レティシアとの初接触(火種その1)
学院の来賓応接室は、
陽光を淡く通すカーテンが揺れているはずなのに、
なぜか空気は張りつめていた。
その中心にいるのは、
柔らかな笑みに沈黙の刃を仕込んだ女――セラフィナ。
そしてその前に案内されるように通されたのが、
学院の一学生にすぎないレティシアだった。
ドアが閉まる。
外のざわめきが隔てられ、二人きりの空気になる。
セラフィナは、まるで物語の姫君に会ったかのように
優美な仕草で立ち上がった。
「あなたがレティシア・アーデルハイト。
……会えて光栄ですわ。」
その声は、ほどけるように甘い。
だがレティシアは、視線の奥にある“評価”を敏感に察した。
感情ではない。
好意でも敵意でもない。
――純粋な“価値の測定”。
セラフィナの瞳は最初から、
レティシアを「人」ではなく「資源」として見ていた。
「学院で起きた“裁きの逸脱”、
その鍵があなた――というわけなのね?」
「えっ……鍵って、何が……?」
レティシアは思わず一歩引く。
理解が追いつかない。
けれどセラフィナは、一歩、優雅に詰めてくる。
「探りませんのね?
王国の誰よりも“結果”を引き寄せたのはあなたでしょう?」
微笑みが深くなる。
声はやわらかいのに、逃げ場はない。
「それに――神意が黙っているわけがないわ。
あなたのような“中心”を前にして。」
ほんの一瞬。
彼女の目に、ぞくりとするほどの確信めいた光が宿った。
レティシアは息を呑む。
まるで、自分の人生が知らぬ間に帝国の掌に乗せられたようだった。
(私……なにか、とんでもない扱われ方を……?)
セラフィナはその揺れを見て、
美しく微笑みながら――追い打ちをかける。
「安心なさって。
わたくしはあなたを害しませんわ。
ただ……あなたが何者なのかを知りたいだけ。」
言葉は蜜。
しかし内容は鋭利すぎて、触れれば血が出る。
こうしてレティシアは、
“自覚なき聖女候補”として帝国に目をつけられた。
この出会いが、後々まで続く火種になることを、
まだ彼女は知らない。




