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97 ダンジョン最下層・激戦①

クレアたちと離れ離れになったパルト。

その前に立ちはだかるサヌラと謎の魔物。


パルトはこの窮地を脱せられるのか!

「おいきなさい!!」



サヌラの言葉に合わせて、巨大な魔物が走り出した。


地面を叩きつけるような足音が響く。


体の重量を想像させるほどの震動が、フロア全体に波及する。



「グオオオオオオ!!!」



咆哮とともに振り上げられた太い腕が、わたしに向けて振り下ろされた。


だが、それくらいのスピードなら避けることは問題ない。


振り下ろされた大きな腕が地面を叩き割る前に、瞬時に加速したわたしは、奴の足元へと回り込んで一撃を見舞った。


だが……



か……硬い……!



奴の体を覆っている鱗はまるで金属のように硬く、剣が当たると火花を散らした。


金属同士がぶつかり合う鈍い音が響き、わたしはすぐさま距離を取った。



『あの鱗は、普通の斬撃では通りそうにありません。』



ガイドさんも自身が持つスキル【アナライシス(分析)】と【アナライズ(解析)】で、調べてくれているようだ。


だが、思った成果は得られていないらしい。


具体性に欠けるコメントは、おそらくそういうことなんだろう。



『【アプライザル(鑑定)】も試みましたが、失敗しております。』


わたしはそれを聞いて、今度は息を飲んだ。


【アプライザル(鑑定)】とは、ガイドさんのスキルの1つである。


よく使う【アナライシス(分析)】や【アナライズ(解析)】とは違い、【アプライザル(鑑定)】は対象の隠された情報を収集したり、現在の能力や潜在能力を可視化する能力だ。


【アナライシス(分析)】と【アナライズ(解析)】は、対象の表面的な情報を収集して、その能力や性質を見抜くスキルだが、【アプライザル(鑑定)】はそういった過程はまったく踏まず、使用するだけで対象の情報を引き出すことができるらしい。


それだけ聞けば、なんて恐ろしいスキルなんだと思うけど、使用するには相当な魔力が必要らしい。


だから、余程の時じゃないと使わない。


ということは、今はその余程の時……ということになるわけだ。



しかも、この魔物……あの牛頭よりも……。


『確実に強いです。』



ガイドさんの口振りから汲み取れるのは、今の状況がかなりヤバいということ。


それを聞いたわたしは、覚悟を決めた。



ガイドさん……全力で行こう……。


『しかし、現在の【脱兎如(ライトニングラビット)】の使用時間は1分30秒です。その間に倒し切れなければ……詰みます。』



その通りだ。


【脱兎如(ライトニングラビット)】は、身体能力全体をかなり底上げしてくれるスキルだが、使用時間が決まっている。


そして、その時間を過ぎれば、わたしの体は反動を受けて動けなくなってしまうわけだ。


そうなれば、あの魔物にわたしは殺される。


だから詰み……。


でも、逃げ道もないのだ。


わたしの後ろには、いつしか魔物の群れが集まってきている。


襲ってはこないけど、おそらく奴らはモンスタースタンピードの一部の魔物たちだろう。


その大群を突破して、クレアたちの下へ行く手もある。


だが、サヌラたちがそれをただ眺めているとは到底思えない。


ならば、やはり目の前の魔物を倒し、サヌラをも倒すしか道はない。



『クレアたちも、おそらくこちらに向かっているはずです。それまで、時間を稼ぐ方が現実的です。』



ガイドさんの言葉には納得できる。


クレアとガザルがどうなったのかは、正直わからない。


あの2人も、わたしと同様にどこかへ飛ばされた可能性もある。


でも、クレアはAランクでガザルはBランクだ。


わたしよりもちゃんと強くて、冒険者歴も長い。


なら、考えるのはこのボスモンスターを倒すこと。


そうすれば全部解決するのだと、理解しているはずなのだ。


ならば、わたしがやるべきことは、それを信じてこの魔物をここで食い止めること。


無謀なことは考えず、堅実に時間を稼ぐ……。



果たして、そんなことができるのかはわからないけど、今はやるしかない。



『まずは【アナライシス(分析)】や【アナライズ(解析)】を駆使して、奴の弱点を洗い出します……。ご武運を……。』


了解……じゃあ……行くね!



最大限の魔力で身体強化を発動し、わたしは一気に加速した。


水属性、風属性、そして氷属性の魔力を練り上げて、スキル発動の準備をして、魔物の懐に飛び込んだ。



「バカですか?死にに来るようなものです!」



サヌラがそう笑うと、魔物が大きく吠えた。


そして、大きな右腕をわたしに振り下ろす。


それをサイドステップでかわすと、その腕を一気に駆け上がり、魔物の目線まで飛び上がった。



「カマイタチ(烈風刃斬)!!」



無数の風の刃が魔物の顔に被弾する。


しかし、あまり効果はないようで、怯むことなく再び吠えた魔物が、今度は左手を振りかざす。



「空歩!」



瞬時に空歩で足場を構築して大きく飛び上がると、続け様にスキルを撃ち込んでいく。



ウォーターボール(水球)、ウォーターウィプス(水鞭)、ウィンドカッター(風刃)、カマイタチ(烈風刃斬)、そして、アイスバレット(氷弾)。



だが、そのどれもが奴にはあまり意味をなしていない。


動きを制限することはできるが、それだけだ。


魔物はまるで、小蠅を払うかのように両腕を振り回し続けた。



「全然効いてない……!」


「やはり、あの鱗が奴を守っているようです。あれをどうにかできないことには、攻撃は無意味です。」


「こいつ……本当に何なの!?」



そもそも、この魔物が何なのかがわからない。


種族、特性、強さ……その全てがガイドさんですらわからないのだ。


対策の立てようもない。



『奴の解析を急ぎます。できる限り、省力的に動いて時間を稼いでください。』



今はガイドさんの言葉を信じて動くしかない。


わたしにはそれしか選択肢はないのだ。



「うん……お願い……!」



わたしはそう告げると、再び目の前の魔物との戦いに身を投じていった。



◆



「まっじで!!キリがない!!」



そう愚痴を溢しながら、クレアは一振りで多くの魔物たちを一気に屠る。


燃え焦げながら飛び散る肉片は、普段なら相手を怯ませる要素となり得るはずなのに、今の魔物たちは怯むことすらない。


言葉どおりでキリがなく、どんどん溢れてくる。


斬っても斬っても、あとから湧き出すように湧いてくる魔物たちにうんざりするが、パルトを助けるためには最下層へ行き、根源となる魔物を倒さねばならないのだ。


クレアはパルトを助けたい一心で、ガザルとともに最下層を目指していた。



「今10階層だ!!」


「よくわかるね!!」


「俺はダンジョンへ潜る時は、自分だけがわかる印をつけてんだ!」



ガザルのマメな部分を垣間見たクレアが驚いた表情を彼に向けるが、ガザルは特に気にしていないようだ。


目の前に現れる魔物たちを双剣で流麗に斬り伏せながら、まっすぐ先を見ている。



「だが、俺がつけた印はこの階までだ!前回は10階層までしか潜ってねぇからな!!ここから先は俺もよく知らん!!15階層まで行ったあんたが頼りだぜ!紅蓮!」


「了解!!」



クレアもガザルに負けじと魔物を吹き飛ばしながら笑った。



「もう少しスピード上げるよ?ついて来れる?」


「おぉ!問題ねぇ!!俺は力はねぇがスピードはあるぜ!」



それについては、ガザルのこれまでの戦いを見ていたクレアも知っていた。


素早い攻撃と双剣による連撃で、流れるように魔物を屠るその姿から、クレアはガザルがスピード重視の冒険者であることは見抜いていたのだ。



「なら、遅れないでよ!」


「へへ!追い抜いちまったらすまねぇけどな!」



ガザルの言葉に鼻を鳴らしつつ、クレアはこれから進む方向へと、大技スキルを一撃見舞う。



「ブレイズインパクト(炎斬波)!!!」



巨大な炎の刃が、通路に溢れ返る魔物たちを焼きながら斬り刻み、最後に大きく爆ぜた。


そうして作られた道を、クレアとガザルはトップスピードで駆け抜けていく。



「相変わらず、おっかねぇスキルだぜ……。」



耳に届いたガゼルの言葉は称賛と受け止めて、クレアは再び湧き出してくる魔物たちを斬り伏せ、ダンジョンの最下層へと先を急ぐのであった。

ガイドさんにもわからない魔物の正体は…

急ぐクレアたちは間に合うのか!


今回もご愛読いただき、ありがとうございました!

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