95 リ:ダンジョン
アノーリオンからの依頼。
果たしてパルトたちは遂行できるのでしょうか!
心配です、、、
わたしとクレア、そしてガザルの3人は、ダンジョンを管理している広場へとやってきた。
横では、アノーリオンがダンジョン内の状況について説明を続けている。
「……それと現在、魔物たちは5階層を出口に向かって侵攻中とのことです。」
「数はどれくらい?」
クレアが問うと、アノーリオンは報告書を見る。
「今の時点で、数百程度は確認できているようですね。」
「種類は……?」
「ゴブリンにホブゴブリン、ダークウルフ……それにオークが多いようですね。数体のオーガも確認されているようです。」
「数もだが……種類もかなり多いな……。」
ガザルが緊張した面持ちでそう溢した。
それを見て、わたしの胸に少しの緊張感が湧く。
確かに、狭いダンジョン内に数百の魔物が蠢いており、それが外を目指して向かって来ているのだ。
想像しただけで、焦りが募るのは仕方がない。
だが、その反面では責任感も湧いていた。
わたしたちがやらねば、街は大変なことになってしまう。
モンスタースタンピードで街が壊滅した事例だって、過去にはあるそうだから。
だから、戦えるわたしたちがこの街を守らなくては……。
そんな思いを胸に抱きながら、ダンジョンの前に到着。
先ほどまでとは打って変わり、かなり小さくなってしまった入口の前に3人で立つ。
「大工や鍛治師たちがここまで塞いでくれました。ですが、これでももって数分といったところでしょう。」
眉を顰めるアノーリオンの言葉を背に、わたしは大きく深呼吸をする。
「そのドアを潜った後、入口は完全に閉じさせていただきます。もし、身の危険を感じ、逃げる選択肢を選ばざるを得ない時はこれを……」
アノーリオンがそういってクレアに手渡したのは、一枚の羽根だ。
透き通ったように白く、手のひらほどあるその羽根をクレアに渡し、彼は真面目な顔を浮かべた。
「トラスファーニ(転移鳥)の羽根です。一度だけ指定した場所へ飛ぶことができます。指定場所はギルドにしてますので。」
「これ……相当貴重なアイテムじゃない?」
「えぇ……ですが、街を守るためにダンジョンへと潜る冒険者の命には変えられませんよ。」
悲壮感を浮かべたまま、にこりと笑うアノーリオンに対し、クレアは相変わらず鼻を鳴らした。
アノーリオンが別の場所へ指揮を取りに向かった後、その場に残されたわたしたちはダンジョンを改めて見た。
「よし……2人とも準備はいいね?」
クレアの言葉にわたしとガザルは頷く。
それを見てにこりと笑うと、クレアはダンジョンの入口に備え付けられたドアに手を掛けた。
「入ったら、わたしが先頭でパルトが真ん中。ガザルが後衛で、一直線に突き進むよ。」
「うん……。」
「おう……。」
先ほど決めた陣形を再確認し、クレアがドアをゆっくりと開く。
その後に続いて中に入ると、見覚えのある整った内装が視界に映る。
整備された地面と等間隔に並ぶ燭台。
クレアと2人で入る時に感じたワクワク感はすでに無く、活気のあった冒険者たちの姿も無い。
あるのはただ、こちらに向かってくる絶望の香りだけだった。
「よし!行こう!」
クレアが走り出したので、わたしとガザルはそれに引かれるようにダンジョンの奥へ進んだ。
1階層、2階層、3階層までは、誰とも出会うことなく突き進んだ。
途中で見つけたのは、慌ててその場を後にしたであろう冒険者たちの持ち物くらい。
それ以外に特に変わったものは見かけなかったのに、4階層に足を踏み入れた瞬間、全員に緊張が走った。
「ホブゴブリンの群れ!気を引き締めてね!」
「オークも数体見えるぜ!!」
冷静に状況を把握する2人につられて、わたしも魔物の群れを見る。
ゴブリン、ホブゴブリン、ダークウルフ。
おおよそ、アノーリオンから受けた報告の通りのメンツだ。
「このまま突っ切る!!パルト、遅れないでよ!」
「誰に……言ってるの!」
わたしが睨むと、クレアは笑った。
「いっくよぉ!!はぁぁぁぁ!!」
真紅の剣を抜き、思いっきり振り抜くクレア。
その剣からは炎の斬撃が繰り出され、目の前にいたホブゴブリンたちを焼き払っていく。
肉と骨の焼ける臭い。
耐え切れない炎の苦しみによって、無数の断末魔が上がる。
そうして作り出された道を、わたしたちは一気に走り去る。
しかし、斬っても斬っても湧いてくる魔物たち。
キリがないなと思いつつ、前から聞こえてくる声を聞いて少し呆れてしまう。
「うっはぁ!斬っても斬っても湧いてくるねぇ!!」
前方のクレアからは、斬撃音とともに歓喜の声が聞こえてきたからだ。
もちろん、それはガザルにも聞こえていたらしく、チラリと見た彼の顔は引いていた。
しかし、クレアが先陣を切ってくれるのは正直助かっていた。
その数の魔物を薙ぎ払えるのは彼女しかいないわけで、わたしやガザルでは魔物の海にすぐに飲み込まれていたに違いない。
そう考えたら、頼もしくも悔しさが上回った。
いつかクレアを超えてやるんだ……。
そんな思いとともに、わたしはクレアの後に続いた。
5階層まで進んだところで、わたしたちは足を止めることを余儀なくされた。
アノーリオンから報告で聞いていたオークたち。
まさにそいつらのせいである。
「ねぇ……オークって盾持ってるんだっけ……。」
「いや……普通奴らは盾なんか持たねぇな。」
わたしがそう尋ねると、ガザルは口を開けたままそう溢した。
このダンジョンで初めて会ったこいつらは、素手もしくはボロボロの棍棒を持っている程度だった。
それなのに、今目の前にいるオークたちは全員が盾を携えている。
そして、わたしたちを見るや否や、一列に並んで盾を構えたのだ。
まるで、その動きは統率された軍隊の動き。
しかも、後ろの何かを守っているかのような……。
「こいつらを統率してる奴がいるね。」
クレアがそう告げて指を差す。
すると、それに合わせるように一際体の大きなオークがダンジョンの暗がりから姿を現した。
「クレア……あれって……」
「あれはオークキングだね。いやぁ〜すんごいのが湧いたねぇ……くくく。」
「また笑ってやがる……。」
再び嬉しそうに笑うクレア。
それを見てドン引きするガザル。
そんな2人を見て呆れたわたしが剣を構えると、クレアとガザルも同じように剣を構えた。
「……とはいえ、この階で止まってはいられないしなぁ。とりあえず、わたしが盾の奴らをぶち抜くから、パルトはあのキングをやれる?」
「ん……いける。」
クレアの指示にわたしが頷くと、それにガザルが異議を唱えた。
「おいおい!兎人の嬢ちゃん1人で大丈夫か?俺も一緒に……」
「いや、いい。あんたはパルトがオークキングに突っ込めるように、周りの奴らを牽制!!」
「なんでだ!俺はBランクだぞ!」
ガザルがそう言い返すと、クレアがジロリと睨んだ。
それに怯んだガザルは、しぶしぶとそれを受け入れる。
「わーったよ!ちぇっ!」
「あはは〜!まぁ、見とけばわかるよ。パルトの強さは!」
クレアはガザルにそう言うと、盾を構えるオークたちに向かって突進し始めた。
そんな彼女を無責任だと思いつつ、わたしもすぐに彼女の後を追う。
「嬢ちゃん!紅蓮が斬り込んだら、俺がスキルを放つ。合わせな!」
追いついてきたガザルがそう告げて、わたしの前に並んだ。
陣形は、クレア、ガザル、わたしの順番。
その陣形で、オークの群れに向かって突進する。
「ブレイズインパクト(炎斬波)!!!」
クレアがタイミングを見計らい、巨大な炎の斬撃を撃つ。
その炎撃がオークたちが構える盾に当たった瞬間、轟音が鳴り響いて大きな爆発が巻き起こった。
次々と吹き飛ばされ、盾持ちのオークたちは呻き声を上げる。
その間に、1つの道筋が示された。
直後にガザルがスキルを発動。
「クレイウォール(泥壁)!」
地面から盛り上がった泥の壁が、オークの間にできた隙間を広げていく。
その先には、普通のオークに囲まれたオークキングの姿が。
「駿歩!!」
オークキングの下まで示された道を、わたしは一気に駆け抜ける。
目の前で動揺しているオークたちを斬り伏せながら、オークキングの前に来ると、スキルを発動。
「駿影!!」
空歩を使った縦横斜めの無尽の立体移動。
それを駆使した動きに、オークたちは一瞬で翻弄された。
【カマイタチ(烈風刃斬)】や【ウォーターバレット(水散弾)】を交え、周りにいる手下のオークたちを斬り伏せていく。
呻き声と斬撃音だけが鳴り響く独壇場。
オークキングの下へたどり着くには、時間はそうかからなかった。
そして、そのまま流れるように渾身の剣撃を奴へと見舞う。
鈍い金属音が鳴った。
見れば、オークキングも盾を持っていて、それがわたしの剣を受け止めている。
その先で、どうだと言わんばかりに笑みを浮かべるオークキング。
それを見たわたしは、もちろんイラッとした。
「これで終わりと思ってるなら、やっぱりお前はバカな魔物だ!」
わたしの剣から冷気が漂い始めた。
同時に、剣に触れている盾が一気に凍りついていく。
オークキングもそれに気づいたが、もう遅い。
『このまま一気に凍らせてしまいましょう。』
ガイドさんの言葉に同意して、わたしは握っている剣に魔力を一気に込めた。
冷気と共に走る氷が、目の前のオークキングだけでなく、残っていたオークたちまでも飲み込んでいく。
そして、いつしかオークの群れは氷のオブジェクトと化していた。
「す……すげぇな!」
ガザルが寄ってきて、率直な感想を溢す。
その後ろでは、クレアも満足げに笑っている。
「さすが!余裕だねぇ!」
「そんなことない……2人が道を開けてくれたから。」
謙遜するわたしに対してクレアは嬉しそうだったが、ガザルはそんなことはどうでもいいらしい。
「さっさと行こうぜ……ここは寒過ぎる!」
どうやら、一定の範囲がわたしのスキルで凍りついてしまったため、気温がガクッと下がっているようだ。
自分がやった事とはいえ、確かに寒かった。
「なら、次へ行こう。まだまだ魔物は上がってくるからね!」
クレアの言葉に一同は頷くと、再び駆け出した。
だが、そんな折、事件は起きたのだ。
カチッ……
わたしの足元で何か音がした。
その瞬間、目の前の風景が一瞬で変わる。
「え……」
前にも後ろにもクレアとガザルはいない。
それに、先ほどまで居たフロアでもないことは一目瞭然だった。
ゴツゴツした岩肌。
自然に形成されたであろう鍾乳石や岩の柱たち。
「ここは……」
立ち止まり、そう溢した瞬間、後ろで巨大な咆哮が響き渡った。
とっさに振り返り、咆哮の主を見る。
そこには、真っ赤な双眸を携えた巨大な魔物が、魔物の群れとともにこちらを睨んでいた。
オークキングを倒したところまでは良かったんですが、、、
パルトはどこへ飛ばされちゃったんでしょうか!?
そして、立ちはだかる巨大な魔物と群れ。
いったいどうなってしまうのか!




