93 ダンジョン異変
いろいろと立て込んでしまい、更新が遅れてすみません。
ギルドは報告に来たパルトたちの一幕です。
ギルドに着き、クレアが受付に男を突き出している間に、わたしはミケルとタマルを共有スペースにあるテーブルへと案内した。
温かい飲み物を2人に手渡して、震えているタマルの背をさする。
小さいその背は小刻みに震えていて、感じていた恐怖を物語っていた。
ミケルは「よかったよかった。」と涙を流している。
そんな2人の様子を見ていたら、やっぱり怒りが込み上げてきた。
『ぶっ飛ばすのは少し早いかと思います。』
わたしの怒りに反応して、ガイドさんが忠告してくれた。
もちろん、それはわかっている。
さっきカネガをぶっ飛ばしていたら、全てが台無しになってしまっていただろう。
奴を完全に潰すなら、悪事を全て暴いて公爵に突き出すことが一番なのだ。
だから、クレアからの報告をまずは待とう。
さっき捕まえた男に証言させれば、カネガたちも終わりのはずなんだから。
だが……
「くっそぉ……!ここのギルドは腰抜けしかいない!!」
クレアが悪態をつきながらやって来て、イスにどかっと座った。
「どうしたの?」
わたしが訝しげに尋ねると、クレアはテーブルに肘をつき、その手に顎を乗せて受付を見た。
「あの男のことはこちらで引き取る。だが、こいつがやっていたことが、カネガの悪行に繋がるかはまだわからないから、一度こちらでも調査するって!!やっぱり、あいつのギルドは……くそ!」
受付嬢の口真似をしながら、最後には大きなため息をつくクレア。
それにあいつって誰のことだろう。
それについてはわからないけど、クレアの顔には珍しく怒りが浮かんでいた。
『証拠が足りません。』
ガイドさんの言葉もそう告げるし、わたしも内心ではそれに同意する。
あの男の証言だけでは証拠が足りなさ過ぎる。
タマルを攫わせたこともそうだし、ダンジョンについて帝室に報告しないことについてもそうだ。
何かしらの証拠を押さえないと、カネガの奴をどうにかするのは難しいだろう。
どうしたものかと考えながら、チラリとクレアを見ると「攫って吐かせるか……」とボソリと言ったのでわたしは少し慌ててしまう。
クレアならやりかねない……。
そう思ったからだ。
ブツブツと何かを画策し始めるクレアを見て、その恐ろしい作戦を止めようと声をかけたその時だった。
「緊急自体だ……!!」
突然、ギルドの玄関が勢いよく開かれ、男が1人駆け込んできた。
みんなが男に注目する中、わたしも同じように目を向けると、駆け込んできたのはダンジョンの入口で受付をしていた隻眼の男だった。
彼は息も絶え絶えにギルドの受付まで駆け寄ると、声を大にする。
「10階層から……魔物の群れが押し寄せているという連絡があったんだ!!早く……早くしないと……!!」
「ま……魔物の群れですか!?」
その会話を聞いて、周りがざわつき始めた。
「そうだ……!早くギルマスへ……!冒険者を集めてくれ……!!」
「わ……わかりました!!」
受付嬢は顔色を大きく変え、奥の部屋へと急いで駆け込んで行った。
その様子を見た周りの冒険者たちも、顔色を変えてある言葉を口にする。
ーーーモンスタースタンピード。
それは初めて聞く言葉だった。
ただ、冒険者たちの様子を見れば、ことの重大さが伝わってくる。
「モンスタースタンピード……まじかぁ……」
クレアもボソリと呟いた。
彼女はその言葉を知っているようで、少し驚いた顔を浮かべている。
クレアが驚くということは、やっぱりそれなりの事態であるということなんだろう。
「クレア……モンスタースタンピードって?」
わたしがそう尋ねると、クレアはハッとしてわたしを見た。
「あぁ……モンスタースタンピードっていうのは、ダンジョンでよく起こることなんだけど……」
クレアは簡単に、だがわかりやすく説明してくれた。
ダンジョン内には多くの魔力が溜まっている。
それは湧水のようにどこからか湧いていて、ダンジョンの形成を保っている。
なので、ダンジョン内の魔力は枯渇することがなく、常に魔物を生み出しているのだ。
だが、ごく稀に魔力の供給と魔物の生産のバランスが崩れることがあるそうだ。
そうなれば、魔物の生産量が増加して、ダンジョン内には魔物が溢れ返ることになる。
そして、その許容を超えた時、まるで吐き出すかのようにダンジョンの外へと魔物たちが溢れ出す。
それを"モンスタースタンピード(魔物暴走)"と呼ぶ。
『本来なら、魔物の生産量が増加することはほとんどありません。ダンジョンはそのバランスを自身で調整しているのです。しかし、そのバランスを崩すような大きな変動が起きた時、モンスタースタンピードが起こると言われています。』
大きな変動……。
それって、わたしたちがフロアボスを倒したこと……とか?
少し不安が込み上げてきて、わたしはガイドさんに尋ねていた。
自分たちが原因で、もしかしたらダンジョン内にいる人たちが危険な目に遭っているのかもしれない。
そう感じたからだ。
『いえ。フロアボスを倒しただけで、そうはならないかと思います。その辺も含めて、ダンジョンは魔力量を調節しています。』
それを聞いてホッとした反面、今回のモンスタースタンピードの原因がより気になった。
だが、それを考え始める前に執務室から出て来たギルマスがギルド内で声を上げた。
「皆さん!動ける方はゼルケイのダンジョンへ向かってください!!ことは急を要します!できる限り、知り合いの冒険者たちへ伝えながら!!もちろん、ギルドからは報酬も出します!!」
ヒョロリとした高身長と特徴的な長い耳。
眼鏡をかけたインテリ系のギルドマスターが声を上げると、冒険者たちは騒めきつつも、皆立ち上がってギルドを後にする。
「クレア……わたしたちも……。」
「……。」
声をかけたが、クレアはジッと何かを見つめているだけ。
その視線の先にいるのは、ゼルケイのギルドマスターだった。
そして、ギルドマスターもその視線の気配に気づき、こちらを見て笑みを浮かべる。
「おぉ……クレア……紅蓮のクレアではないですか!」
駆け寄って来たやさ眼鏡は、嬉しそうに声を上げた。
どうやら、彼はクレアを知っているようだ。
だが、クレア自身は再開を喜ぶことはなく、訝しげに男を見ている。
「はは……そんな目をしないでくださいよ。カネガの件は、ちゃんとこちらでなんとかしますから……。」
「……あまり信用できない。」
「まぁ、そう言わずに。わたしだってなんとかしたいと思ってたんです。」
「でも、動かなかった。」
「そう言われると……ぐうの音も出ません。」
項垂れるギルドマスターに対して、クレアは鼻を鳴らした。
やはり、この2人は知り合いのようだ。
話振りからそんな雰囲気が感じられる。
でも、クレアはギルマスのことをあまりよくは思っていないみたいだ。
2人の間には一体何があったんだろう。
そうやって2人の様子を観察していると、顔を上げたギルマスがわたしの方を向く。
「あなたは……その耳……その刀……!パルトさん!!」
落ち込んでいたはずなのに、ギルマスは突然顔色を明るくし、笑顔を向けてきた。
なんとも喜怒哀楽の激しい人だ……。
そんな印象を受けていたが、ギルマスはわたしの反応などまったくお構いなしに自己紹介を始める。
「わたしはアノーリオンと申します。見てのとおり、エルフ族です。ここゼルケイの街にて、僭越ながらギルドマスターを仰せつかっております。以後、お見知り置きを。」
丁寧に頭を下げるアノーリオンに、つられてわたしも頭を下げた。
「トゥウランのギルマスから、あなたのお噂は予々伺っておりますよ。」
にっこりと笑うアノーリオン。
それを見て、わたしはなんだか胡散臭く感じた。
それに気づいたのか、クレアがわたしの肩に手を置いて話に割り込んでくる。
「こいつに騙されちゃダメだよ。」
「そんな……騙すだなんて……」
アノーリオンは悲しそうに項垂れるが、なんだか全部が胡散臭かった。
だが、アノーリオンの話で盛り上がってばかりはいられない。
「それよりも……モンスタースタンピードの件……」
「そ……そうでした!!」
わたしの言葉に飛び上がったアノーリオンは、わたしとクレアを見てこう告げた。
「あ……あなた方に緊急クエストを発注します。受けて……いただけますか?もし受けていただけるなら、特別報酬をお出しします。」
もちろん、依頼内容はモンスタースタンピードから街を防衛すること。
集結する冒険者たちに加わり、魔物から街と人々を守り抜くこと。
アノーリオンは、わたしたちを見て少し不安そうに眉を顰めているが、わたしの気持ちは決まっていた。
このままモンスタースタンピードを放っておけば、ミケルたちにも危険が及ぶ。
それを見過ごすわけにはいかないのだ。
「もちろん……」
わたしがアノーリオンに対してそう頷くと、クレアは不服そうにため息をついた。
「そう言うとは思ってたよ……。」
肩をすくめるクレアに感謝を告げる。
「この子たちはギルドで保護しておきます。ご武運を……。」
アノーリオンのその言葉を背に、わたしとクレアは再びゼルケイのダンジョンへと向かった。
魔物が溢れかえるモンスタースタンピード。
このままでは、ゼルケイの街に危険が!
いったいどうなるのか!




