本人の“ズレ”への自覚
夕方の光が校舎の石畳を金色に染めるころ――
レティシア(健次郎)は、ふと足を止めた。
風が静かに流れるのに、胸の奥だけがざわついている。
ミルヴァが残した言葉が、耳の奥で反響する。
――「あなたには、因果の噛み合わない部分がある」
アストンの冷静な分析も、頭から離れなかった。
――「あなたは“物語の外”から観ているようだ」
周囲は勝手にその“異質さ”に意味をつけ、
学院は騒ぎ、派閥は動き、噂は拡大していく。
だが一人だけ、彼女……いや、健次郎だけは、
その理由がいまいち分からない。
理解できないはずの言葉が、心の深い層に刺さる。
◆レティシア(健次郎)の揺れる思考
(……もしかして、俺……
この世界に完全に適応しきれてないのか?)
立ち止まった足は、まるで地面に根を張ったように動かない。
(確かに……時々、自分の視線が“地に足ついてない”感じはあった。
みんなが真剣に生きてる横で、
俺だけどこかで“これは物語だ”って眺めていたというか……)
通り過ぎる学生たちの笑い声が遠くなり、
自分だけ別の層に立っている感覚がこみ上げてくる。
(心のどこかが、まだ“観客”なのか……?
ここが現実なのに、
俺の意識は今でも“ゲームの外”を引きずっているのか……?)
そう思った瞬間、胸に冷たいものが落ちた。
◆自覚してしまった“ズレ”
健次郎は、断罪劇のときの自分を振り返る。
淡々と場を処理した。
論理的に、物語の進行を予測しながら。
“この選択肢を選べばフラグは折れる”と半ば反射的に考えた。
(……ああ、そうか。
俺はあのときも“プレイヤーの思考”をしてたんだ……)
だからこそ、ミルヴァやアストンが言った“ズレ”は、
彼の本質を正確に射抜いていた。
自分はまだ完全にこの世界の住人ではない。
身体はレティシアでも、心はどこかで健次郎のまま――
“物語の観客”を捨て切れていない。
そしてその違和感こそが、
周囲には“異能”や“特別性”として見え始めている。
それに、健次郎は薄々気づき始めていた。
夕焼けの影が伸びる中、
レティシアはそっと自分の胸に手を当てる。
(……このままじゃ、たぶん……
俺自身が、物語の外側に立ったまま、
世界だけが先に進んでいく……)
その不吉な予感は、
やがて訪れる“本格的な狂い”の前触れのように思えた。




