96 分断
消えたパルト。
クレアは気が気でない筈‥‥
分断されたパーティはどうなるのか。
「パルト!!!パルトは……!!」
クレアは激しく取り乱していた。
その理由は明確で、パルトが忽然と消えたからだ。
さっきまで自分の後ろにいたはずのパルトが突然いなくなったことが、クレアを大きく動揺をさせていた。
もちろん、普段のダンジョンならば、クレアもここまで動揺しなかったかもしれない。
しかし、今いるのは普通のダンジョンではなく、絶賛モンスタースタンピード中のダンジョンだ。
魔物が溢れ返り、充満する殺意と欲望は、中にいる全ての生き物に向けられている。
その状況が、クレアを一層焦らせていた。
「落ち着け!!紅蓮……!」
その様子を見かねたガザルが、クレアに声をかける。
だが、クレアは冷静さを失っていた。
「はぁ!?落ち着けって……?バカじゃないの!?仲間がどこかに飛ばされたっていうのに……!?」
「確かにそうだが……焦っても見つかるわけじゃねぇだろ?」
「そんなことはわかってる!!でも、今このダンジョンは普通じゃない!!だから、早く見つけないと!!」
「もちろんだ!だが、そのためには俺たちが落ち着かねぇと、探せるものも探せねぇじゃねぇか!!」
「うるさい!あんたは仲間じゃないからそんなことが言えるんだ!!あの子は……まだ……弱いのに……!!」
その言葉とともに、クレアの眼から涙が溢れた。
クレアはパルトのことを誰よりも心配していた。
だからこそ、彼女を導いて行こうと決めていた。
もちろん、それはクレアが勝手に考えていることで、パルトは何も知らないだろう。
要するに自己満足である。
でも、姉弟子としての責任感みたいな感情が、クレアの中では燻っていたのだ。
同じ師を持つ妹弟子のこれまでの境遇は、凄惨たるものだ。
親、兄弟、仲間を皆殺しにされ、優しくしてくれた師匠ですら殺された。
その仇を取るために、彼女は今強くなろうとしている。
いつの日か仇である魔人族を討つために……。
だからこそ、こんなところで死なせるわけにはいかない。
そんな強い思いが、クレアの眼から涙となって溢れ出し、言葉を強くさせていた。
だが、ガザルはクレアの態度に怯むことはなかった。
「バカを言うんじゃねぇ!!」
ガザルが声を荒げたので、クレアは少し驚いて言葉を飲み込んだ。
「いったんパーティを組んだらなぁ、そいつは俺にとっては家族なんだよ!!俺は常にそう思って冒険者やってんだ!!」
「…………」
「そもそもよぉ、冒険者なんてのは本当に酔狂な職業だろうが!ほとんどが過去にしがらみを持ってる奴らばっかりだ!こんないつ死んでもおかしくない仕事、普通はやらねぇ!!」
いつのまにか語り始めたガザルの言葉は、クレアの胸に少しずつ染み込み始めていた。
「もちろん、俺にはあんたらの境遇はわからねぇ。今日初めて出会ったんだし、そんなことは当たり前だ。でもな、今俺たちは家族なんだよ!だから、自分の身を投げ捨ててでも全力で守るし、全力で助ける。んで、最後には全員で全力で笑う!俺はそう考えてんだ!」
意外と熱い奴だ……。
ガザルを見ていて、クレアは素直にそう感じた。
そして、後から頭に浮かんできたのは、幼馴染みのクリスの笑顔。
彼もまた、暑苦しい持論をよく述べていたことを思い出す。
(クリスみたいな奴……。でも、ガザルの言葉はもっともだ。)
いつしか、クレアは冷静さを取り戻し、自然とある言葉を口にする。
「ガザル……ありがとう。」
その言葉を聞いて、ガザルは笑った。
「あんたの相棒は強えんだろ?」
「そうだよ。パルトは強い子……。」
「なら、信じてやろうぜ。」
「……たまには良いこと言うね。」
褒められたガザルはへへんと鼻を啜ると、足元を指差した。
「これを見ろ……魔方陣の痕跡があるぜ。しかも、転移のスキルが組み込まれている。」
クレアはしゃがみ込み、それを見る。
「ということは……誰かがここに転移の魔方陣を組んだ……。」
「だな。この辺りには同じようなもんが他にもいくつか見られる。完全に意図的に仕込まれたもんだ。」
「くそ……!」
クレアは怒りのままに地面を殴る。
「そうなると、このモンスタースタンピードも仕組まれたもの……?」
「その可能性は高いな……。」
「なら、パルトは……」
クレアは拳を握る。
その拍子に怒りが混じる魔力が漏れ出したので、ガザルはそれを落ち着いて諭す。
「冷静さを失うなよ。パルトの嬢ちゃんの強さなら、別の階に飛ばされても問題ないだろ。そのうち合流できるはずだ。」
ガザルの言葉に対し、クレアは大きなため息をつく。
「でも、1番奥の場合は……」
「それが1番まずいな。これだけの規模のスタンピードを起こす魔物だ……その強さはかなりのものだろう……。」
「なら、私たちがやることは1つしかないね。」
クレアが顔を上げたので、ガザルは大きく頷いた。
「あぁ……さっさと最深部にいるボスの下へ辿り着く。」
「よし……。」
クレアはゆっくりと立ち上がり、行く先に視線を向ける。
その先には、湧いた魔物の群れがこちらに近づいてくるのが見えた。
大きく息を吸い、それを吐き出した後、クレアは剣を構えてガザルに告げた。
「犯人は後で必ずぶっ潰す……けど、今は先を急ぐよ。」
「お……おう。」
ガザルはというと、クレアの静かなる怒りを感じ、体が無意識に震えているのを感じていた。
これがAランク冒険者……。
これが紅蓮の二つ名を冠するクレア=デストロイ……。
その力は、もはやSランクに届くのではないだろうか……。
そんなガザルの想像を実現するかのように、走り出したクレアは魔物の群れを一振りで吹き飛ばした。
◆
目の前の化け物は、わたしをじっと睨んでいた。
だが、小さな唸り声を上げるだけで襲ってはこない。
そこが15階層のフロアボスとは違っていた。
一目見て、その戦闘力の高さはあの牛頭とは段違いだとすぐに理解した。
体の大きさはどうであれ、雰囲気からこの魔物は強いと無理矢理に理解させられたと言ったほうが正しいかもしれない。
それほどまでの威圧感に、わたしは圧倒されかけていた。
「ようこそ……」
聞こえた声の方へ目を向けると、そこには黒ずくめの女が立っている。
「お前は……」
「お会いするのは3回目ですね。しかし、まさかあなたの方がトラップに掛かるとは……」
ニンマリと笑うサヌラ。
その笑顔を見て、今回の黒幕が誰なのかをわたしは理解した。
おそらく、カネガを利用しているのはこいつだ。
契約書もこいつが作ったと言っていたし、間違いないだろう。
なら、こいつの目的は……
『例の宝玉でしょう。』
ガイドさんも同意見のようだ。
わたしはサヌラから目を離さないようにしながら、内心で頷いた。
だが、あの宝玉は何のために……。
そんな疑問がよぎるが、それはすぐに解決した。
『エルバたちがトゥウランで求めていた宝玉と、よく似ています。』
確かに言われればそうだ。
トゥウランでは青色で、ここゼルケイで手に入れた宝玉は赤色だ。
色は違えど、大きさも中心で渦巻く黒いモヤも、似ている部分が多くある。
この宝玉は一体何なのか……。
その答えは今は見つからない。
だが、渡してはならない物だということだけはわかっていた。
「……で、宝玉は持っていますか?」
わたしの思考を読んだように、サヌラが問いかけてきた。
持っていないと告げたいところだが、悔しいことに宝玉はわたしが持っていた。
クレアに渡しておけばと悔やんでも、いまさら仕方がない。
「持っていたとしても、お前には渡さない……。」
そう答えて剣を構えると、サヌラの顔は一層笑みが浮かんだ。
「まぁ……持っていようがいまいが、どうせ殺すのです。後からお仲間も来るでしょうし、あなたが持っていなければそっちを殺して奪いますよ。」
前に会った時とは別人のような笑み。
こちらが彼女の本性なのだと理解して、わたしは警戒心を強めた。
「さて、話は終わりにするとして……今からあなたにはコレに殺されてもらいます。」
サヌラは巨大な魔物を見上げて笑う。
真っ赤な双眸を携えた巨大な魔物は、サヌラの言葉に反応するように小さく喉を鳴らす。
その様子はまるでサヌラに懐いているような……そんな雰囲気を感じさせた。
「では、始めましょうか。」
その言葉に、わたしは剣を握る手に力を込めた。
目の前の巨大な魔物が大きく咆哮を上げる。
真っ赤な双眸、硬そうな鱗、長い尻尾に大きくて鋭い牙。
この魔物が何なのかは、わたしにはわからない。
だが、戦わねばその先には死しかないことだけはわかっている。
『気にかかるのは、あの黒いモヤです……。』
歯切れの悪いガイドさんの言葉。
残る不安を胸に、わたしは声を上げて魔力を解放した。
やはり狙いは宝玉か。
この宝玉は一体何なのか気になりますが、まずはこの窮地を脱しないと…
今回もご愛読いただき、ありがとうございました!




