勝手に積み上がる“称号”
昼下がりの食堂は、いつもならスープの香りと談笑が混ざる穏やかな空間だ。
だが今日に限っては、レティシア(健次郎)が足を踏み入れた瞬間、
空気の温度がわずかに跳ねた。
ざわっ、と波紋が広がる。
本人が席に着く前に、すでに“噂”が独り歩きしていた。
◆勝手に積み重なる称号たち
近くのテーブルから、ひそやかな会話が漏れ聞こえる。
「聞いた? レティシア様は学院の理性の象徴だって」
「違いますわ。あれは神意の予兆……聖務院の子が言ってましたのよ」
「何でも、王太子殿下をも超える新時代の令嬢だとか」
「政治派が警戒しているらしいわ。
――ってことは、むしろ価値が高いのでは?」
称号ガチャが一人歩きし、
彼女のイメージは会話が一巡するごとに進化していく。
“アップデートに本人の承認が必要ない世界”が目の前にあった。
噂を耳にしながら、健次郎――いやレティシアはスプーンを握る手を止めた。
内心では、盛大にツッコミが走る。
◆レティシア(健次郎)心の声
(……待ってくれ。ほんとに待ってくれ……)
(俺はただ、
“原作で起きるトラブルを回避して、
余計なフラグを立てないように動いただけ”だよな?)
(なのに……なんで奇跡の娘だの、
新星貴族だの……
RPGみたいな“称号”が勝手に増殖してんだよ……?)
(しかもアップデート早すぎない?
俺の知らぬ間に、俺が高度進化を遂げてるんだが?)
そうしてスープに映った自分の顔を見ると、
そこにはただ困惑しきった少女の表情があるだけだった。
しかし周囲の耳には届かない。
人々は、レティシア自身ではなく――
彼らが欲する“レティシア像”だけを見ていた。
そして噂は、彼女の意志とは無関係に、
今日もまた勝手に積み上がっていくのだった。




