94 アノーリオンの策
94話更新です!
先日まで更新が変則的で申し訳ありませんでした!
モンスタースタンピードから街を守るため、ダンジョンの前に冒険者たちが集結します!
ダンジョンの入り口に戻ると、皆が慌ただしく動き回っていた。
「できる限り入口を閉じるぞ!大工たちはこっちだ!」
「戦えない者は街へ戻れ!女子供は急ぎ馬車へ乗れ!!」
ダンジョンの中から魔物たちが出てくるという事実は、この場にいる全員を混乱と焦りの渦に陥れていた。
急いで避難する者、ダンジョンの入口をできる限り塞ごうとする者。
皆、これから起こる惨事に備えて、各々の行動を取っている。
そんな中、後から到着したギルドマスターであるアノーリオンが、声を大にして冒険者たちを呼ぶ。
「集まってくれた冒険者たちはこちらに!」
先ほどギルドで会った時とはまるで違い、ちゃんと真面目な顔をしている。
クレアは相変わらずそんなアノーリオンを見て、鼻を鳴らしているが……。
「皆さん、集まっていただき、まずは感謝します。」
アノーリオンはそう切り出すと、これから起こること、10階層のセーブポイントから届いた情報などを冒険者たちへ伝えていく。
わたしたちは、その一番後ろでその話を聞いていた。
「10階層から連絡があったのは数刻前……。それから連絡は途絶えたままです。今後は最悪の事態を想定して事に当たります。」
アノーリオンの言葉は無慈悲にも思えたが、その判断は正しい。
数刻前から連絡が途絶えているということは、10階層のセーフポイントは壊滅している可能性が高いということなのだから。
「これから、皆さんを2班に分けさせていただきます。1つはここで漏れ出す魔物たちの対処が仕事です。そして、もう1つの班は……」
冒険者たちがざわつき始めた。
その理由がわからず、わたしがクレアをちらりと見ると、彼女はぼそりと呟いた。
「ダンジョンへ潜る班……。」
わたしはその言葉に唖然とした。
"モンスタースタンピード(魔物暴走)"とは、ダンジョン内で溢れ返った魔物たちが、外へ飛び出してくる事象だ。
もちろん、数匹がぽろぽろと……なんて規模ではなく、ダンジョン内を埋め尽くすほどの数になっているはずだ。
片方の班には、そこに飛び込め……アノーリオンはそう言っているわけである。
『確かに、その方法はモンスタースタンピードから街や人々を守るための定石の一手ではあります。』
ガイドさんもその判断は間違いないと言う。
わたしは本当だろうかと疑ったが、その戦略が作戦として成り立つためには、1つだけ条件があるらしい。
『Aランク以上の冒険者がいること。それがこの作戦を立案するための条件です。』
なるほどと思った。
確かにAランク以上の冒険者がいれば、なんとかなるだろう。
何せ、彼らは単体で万の軍隊に相当するほどの力を持つと言われているのだ。
Sランクともなれば、1人で国相手にケンカができるとすら言われている。
「くそ……また騙された……」
わたしが納得する横で、クレアが悪態をついた。
もちろん、その視線の先にはアノーリオンがいる。
「クレア……騙されたっていうのは……?」
わたしが問いかけると、クレアはこちらを見てため息をついた。
「さっきの緊急クエストの依頼……あれはわたしたちにダンジョン内へ行けって言ってたんだよ。あの野郎……これを考えてたのか……。」
クレアは再びアノーリオンを睨みつけた。
要するに、さっきギルドで受けたアノーリオンからの依頼は、わたしたち2人に対しての特別な依頼だったわけだ。
ここで魔物たちを迎え撃つのではなく、魔物が溢れるダンジョン内へ赴いて、できる限りの魔物を屠って来い。
アノーリオンは、わたしたちにそういう意味で緊急クエストを依頼したということだ。
彼の思惑を理解して、わたしは怒りが湧き上がった。
クレアから、アノーリオンには騙されるなと言われた意味が今ではよくわかる。
「でも……受けない訳には行かないよね。」
わたしが不満げにもそう溢すと、クレアもまた同じように頷いた。
「今回は幸運にもAランク冒険者がこの街におりました!紅蓮の二つ名で名高いクレア=デストロイ!!彼女です!」
他の冒険者たちを鼓舞するように、アノーリオンは声を上げて、クレアを指差した。
冒険者たちがそれにつられて振り向く。
それらの視線を浴びたクレアは、ゆっくりと歩き出した。
クレアが進む先で、冒険者たちが静かに道を開ける。
割れていく人集りの真ん中を、堂々と歩くクレアの後ろにわたしも続いた。
「クレアさん……すみません。」
目の前にきたクレアに対し、アノーリオンは深々と頭を下げたが、クレアは何も言わずに鼻を鳴らして横を向く。
アノーリオンはそんな彼女を見て、苦笑いを浮かべると、2人に冒険者たちへと向き直った。
「もし、今ここにBランク冒険者がいらっしゃれば、名乗り出てください!」
アノーリオンが冒険者たちに問うと、1人が手を挙げて前に出てくる。
「ちょいとごめんよ!」
群衆を掻き分けて前に出てきたのは、サル顔の若い男。
背中には双剣を携えており、かなり身軽な格好をしている。
「俺はBランク冒険者のガザル=ルサルスだ。」
「あぁ……あなたがいましたね。」
アノーリオンが若干残念そうな表情になった。
その理由が気になったが、アノーリオンはすぐに切り替える。
「……まぁ、実力は確かですね。では、他には!」
再び冒険者たちへと問うが、ガザル以外は誰もいなかったようだ。
避難の声が響く喧騒の中、静まり返る冒険者たちを見て、アノーリオンはポンと手を叩いた。
「では、この3人にはこれからダンジョンへ赴き、モンスタースタンピードの沈静化を図っていただきます。他の皆さんは、ダンジョンから出てくる魔物の対処をお願いします。」
その言葉を聞き、冒険者たちは自分の配置へと散らばっていった。
「あんたが紅蓮か……よろしくな。」
ガザルは初め、クレアに笑顔を向けた。
その顔は本当に猿のようだったので、つい見つめてしまった。
それに気づいたガザルがわたしを見る。
「お前さんは……?」
「え……と……わたしは……E……」
「この子はパルトだよ!わたしの相棒!」
「へぇ!紅蓮の相棒か!そりゃ大層強えんだろうよ!」
クレアがそう紹介すると、ガザルは疑いもせずに屈託のない笑顔を浮かべた。
クレアはわたしがEランクだと知っているのに、なぜ言わないんだろう。
そんな疑問が頭をよぎるが、冷静に考えればEランクだと伝えたところで、ガザルに不信感を与えるだけかもしれない。
そう思い、わたしはアノーリオンの話に耳を傾ける事にした。
「これから3人にはダンジョンへ潜ってもらいます。その際、目指してもらうことは1つです。」
「全部ぶっ殺せってことだよね!」
「い……いいえ、違いますよ。」
目を光らせて笑うクレアの規格外な発言に、アノーリオンはズレた眼鏡を直しながら続ける。
「現在、ダンジョン最奥に強力な魔力の反応を感知しています。おそらくこれは、ダンジョン内のボスであると思われます。」
「最奥……?」
「そうです。皆さんには向かい来る魔物たちは無視していただき、この最奥にいるボスであろうものを倒して欲しいのです。」
「なるほどな!ギルドはそいつが今回のモンスタースタンピードの原因だと考えているわけか!」
ガザルの言葉に、アノーリオンはこくりと頷く。
「クレアさんとパルトさんが倒したフロアボス……おそらくそれよりも最下層のボスが、現在進行形で地上へ登ろうとしている。それが今回の件に繋がったのだと……これが我々の見解です。」
『おそらく、その推察は間違っていません。』
フロアボスを倒したと聞かされてガザルが驚き、その反応を見たクレアが胸を張る。
そんな2人を横目に、わたしはガイドさんの言葉に頷いた。
しかし、同じ日に何度もフロアボスを相手にしないといけないなんて……。
何という不運であろうか。
本当なら、早く温泉に浸かってゆっくりしたいところなのに。
でも、強くなるためにはこういう事にも果敢に挑んでいかないといけないのも、また事実だろう。
それに……
「……ていうか、さっきのより強いフロアボス……ぬふふ……」
クレアの眼が完全にイっていて、ガザルが少し引いている。
その気持ちは痛いほどわかるよ、ガザルさん。
強さをより求めるクレアは、強敵を常に欲している。
普通にしていたら、めちゃくちゃ可愛い女の子なのに、こういう時は本当に怖いとすら思えるほど、一貫している。
だからこそ、わたしも挫けずに前に進めるんだけど……。
クレアを見て、わたしは自分の頬を叩いた。
温泉はいつでも入れる。
今は強くなるためにはやるべきことをしよう。
そう気合を入れたのだ。
そして、それを見たクレアとガジルもまた、切り替えたように笑う。
「では、準備が出来次第、出発をお願いします。」
頭を下げるアノーリオンに、わたしたち3人は静かに頷いた。
最奥にいる謎のダンジョンボス。
パルトたちはそいつの下に無事に辿り着き、倒せることができるのか。
連戦で不安もありますが、クレアもいるし、大丈夫でしょう!




