ユールグ(連邦)との噛み合わない対立
舞台:学院・中庭(昼下がり)
初夏の光が降り注ぐ学院の中庭。
生徒たちの声が遠くにかすむほど、ここだけは静謐だった。
中庭の片隅、二人の影が向かい合う。
一人は聖なる光をまとったような帝国の使者セラフィナ。
もう一人は、無駄のない簡素な外套を羽織った連邦観測官ユールグ。
一見穏やかな会話――
しかし、その空気は、薄い刃を合わせるような緊張に満ちていた。
◆
セラフィナ
(扇を軽く揺らしながら)
「あなた、レティシア嬢を“観測”しているそうね?」
ユールグ
(まっすぐな眼差しで)
「観測ではない。
あれは……事象記録だ。
政治利用の意図はない」
セラフィナ
(微笑のまま、目だけが鋭さを帯びる)
「……政治を避けて通れると、まだ本気で思っているの?」
ユールグ
「思ってはいない。
だが、必要もない。
事実は事実として扱えばいい」
セラフィナは首をわずかに傾ける。
その仕草だけで、周囲の空気が変わる。
セラフィナ
「それが王国の中で“通る”とお思いで?
今この場所では、真実よりも“誰が語ったか”が重要なのよ」
ユールグの瞳が細くなる。
「ならば……なおさら、介入は増やすべきではない。
彼女の負担になる」
セラフィナは中庭の花を見やり、
まるでその花がレティシアであるかのように柔らかな声で言う。
セラフィナ
「負担……ね。
では、あなたはこうした“揺らぎ”が起きたとき、
誰にも触れず、ただ眺めていればいいと?」
ユールグ
「揺らぎは観測すればよい。
そこに意図を混ぜる必要はない」
セラフィナ
(かすかな笑み。だが瞳は冷たい光を帯びる)
「だから噛み合わないのよ。
あなたたち連邦は“正しさ”だけを信じている。
でも……世界は、そういうふうにはできていないわ」
◆
互いに声を荒げることは一度もない。
しかし、言葉のひとつひとつは重く、鋭く、価値観の根本へ突き刺さる。
そのささやかな衝突が、
目に見えない形でレティシアへと押し寄せていることに、
二人とも気づいていながら――
歩み寄る気配はどこにもなかった。
風が中庭を抜け、
花弁がひとひら、二人の間を漂い落ちる。
その静寂こそ、
二人の対立がいっそう深まった証でもあった。




