92 カネガの叫び
怒るサヌラは人知れず動き、、、
何を画策するのか。
サヌラは再び、ゼルケイのダンジョンの中へと潜っていた。
もちろん、正規の手続きなどは踏んでおらず、彼女だけが知っている入口から、人知れず静かに……。
「あのガキども……絶対に殺してやる。」
怒りが収まらないサヌラは、そう溢しながらダンジョンの最深部を目指していた。
そして、たどり着いたのは20階層。
いまだ誰も踏破し切れていないこのダンジョンの最深部にて、サヌラはボス部屋の前で立ち止まる。
15階層以降から、ゼルケイのダンジョンは洞窟のような様相に様変わりする。
そんな雰囲気には、まるで似つかわしくない仰々しい見た目にサヌラはニヤリと笑うと、懐から手のひら大のクリスタルを取り出した。
紫色に輝くその内側で、黒いモヤが蠢くそれを嬉しそうに眺めるサヌラ。
「ボスに造って貰ったこの魔石……この階層主はどうなるかしらねぇ……。」
愉悦を浮かべながら、頬を赤らめてそう溢す彼女の表情には、まるでこれから起こることを想像して酔いしれているようだった。
ゆっくりと近づくと、大きな扉に取り付けられた宝玉たちが一斉に赤く染まって、大きな音を立てて開いていく。
サヌラは中に入ることはなく、部屋の中に見えた黒い影を見て笑みを溢した。
「さて……あなたはどれだけ私たちに貢献してくれるのかしら……。」
その言葉は相手に聞こえているかはわからない。
だが、サヌラは一方的に言い終えると、持っていたクリスタルを部屋の中へと投げ入れた。
綺麗な放物線を描きながら、部屋の中心まで届いたそれは、着地するなり透き通った綺麗な音を立てて砕け散る。
その色からは想像もできないほど曇りのない清明な音が、部屋中に響き渡ると、今度は真っ黒なモヤが溢れ出していく。
その様子を見て満足げな笑みを浮かべたサヌラは、踵を返し、ボス部屋とフロアボスを背にその場を去っていく。
それに呼応するように、黒いモヤで満たされつつある部屋の扉はゆっくりと閉まり始めた。
部屋の奥で咆哮が轟いた。
それを聞いたサヌラは、表情を変えることなく姿を消した。
◆
「クレア……どこを探すべきかな……!」
走りながら、わたしはクレアにそう尋ねた。
ミケルにはタマルを助けると言ったが、タマルがどこへ連れて行かれたのかは不明だ。
カネガに連れ去られたのであれば、カネガの邸宅を目指すのが効率的かもしれないが、奴の仕業であるということはあくまでも推測でしかない。
もし違っていて飛び込めば、不敬を働いたとして罰を受けるだろう。
それだけならまだしも、周りの人たちに迷惑がかかる可能性だってある。
貴族を相手にするというのはそういうことだ。
だが、クレアはまっすぐな瞳のまま応えた。
「たぶんカネガのところだよ。」
確信めいたものがクレアにはあるのだろか。
その言葉には妙な説得力がある。
「なんでわかるの?」
再びわたしが問うと、クレアはわたしを見た。
「たぶん、私たちの動きに関係なく、奴らはタマルを狙ってたんだよ。だって、攫われるのが早すぎるでしょ?」
そのとおりだ。
もし、わたしたちが宝玉を渡さなかったことが原因ならば、タマルが攫われるまでにもう少し猶予があったはずだ。
なのに、わたしたちよりも早くミケルたちの下へと行き、タマルを連れ去った手際の良さ。
これらを考えれば、カネガたちはタマルの力に気づいており、宝玉云々に関わらず襲おうとしていた。
そう考えるのが妥当である。
「とりあえずカネガの家に行く。そこに居なければ、ボコして吐かせる。」
あ……いると確信してたわけじゃないのか……。
そう思ったが、あれやこれやと考えて何もできないよりマシだ。
クレアの行動はシンプルだが、正しいと思えた。
さっきほど歩いて来た道を戻り、カネガ邸宅まで駆け抜ける。
見えてきたのは、いつもの門兵だ。
何やら大声でこちらに向かって叫んでいる。
「お……おい!お前ら!通行料を……!」
そう叫ぶ門兵の声は、すぐに小さくなった。
そのまま、カネガの邸宅の広い庭を抜けると、わたしの目はある光景を捉えた。
「クレア……!」
「ドンピシャだね!!」
縄で縛られ、男に担がれるタマル。
その周りには数人の男の姿もある。
口にも縛られた縄のせいで、声も上げられずに泣きじゃくっているタマルを見て、わたしは怒りを覚えた。
あんなに小さい子に寄ってたかって、大の大人が何をしているのか。
だが、どうやらクレアも同じ気持ちのようだ。
クレアのスピードが突然上がる。
わたしもそれに合わせて速度を上げた。
そのままタマルを抱えた男へと向かうクレアを見て、わたしは周りにいる男たちの処理を担うことにした。
ドスッと鈍い音がした。
その音に気づいた周りの男たちが、その音の発信源に目を向ける。
だが、その瞬間にそいつらの意識はわたしが刈り取った。
バタバタと倒れる男どもの間をすり抜けて、クレアの下へと向かう。
すると、彼女はタマルの拘束を解いた後、タマルを担いでいた男の腕を捻って踏みつけていた。
「お前さ……目的は……?誰に頼まれた……?」
「ぐ……いで……いでで……!」
口調がいつもと違っていて、わたしは初めてクレアが怖いと思った。
でも、ちゃんと口を割らせるために男を意識を奪わずに拘束しているのはさすがだ。
わたしはタマルを保護し、肩を抱いたまま尋問するクレアを見た。
「おい……答えろ……。」
「わか……わかった!言うから……!」
「言えるなら早く答えろ……。」
「いで……!はい!答えます!カネガに……ここの子爵に命令されて……!」
男は簡単に口を割る。
「……理由は?」
「こいつが……いで……!すみません!この少女様が……邪魔だからって……!」
「ふ〜ん……で、他に知ってることは……?」
「ない……いでで……!ないです!ない……もうないです!ぐべっ!!」
用無しと見るや否や、クレアは男の意識を刈り取ると、タマルの肩をさすっているわたしを見て肩をすくめた。
「これでカネガの黒は確定だね。」
「うん……でも、タマルが無事でよかったよ。」
よっぽど怖かったんだろう。
いつも元気なタマルがまったく喋らないので、少し心配になるが、後から追いかけてきたミケルの姿を見ると、大声を上げて泣きながら姉の下へと走り出した。
その様子を見てホッとしていると、突然邸宅の扉が開いてカネガが飛び出してきた。
どうやら騒ぎを聞きつけて、出てきたようだ。
「貴様ら!!人の敷地で何を……って、そ……そいつらは……!」
倒れている暴漢どもを見て、カネガは焦りを浮かべている。
「お前の悪事もこれまでだねぇ。」
クレアがニヤリと笑うと、カネガは何とかシラを切ろうと必死だ。
「な……何のことだ!わたしは……な……何も知らん!」
「さすがに無理でしょ。この状況で……それにこいつが全部吐いたよ。」
「知らんものは知らん!!」
「ふ〜ん……まぁいいけど。わたしも闇魔術が解けてるし、まずはギルドに行ってくるね。」
「な……!!ま……待て……!!」
カネガは必死に止めようとするが、わたしもクレアも止まることはない。
クレアは尋問した男を軽々と担ぎ上げ、わたしに行こうと目配せする。
それに頷くと、わたしはミケルの肩を叩き、タマルをおんぶして歩き出した。
「た……頼む!待って……待ってくれぇぇぇ!」
後ろから大きく叫ぶカネガの声が、辺りに響いていた。
サヌラの行動は完璧に何かを企んでいますね。
一体何をしようとしているのか。
そして、カネガの運命やいかにw




