだ静かだ。
だが、その静けさがかえって不気味な前触れのようだった。




